浴衣の朝、まだら模様のタオルと母の深呼吸
高校生の次女が浴衣を着て、夏祭りに行くことになった。
少し前まで「ダボダボのTシャツとパンツ」という頑ななスタイル以外は全拒否だった彼女が、まさかの浴衣。お洒落の「お」の字もなかった我が子の遅咲きすぎる変化に、この時を首を長くして待っていた私は、もう嬉しすぎて大張り切りである。
「ママの浴衣を着たい」と言うものだから、母の血が騒ぐ。今時の今風な着こなしにするべく、YouTubeやらインスタやらで髪飾り、ヘアアレンジ、帯の結び方を夜な夜な調べまくり、まるで「お前が祭りに出るのか」と言われんばかりの圧倒的な気合を入れようだった。
そして迎えた前日。
本番に備えて一度着付けの練習しようと約束した朝のこと。
決壊するダム
私は意気込みすぎて早起きしたのにもかかわらず、さっそく雲行きが怪しくなる。
まず、主役がいつまで経っても起きてこない。母がこんなに心待ちにしているというのに。
さらに、ようやく起きてきたと思ったら、下ろしたてのフェイスタオルを、あろうことかニキビ薬の「ペピオゲル(生地につくと盛大に漂白される)」まみれにして、綺麗なマダラ模様に染め上げてくれていたのだ。
就寝時に枕に付かないようタオルを巻く際は「古いのを使って!」と、あんなに口酸っぱく言っておいたというのに!
「買い替えたばっかじゃない!!!」
約束の時間を寝坊で雑に扱われた怒りと、この日を心待ちにしていた熱量のギャップに、私のなかの理性のダムがで音を立てて決壊した。
……って、我ながら冷静になって書き起こすと、たかが数百円のタオルに、よくぞこんなにキレ散らかしたものである。子供の頃からいじけやすいこの性格。勝手に期待して自爆する悪癖は、何年経っても直らないらしい。

まさかこのグレーのフェイスタオルがまだらになるとは、この時は知る由もない
終わらない輪廻の気配
このままのテンションで浴衣の着付け練習に突入したら、絶対によけいな小言をネチネチと言い放ち、我が家の夏祭りは開催前に血の雨が降ることになる。
脳裏にそんな予感が走った時、昔、感情をぶつけずにはいられなかった頃の、次女の怯えた表情が走馬灯のように蘇った。
次女は、私に似て人任せで自己主張が強く、有り余る個性と旺盛なエネルギーに、私はほとほと手を焼いた。キャパオーバーしては、波立つ心を小さな体にぶちまけると、決まって次女は石のように固まってしまう。恐らく、何を言っても揚げ足取られることが分かるからすくみ上がって、頭が真っ白になるのだ。
なぜ分かるかというと、私自身がそうだからである。
憤る母の前で言葉を先読みし、金縛りのようにがんじがらめになっていた幼い日の私。その記憶と、かつて恐怖で石のように固まっていた小さな次女の姿が重なる。だからこそ、再び火の粉を投げそうになった自分にハッとする。DNAの絶対的な力を目の当たりにして、激しい自責の念に駆られるのだ。
娘たちには息のしやすい世界で幸福に生きてほしいと願うくせに、今たった数百円のタオルのために娘に苛立ちをぶつけて発散しようとしている自分。
――矛盾しすぎていて、我ながらコントかよと突っ込みたくなると同時に、終わりなき輪廻に心底ゾッとした。
「もう、あんな自責の夜はごめんだ」
私は一度大きく息を吸い、そっとその場からフェードアウトした。
別室に引っ込み、YouTubeでお笑い動画を流して無理やり口角を上げ、noteを開いて他の人の温かい文章を目で追う。さらに、楽天の購入履歴を開いて、あのタオルのリアルな単価を確認。「数百円、たった数百円のロスだ、人生の微小な誤差……!」と念仏のように唱えて頭をクールダウンさせた。暴走するエンジンに、冷水を浴びせるように。

レトロな柄と色使いが気に入ってる
やわらかな風をまとうバトン
数分後、何食わぬ顔でリビングに戻ると、不思議と心は凪いでいた。
「お、いい感じじゃん?」
軽やかな気持ちで娘に浴衣を纏わせていく。「ここ持って」「わかった」、「締めるよ」「ママ苦しい!」、着付けは共同作業。2人で笑いながら悪戦苦闘するうちに、最後はすっかり表情を柔らかくして、特訓をやり遂げることができた。
娘とキャッキャと笑い合うこの愛おしい時間は、ほんの一瞬のまたたきのようなものだ。
「生きづらさのトゲ」を子どもにそのまま突き刺すのではなく、自分の代でそっと丸くしていくこと。完璧にはできなくても、こうして立ち止まり、自分の機嫌を自分で立て直しながら、娘の背中にやわらかな風を送ること。
50手前になって、ようやく私はそのバトンの持ち方に気づいたのかもしれない。
「娘には、自分を大切にしてほしい」
そう願うなら、まず私自身が、こうして自分の機嫌を丁寧に取っていくことだ。
不器用で沸点の低い私だけど。
今日という日がこんなにも楽しかったのだから、もうそれで十分だ。

家にあるリユースの半幅帯や安い兵児帯、どれにでも合った
黄緑の兵児帯でふわっとリボン返しにしたら、今っぽくて可愛いくて尊かった
親バカ💦
突然ですがCOOLさんたちが催されてる神々診断カード作ってみました☺️


