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アダルトチルドレンの夫が生まれ変わる時

夫が底付き体験をして、カウンセリングを受け始めてから10ヶ月が経った。
現在は2週間に1度の間隔で通っている。
 
それほど極端な変化があるはずはないと思ってはいるが、彼にとっては、大きな1歩ではないかと感じたことがある。
あれほど自分の感情に振り回されていた彼が、自分自身のことを解析することが多くなったということだ。
まだ不安定な時はあるが、前のように手が付けられなくなるようなことはなくなった。
 
思えば彼の様子がおかしくなったのは、離れて暮らす姉が、24年前に癌で余命半年と告げられた時からだった。
幼少期の母親からの虐待などがフラッシュバックされたのか、姉が亡くなるまでの半年間、彼は幼少期の頃の辛い思い出を毎日語り続けた。
声を荒げたり、時には涙を流しながらひたすら私に話し続けていた。
 
お葬式の夜彼は、正座する年老いた両親に生まれて初めて怒鳴った。
「俺はロボットなのか!」
 
若い頃から彼は、度々お酒を飲んでは荒れ、友人たちに羽交い絞めにされていたりすることがあったのだが、そんな彼といても、友人たちは嫌がるどころかとても楽しそうにしていたのだ。
しかしその頃から、そんな友人たちのことも彼の方から避けるようになってしまった。
 
詳しくは言えないが、彼は以前何度かテレビ出演したり、雑誌の連載をしていたことがある。
ファンの人は、彼の独創的な作品と共に、彼の人間くささに惹かれるのか、ある時期は、様々な人が工房に訪れていた。
 
自虐的な話も面白く、下手な芸人さんより数倍笑える。
そのように彼は、よく面白い話をして場を盛り上げていたが、訪れてくる人の中には、最初は緊張していたのに、態度が少しずつ逆転していく人もいた。
人が良く自己肯定感の低い彼は、いつの間にかピエロのようになってしまい、実はかなり傷つき、次第に人間不信にもなっていった。
 
さらにプライベートでは、数年前、父親が危篤との知らせを、母親ではなく親戚からの電話で初めて知り、結局父親が亡くなっても彼が実家に帰ることはなかった。
この20年以上の間そんなことの繰り返しの中で、とうとう限界が来てしまったのかもしれない。
 
しかし今も昔も彼は、どんなに心身ともに疲弊していても、製作はかかさず朝早くから毎日コツコツ続けていた。
それはきっと、幼少期から決して褒められることのない家のお手伝いを、毎日かかさずやらされていたからに違いない。
 
 彼は、まだ子供たちが小さい時から荒れると、物を破壊したり暴言を吐いていたが、自分自身のことも卑下するようなことを繰り返していた。
「俺は誰も信じない」
「こんなクズこの世からいなくなればいいんだ」
「なんで生まれてきたんだろう」
 
以前読んだ太宰治が見たという夢、まさにこのような感情なのだろうか。
 
暗い夜の海で一人で泳いでいた
岸に向かって必至に助かろうと近づくと
灯台の光が見えたので、そこに向かってけんめいに泳ぎ
やっとその灯台にたどり着く
そして灯台守の家の中を窓からそっと見ると、一家が食事をしていて
一家団らんの楽しい一時を過ごしていた気がする
それを見た時
ああ、自分は駄目だ
と思った
自分はどうしてもそのような雰囲気に馴染めない人間
見捨てられている人間だと気づき
行くあてもなく再びそっとその灯台を離れた

 
解説には「この夢は、人とつながれない孤独を感じさせる悲しい夢、心の奥底に抱いている”見捨てられている人間”という感覚。その辛さゆえに愛情を得ようとする、死に物狂いにも似た行動。しかしその人を信じて安堵することができない」とあり、周りの人々は、その感情の揺れ動きに訳もわからずに引きずりまわされて傷ついてゆき、次第に彼らを憎むようになる。彼らはその兆候を敏感に察知して“見捨てられてしまう恐怖”を抱き、周囲の人にしがみつくか反対に突き放すかして、荒れた海のように不安定な感情を鎮めようとあがきます。」
 
思えば彼は、いつも“癒し”を求めていた。
それは人にではなく、つぼみが花開き散っていく様、宇宙色に広がる夕日、優しい月明かり、いつも心で見つめていた気がする。
人を心から信じることができない、でもすがりたいのだ。

彼は今、作品作りに没頭している時が一番余計なことを考えないで済むという。
そのようにもがいてきた人生だったが、一緒に生きなおしているところだ



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