25歳で開業、8年間右肩上がり、そして倒産。これからのサロン経営者に伝えたいこと
開業後8年間、売上は右肩上がり。スタッフもほとんど辞めず、卒業式の予約は4年先まで埋まるほどの繁盛店だった「BAX'TAGE」(バックステージ)。
多くの人が「成功している」と思っていた美容室は、後に経営の大きな転機を迎え、倒産に至りました。
今回お話を聞いたのは、新潟で若くして美容室オーナーとなり、成功と挫折の両方を経験した佐藤正紀さん。
現在はオーナーではなく、サロンの従業員として現場に立つ傍ら、経営を目指す美容師に向けて自身の経験や知識を伝えています。
技術だけでは守れなかったサロン経営。倒産までのストーリーと、未来の世代に伝えたいメッセージを伺いました。
希望に満ちた下積み時代
ーーーお店を出そうと思った理由を教えてください。
佐藤さん:一番の理由は、人にとやかく言われずに、自分の好きなようにやりたかったからです。
「もっと上手くなりたい」と思っていた駆け出し時代、先輩から「モデルをたくさんやった方がいい」と言われて、お店の近くの大学生をターゲットにモデルハントを始めました。
最初の2か月くらいは、本当に誰も捕まらなくて……(笑)
当時、母親が美容室を経営していたため、店を借りて練習していました。手書きで母親の店の電話番号を書いたコピー用紙を看板代わりにして、大学生に声をかけていました。
やっと来てくれたのが2人組の女の子です。最初はすごく警戒されていたんですが、仕上がりを見て、そこから少しずつ紹介が広がっていきました。
夜中の4、5時までモデルカットをする日も珍しくありませんでした。
正直、23〜24歳のときの技術はまだまだだったと思います。でも「可愛くしてあげたい」という気持ちだけは強く持っていました。
1年で400人くらいのモデルカットをすると、だんだん人が集まるようになりました。「これなら自分でもやっていけるかもしれない」と自信が芽生えたのもこの頃です。
母とともに出店、順風満帆なオーナー時代

ーーー25歳で開業したときのことを教えてください。
佐藤さん:下積み時代、俺は母の知り合いのお店で働いていました。同僚に母の店でモデルカットをしていることを話すと、いつの間にか仕事終わりに一緒にトレーニングをするようになりました。
同じ時間を過ごすうちに「店を出すならそこで働きたい」と言ってくれる仲間も増えていきました。
タイミングよく近くに空き店舗の物件を見つけ、母と一緒に美容室をオープンしました。店名はバックステージ。直訳すると「楽屋」「舞台裏」になります。
店の名前には、2つの思いを込めました。
1つ目は、お客様の大切な日の支度をする“楽屋”のような場所でありたい。
2つ目は、美容師が技術を披露する“ステージ”のような場所でありたいという思いです。
ーーー当時の幸福度は高かったですか?
佐藤さん:非常に高かったですね。当時は「とにかく髪を切りたい」「お客様を可愛くしたい」という思いだけで仕事をしていました。美容師の技術にどっぷり浸かりたかったんです。
お店を出してから、尊敬する先輩のセミナーにも欠かさず行くし、好きなだけ業界紙を読み漁る日々。ときには営業後は店に寝泊まりしながら、トレーニングに時間を費やす。
どんなに練習しても誰にも文句を言われない環境が手に入りました。楽しくて仕方なかったですね。
右肩上がり8年間。「ずっとこのまま」だと思っていた
ーーー理想的なスタートですね。
佐藤さん:ありがたいことに経営はとても順調。4年後の卒業式の予約が埋まるくらいお客様がいました。近くの大学に入学したての1年生が先輩の話を聞いて、卒業式の予約を入れていくんですよ。
お客様が増えるとセット面が足りなくなりました。すぐに店の隣のアパート部分を改築して、美容室に取り込むほどの勢いでした。
お客様も徐々に増えていき、売上も右肩上がり。スタッフも辞めずについてきてくれました。好きなだけ技術に集中できて、美容師としてこれ以上ない環境だったと思います。
移転リニューアル後、いつの間にか変化したサロン

ーーー雲行きが怪しいと感じたきっかけはありますか?
佐藤さん:8年後、お店を新築して移転リニューアルをしたタイミングで初めて退職者が出ました。今思うと、それがきっかけでしたね。
彼女は、結婚を理由に退職を決意したようです。オープン当初からいるスタッフも歳を重ねて家庭を持ち、子どもが生まれ、ライフステージが少しずつ変わっていく時期でした。でも、オーナーの俺だけが昔と何も変わっていなかったんです。
当時は「ライフステージが変わっても、美容師としての姿勢は変えるべきではない」と本気で思っていました。
家族の元に早く帰りたい、講習に行けないというスタッフの声を「もうやる気がなくなったんだな」と受け取ってしまいました。
店が大きくなるにつれ、自分の理想と異なる部分が少しずつ目につくようになり「こんな店だったっけ?」と思うことが増えていきました。
今思えば、技術者としてではなく経営者として、スタッフの現状に合わせた働き方を一緒に考えることが大切だったと思います。
「人」と「お金」が徐々に崩れる日々
ーーー経営的にも厳しくなっていきましたか?
佐藤さん:はい。一人またひとりとスタッフが店を辞め、その分売上も下がっていきました。同時に店舗を新築したときのローンなどの固定費が重くのしかかりました。
本来俺の立場は、数字を見て、利益や返済計画を考えることも仕事なのに、プレイヤーとして技術ばかり見ていたんですよね。
社員のための会社というよりは、自分の理想を優先してしまっていたのだと思います。最初は12人いたスタッフが、6人になり、最終的には3人になりました。
1年半ほど必死に試行錯誤しましたが、流れを止めることはできませんでした。
「もう太刀打ちできない」店を閉める決意とその後
ーーー閉店を決断したきっかけはありましたか?
佐藤さん:2024年3月、その月は客足が好調で「巻き返せるかもしれない」とわずかな希望が見えたタイミングでした。
4月のある日、長く勤めていたスタッフから退職の意思を告げられます。
「もう太刀打ちできない……。」
この出来事をきっかけに経営の限界を受け入れ、倒産という決断に至りました。9月いっぱいで店を閉めることに決め、法的な手続きを進めました。
ーーーその後すぐ従業員として働いているそうですね。
佐藤さん:現在は知り合いのサロンで一従業員として現場に立っています。オーナーから従業員になって改めて気づくことも多いです。
たとえば「ウィッグひとつ買うのも、こんなにハードルが高いんだ」とか。オーナーだった過去の自分を客観視できるようになったと思います。
「自分のような悔しさを経験しないように」未来の世代に伝えたいこと

ーーーこれから経営を目指す世代へ伝えたいことを教えてください。
佐藤さん:大きく分けると2つあります。1つ目は、経営の勉強をしてほしいということです。技術と同じように経営も勉強すれば必ず習得できます。今、順調だとしても5年後、10年後のシミュレーションをしてほしい。環境は少しずつ変わっていきます。面倒がらずに数字に正面から向き合ってほしいと思っています。
2つ目は、スタッフのライフステージに合わせた働き方を考えてほしいということです。給与や労働時間、福利厚生、評価基準などをしっかり決めてほしいです。経営者の仕事は、スタッフが長く続けられる環境を整えることだと実感しました。
ーーー今後はどのように活動していきますか?
佐藤さん:現在、元美容室経営者として、アドバイスができるように日々知識を蓄えています。
俺にとって倒産は、正直大きな傷となりました。一方で、倒産して1年経った今、SNSを通じて今まで知り合えなかった美容師さんとつながる機会も増えました。
Xではこれまでの経験を等身大で綴っていますし、お声がけいただいた際はセミナーに出かけることもあります。
今後も、苦い思い出も含めて「これまで培った技術や経験が誰かの役に立つ」と信じ、活動していきます。
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順風満帆な時期だけでなく、うまくいかなかった時期の経験まで包み隠さずに語る佐藤さんの姿が印象的でした。現場と経営の両方を経験してきたからこそ、言葉の一つひとつに重みが感じられます。
現在、佐藤さんは美容師として現場に立ちながら、これまでに培ってきたカット技術や、経営の実体験をもとにしたセミナーも行っているそうです。
佐藤さんの話を実際に聞いてみたい方、セミナーや講師依頼を検討している方は、XのDMよりお気軽にお問い合わせください。
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X:@baxtage2001
Instagram:masanori.sato.mind
note:佐藤正紀
YouTube:@baxtage3715
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