第7回 小学生でもわかる投資家のための半導体入門 GPUとCPUって、何が違うの?
「AIにはGPUが必要」──この言葉は、もはや誰でも一度は聞いたことがあるだろう。だが、なぜCPUではダメで、GPUなのか。ここをきちんと説明できる人は、実は多くない。
そしてこの「なぜGPUなのか」がわからないままだと、この先の半導体投資の話が、全部「なんとなくスゴいらしい」で止まってしまう。
圧倒的王者の「NVIDIA(エヌビディア)」
世界最強の工場「TSMC」
超高速メモリの「HBM」
これらすべてが、である。逆にここさえ腹落ちすれば、AI半導体まわりのニュースが急に立体的に見えてくる。
だから今回は、いったん立ち止まって、いちばんの土台を固める。小学生に説明するつもりで、CPUとGPUの違いをやる。
この記事を読むと、次の3つがわかる。
CPUとGPUは「優劣」ではなく「役割」がまったく違うこと
なぜAIの計算にはGPUが向いているのか、その理由
そこから、投資家として1つだけ持ち帰ってほしい視点
1. CPUは「東大生が1人」、GPUは「小学生が1000人」
いちばん有名なたとえから入ろう。少し手を加えて説明する。
CPU=超優秀な大人が1人。 難しい問題でも、順番に、筋道立てて、1つずつ解いていく。複雑な判断が得意。頭の回転がとにかく速い。ただし体は1つなので、一度に1つの作業しかできない。
GPU=そこそこ計算できる小学生が1000人。 1人1人は東大生ほど賢くない。難しい応用問題は解けない。でも「九九を1000個、いっせいに解け」と言われたら、1000人が同時に手を動かして、あっという間に終わらせる。
ここで大事なのは、どちらが「賢い」とか「速い」とかではない、ということだ。役割が違う。
「複雑な問題を1つずつ」=CPUの得意分野
「単純な問題を大量に、同時に」=GPUの得意分野
パソコンでいえば、OS(基本ソフト)を動かしたり、アプリを立ち上げたり、キーボード入力に反応したり──こういう「いろんな種類の仕事を、臨機応変にさばく」のはCPUの仕事だ。今この文章を読んでいる画面も、CPUが全体を仕切っている。
2. たとえ話をもう一歩:レストランの厨房
もう少しイメージを固めよう。レストランの厨房で考えてみる。
CPUは、経験豊富なシェフ1人。 コース料理を、前菜からデザートまで、順番に完璧に仕上げる。お客さんごとにアレンジも変える。判断力が要る仕事を1人でこなす。ただし、1人なので、一度に作れる皿数には限りがある。
GPUは、同じ作業だけをやるアルバイト1000人。 「ハンバーグを焼く」だけ、とか「レタスをちぎる」だけ。1人1人は単純作業しかできない。でも「ハンバーグを10000個焼け」と言われたら、1000人がいっせいに焼くので、シェフ1人がやるよりはるかに速い。
ここで質問。「注文が1つだけ、しかも凝ったコース料理」ならどっちが向いている? ──シェフ(CPU)だ。アルバイト1000人に高級コース料理は作れない。
では「同じハンバーグを10000個」ならどっちが向いている? ──アルバイト1000人(GPU)だ。
つまり、仕事の中身によって、向いている道具が変わる。 これが本質である。
3. なぜAIの計算はGPU向きなのか
ここでようやくAIの話につながる。
もともとGPUは、キレイな「3Dゲームの画面」をものすごいスピードで映し出すために作られたチップだった。画面を映すには、無数の「画素(ドット)」の色をいっせいに計算する必要がある。つまりGPUは、生まれた瞬間から「単純な計算を大量に同時にやる」ための道具だったわけだ。
そして、この性質が、あとから登場したAIに完璧にフィットした。
AIの学習や推論の中身を、思いっきり単純化するとこうなる。「掛け算と足し算を、とてつもない回数、同時にやる」 だけだ。
もう少しだけ具体的に言うと、AIは大量の数字(パラメータ)を、これまた大量の数字と掛けて、足して、を延々と繰り返している。1回1回はただの掛け算と足し算。難しい判断はしていない。ただ、その回数が天文学的に多い。
これはまさに「単純な計算を、大量に、同時に」──さっきのGPUの得意分野そのものだ。
CPU(シェフ1人)にやらせたら → 掛け算を1つずつ順番に。終わらない。
GPU(アルバイト1000人)にやらせたら → 何千・何万の掛け算を同時進行。一気に片付く。
だから「AIにはGPUが必要」と言われる。正確には、「AIの計算が、たまたまGPUの超得意な形(単純・大量・並列)をしていたから」 なのである。CPUが劣っているのではない。仕事の種類がGPU向きだった、というだけだ。
補足:ニュースでたまに見かける「GPGPU」という言葉は、こうやって「画像以外の目的(AIなど)に使うGPU」のことだと思えばいい。GPが2つに増えて戸惑うが、中身は同じGPUである。
4. 「並列」という魔法の言葉
ここまでで一番大事なキーワードが出てきた。並列(へいれつ) だ。
「並列」とは「同時に、いっせいにやる」という意味。反対語は「直列(順番に1つずつ)」。
CPU=直列が得意(1つずつ丁寧に)
GPU=並列が得意(いっせいに大量に)
AIの計算は「並列にしやすい」。だからGPUとの相性が抜群にいい。半導体ニュースで「並列処理」「パラレル」という言葉が出てきたら、頭の中で「あ、アルバイト1000人がいっせいに手を動かす話だな」と変換すればいい。それだけで理解度がぐっと上がる。
5. 投資家として、ここだけ持ち帰ってほしい
基礎回なので投資の話は最小限にする。だが1つだけ、大事な視点を渡しておきたい。
AIブームの正体を一言でいうと、「世界中が、掛け算と足し算を同時にやる仕事(=並列計算)を、爆発的に増やしている」 ということだ。
すると、その仕事に向いた道具──つまり並列計算が得意なチップと、それを作るための材料・装置・技術──に、お金が集中して流れ込む。AIサービスで最終的にどの企業(OpenAIやGoogleなど)が勝つかはわからない。でも、誰が勝つにしても、その計算は必ず「並列に強いチップ」の上で行われる。
この「誰が勝っても使われる場所」に注目するのが、私が構造投資と呼んでいる考え方の入り口だ。GPUという道具そのものだけでなく、その道具を成り立たせている上流(材料・製造・技術)まで視野を広げると、投資の景色が変わってくる。
その具体的な話──GPUを実際に誰が作っているのか、その材料や製造をどこが握っているのか──は、次回以降でじっくり扱っていく。今回はまず、「CPUとGPUは役割が違う」「AIの計算はGPU向きの形をしている」、この2つだけ持ち帰ってもらえれば十分だ。
土台ができれば、この先の話は驚くほどスムーズに入ってくる。
本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
