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思考のコスプレ|AIへの『指示』は、自分の中の『他人』を目覚めさせる

Noteでは「マネーペニー」と名乗っているが、私のリアルの本業は、テレビの台本を書く放送作家だ。 007のマネーペニーがボンドを影で支えるように、私も普段はタレントを言葉で支える裏方に徹している。

今日は、そんな「裏方」の視点から、AIについて少し話してみたい。

日々、モニターに向かい、点滅するカーソルを眺めながら、番組のナレーションや演者のコメントを考える。だが、正直に告白すると、「素(す)の自分」のままでキーボードを叩いても、驚くほどつまらない言葉しか出てこないことがある。

「ここは盛り上げてください」 「美味しそうに食べてください」

そんな、誰でも書けるような陳腐なト書きしか浮かばないのだ。 そんな時、私は脳内でこっそりと「着替え」をする。

「もし、私が毒舌で鳴らすMCの〇〇さんだったら、このVTRを見て何て言う?」 「もし、私が斜に構えた若手芸人だったら、ここでどう悪態をつく?」

自分自身にそう問いかけ、彼らを「憑依」させてみる。すると不思議なことに、さっきまで出てこなかった「生きた言葉」が、スラスラと指先から溢れてくるのだ。

最近、生成AIのプロンプト(指示文)を書いていて、ふと気づいたことがある。 AIに精度の高い回答をさせるための定石テクニック、「#役割(ロール)を与える」という指示。

「あなたはプロのマーケターです」 「あなたはベテランの編集者です」

これを見た瞬間、点と点が繋がった。「なんだ、AIも私も、やっていることは同じじゃないか」と。

プロンプトに書き込む「#役割」は、単なるAIへの命令ではない。 これは、私たち人間が行き詰まった時にこそ使うべき、「思考のコスプレ」という技術なのかもしれない。

今回は、放送作家の視点から、この「役割」が持つ効能について、少し違った角度から考えてみたい。


たけしさんの脳内をシミュレーションした新人時代

この「思考のコスプレ」の原点とも言える体験は、私がまだ駆け出しの放送作家だった頃に遡る。 当時、私は『たけしの誰でもピカソ』という番組の台本を担当していた。

お笑い界のレジェンド、ビートたけしさん。 当然、新人作家の私が書いたボケを、たけしさんが一字一句その通りに読むわけがない。現場の「正解」は決まっている。台本のト書きに、こう書いておけばいいのだ。

(受けて、コメントお願いします)

たったこれだけ。あとはご本人が、その場の空気を感じ取り、天才的な瞬発力で爆笑をさらっていく。それが一流の現場だ。 けれど、当時の私は必死だった。まだ何者でもない自分が、レジェンドに「ただの空白」を渡すのが怖かったのだ。

「もし、ここでたけしさんがボケるとしたら、どんな角度で来る?」
「あのアート作品を見て、どう毒づいたら面白い?」

私は頼まれてもいないのに、たけしさんの思考を脳内で必死にシミュレーションし、台本の備考欄に「想定コメント」を書き連ねていた。

結局、私の書いた稚拙なボケが番組で使われることはなかった。 しかし、今にして思えば、あの「たけしさんならどう言う?」と脳に汗をかいた時間こそが、私にとっての「プロンプトエンジニアリング」の特訓だったのだと思う。

「自分」という凡庸なOSのまま考えるのではなく、圧倒的な才能を持つ「他人」のOSを無理やりにでもインストールして考える。 そうすることで、自分の力量を超えた視座が、ほんの少しだけ手に入る感覚があった。

役割は、退屈を殺す衣装 

話を現代のAIに戻そう。

「ChatGPTを使ってみたけど、当たり障りのない回答しか返ってこない」 「AIの文章はつまらない」

そんな声をよく耳にする。確かに、何も指示せずに「いいアイデアを出して」とだけ投げると、AIは優等生的で退屈な答えを返してくる。 これは、AIが「素(す)の状態」だからだ。

誰に向けて話せばいいのか、どういう立場で振る舞えばいいのか分からない時、AI(そして人間も)は、最もリスクの少ない「平均的な回答」を選ぼうとする。これがつまらなさの正体だ。

だからこそ、プロンプトには「#役割」という名の衣装が必要になる。

  • 「あなたは、辛口の映画評論家です」

  • 「あなたは、不安を抱えるユーザーに寄り添うカウンセラーです」

役割を与えられた瞬間、AIの出力する言葉の解像度は劇的に上がる。 これは単なる機能の設定ではない。AIに「人格」を憑依させる演出(ディレクション)なのだ。

私がかつて、台本を書くために「たけしさん」という人格を借りたように、AIにも「誰か」になってもらう。そうすることで初めて、平均点の壁を突破できる。

私が見ていただきたいのは、まさにココなんです!

ここで一度、私の現場の話をもう少しだけ。

「憑依」のような派手な例がなくても、
私は日常的に“役割のスイッチ”を使っている。

たとえば、今、書いている通販番組の台本でごく普通に商品の説明をしようとすると、こうなる。

「この商品の特徴は〜です」
「ここが便利で〜です」

悪くない。
でも、強くもない。

そこで私は、脳内でセールスマンの衣装を着る。

「私が見ていただきたいのは、まさにココなんです!」
「ここを見落とすと、この商品の本当の価値が伝わらないんです!」

このテンションと言い切りが入った瞬間、
言葉が“説明”から“訴求”へ切り替わる。

つまり、役割(ロール)は
文章の熱量と角度を変えるレバーでもある。

自分自身に「プロンプト」を打つ

このテクニックは、AIを使う時だけでなく、私たち自身が何かを考える時にも驚くほど有効だ。

企画書が書けない。 アイデアが浮かばない。

そんな時、私たちはつい「自分の頭」だけでなんとかしようともがいてしまう。だが、自分の引き出しの中身なんて、たかが知れている。 そんな時こそ、自分自身にプロンプトを打つのだ。

「今から自分は、スティーブ・ジョブズだ。この商品をどうプレゼンする?」「今から自分は、反抗期の女子高生だ。このサービスのどこがダサい?」

恥ずかしがらずに、脳内で本気の「コスプレ」をしてみる。 すると、「自分」という主語では絶対に出てこなかったであろう、乱暴なアイデアや、本質を突いた指摘がポロッと出てくることがある。

役割(ロール)というフィルターを通すことで、私たちは「常識」や「保身」といったメンタルブロックを外すことができるのだ。

3分でできる「思考のコスプレ」持ち帰りメソッド

ここまで読んで、
「概念は分かったけど、明日どう使う?」
と思った人のために、超ミニ版を置いておく。

やることは3つだけ。

  1. 役割を1人決める

    • 例:鬼の編集者/熱血セールス/冷笑的な視聴者

  2. その人の“3語設定”を作る

    • 口調:短く断定/愛嬌あり辛口

    • 価値観:結果最優先/視聴者目線絶対

    • 正義:時間を奪うな/メリットを出せ

  3. その役で“1行だけ”書く

    • 企画タイトルでもいい。

    • 商品のウリでもいい。

    • メールの冒頭でもいい。

これだけで、
「素の自分」が書く平均点の文章から一歩抜けられる。

結論:脳内に「劇団」を持て

プロンプトエンジニアリングとは、単にAIを操るための技術ではない。 それは、自分自身の思考を多角化するためのトレーニングだ。

AIに的確な指示を出せる人は、自分の中にも「多様な視点」を持てる人だ。 逆に言えば、AIへの指示出しを練習することは、自分の脳内に優秀な劇団員を何人も雇い入れることに等しい。

もし、仕事や創作で行き詰まったら、試してみてほしい。 画面の向こうのAIに、あるいは自分自身に、とびきりの「衣装」を着せてみることを。

「思考のコスプレ」は、閉塞感を打ち破る、一番身近で強力なエンターテインメントかもしれない。
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この武器があなたのお役に立つことを願っています。マネーペニー

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