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もう一つの世界26,創作大賞応募作品  恋するショッピングモール  6/6

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

恋するショッピングモール 6/6

 火曜日の昼は、社交ダンス、木曜日の午前は彫刻教室と、週に二回、小川さんと会っていた。
 会えば彫刻のはなしや、お互いの伴侶の話になった。
 お互い、気兼ねなく話せる。
 私は、前々から考えていたが、社交ダンスを、やめようかどうしようか迷っていた。そんな時に、ダンスの先生が、二か月後にダンス発表会を兼ねたパーティーをしますと発表した。
 クラスごとにパートナーを決めて、パーティー用の練習を次回からはじめますとのことだった。
 たいへんなことになった。やめようと思っていたのに、やめれなくなった。おまけに、踊る相手を決めなければならない。
 家に帰って妻に相談すると、
「ちょうどよかったじゃないですか。
 最後に発表会で踊って辞めれば。一区切りになるんじゃないですか。」
 たしかに、妻の言うことに一理ある。
「でも、相手をきめなければ?」
「小川さんでいいでしょ。」
 これも、簡単に言い切られた。
 どうも、妻には死んでからも頭があがらない。
 こうもいわれた。
「最初から、そうするつもりだったんでしょ。」
 痛いところを突かれた。確かにそうなればいいな、とは思っていたが、口に出しては言い出しにくかった。
「先に、電話を入れて、申し込んでおけば、次ぎに行っても困らないと思いますよ。
 私は妻に後押しされて、電話をいれた。
 話を切り出すと、小川さんはよろこんでくれた。彼女も、わたしをパートナーにと考えてくれていた。
「亡くなった主人も、きっと安心してくれると思います。」ともいわれた。
 電話を切って、妻に伝えると、
「きっと、小川さんの亡くなったご主人も安心すると思いますよ。」
 小川さんとおなじことをいった。
 どうも、女性の考え方は、男性とちがう回路でできているようだ。
 妻、小川さんに感謝しかなかった。

 次の火曜日、社交ダンスにいくと、発表会のことで、話がもりあがっていた。最初に踊る初心者クラスは、4組で参加、ブルースと、ワルツと ジルバを踊ることになった。今習っている一番簡単なステップで踊るらしい。それでも、わたしには難しかった。
 花田さんは、とうぜん、殿山が申し出て、一緒に踊ることになっていた。殿山は、うれしくてしかたないようだ。花田さんも殿山にきまって、ほっとしている。
 問題は、私たちだ、初心者同士で、なかなかうまく踊れない。あたりまえといえば、あたりまえだが、焦れば、焦るほど手と足がばらばらになって踊れない。社交ダンスは本来、男性がリードして踊るものだが、初心者の私にはとてもそこまでの技量はない。
 帰りしなに、いつもの喫茶店で殿山にそうだんすると、
「まあ、練習するしかないだろうなあ。」
 そして、一つ提案してくれた。
「どうだ、おれの知り合いが、小さなスタジオをもってるんだが、そこで特訓するなら、貸してくれると思うけどなあ。」
 わたしたち四人は、相談して、さっそく明日から練習することにした。
 家にかえって、妻にいうと、
「たいそうなことになりましたね。」と、笑っていた。
 さすが殿山だ、次の日、教えてもらったスタジオにいくと、のこり2組にも声をかけていた。みんな、殿山に感謝しながらあつまってきた。    
 初心者だけだと、どう踊っていいかわからないことがある、そのたびに、中級クラスの殿山が教えてくれた。みんなが彼に感謝、時に笑いながら、和気あいあいと練習が進んだ。
 家にかえって、妻に伝えると、
「そうですか、あの殿山さんがねえ。」と、感心していた。

 さてさて、発表会の当日になった。 
 なんとなく、緊張している私をみて、妻は、
「間違ったっていいんですよ。死ぬわけでもないんだし、楽しんできてください。」と、はげまされた。
 きっと、妻にも私の緊張感が伝わっていたんだろう。ほんとうに妻はたよりになる存在だ。
 会場で、小川さんに会った時、その話をしたら、小川さんも、
「昨日の夢の中で、主人が、大丈夫か、ちゃんと踊れるかって、心配してるんですよ。私が、大丈夫なんとかなるわよ、って、いったら、いざとなると、女性のほうが度胸があるからなあ。と笑ってました。」
 たしかにそうだ、妻にしろ、小川さんにしろ、いざとなると私以上にたよりになる。男は、案外もろい生きものかもしれない。それに、小川さんとはお互いに亡くなった相手の話が普通にでき、ダンスでも、彫刻の教室でもあうことができる。考えてみれば、不思議な縁だ。
 ダンスは、午後の1時30分からはじまった。
 始めに初心者クラスのブルースからはじまった。
 ブルースは、ダンスの基本のステップだ、四組ともミスすることなく踊ることができた。みんな、緊張感と満足感でほっとしていた。続いてジルバ、途中で間違いそうになったが、小川さんが上手にリードしてくれた。
 冷や汗ものだった。
 やっぱり、いざとなると女性のほうがしっかりしている。最後がワルツ、一番練習したステップだ。やっと、気持ちよく踊ることができた。終わった後の満足感、開放感。みんなで喜び合った高揚感は、何物にもかえがたかった。
 リタイヤしてから久々に味わった達成感だった。

 家にかえって、妻に報告した。
「リタイヤして以来、久々に緊張したよ。」
「ようございましたね、うまく踊れましたか?」
「うん、まあまあかな、でも楽しかったよ。」
 すると、妻は、
「ようございましたね。生きてるからこそ味わえるんですよ。」
 私も、そうおもった、
 ねぎらいの言葉のなかに、妻の無念さが伝わってきた。
 亡くなった妻と、こうして会えて話せるのも、わたしが生きているからだ。
「ありがとう。君のおかげだよ。」
 すなおに、感謝の言葉がでた。
 ふと、私の脳裏をよこぎった。
 家内は、もっと生きたかったんだ。
「ほかのかたは、どうでした?」
「小川さんの亡くなったご主人も、心配してたみたいだよ。
 でも、いざとなったら、女性のほうが強いとおもったよ。
 小川さんのほうが、わたしより、楽しんで踊っていたよ。」
「そうですよ。いざとなったら、女性のほうが強いんですから。」
「で、どうなさるんですか?」
「うーん、もう少し続けようかとおもってる、運動の代わりにもなるし。」
 私が、言葉を濁しながら返事すると、妻は、私の気持ちをみすかしていた。
「それがいいですよ。やめるとそれまでですけど、続けていれば、またいいこともありますから。」
  たしかに、よく考えれば、私の人生は、妻のアドバイスで成り立っているようなものだった。
 私は、感謝の気持ちをこめて手渡した。
「はい、これ。」
 小さなお地蔵さん。 
 つたない、彫り跡がのこった手彫りのお地蔵さん。
 とても円空仏とまではいかないが、わたしの真心はこもっている。
 妻は、受け取るとしばらくじっとながめていた。
「これを、わたしに?」
「そう。」
 もう一度見かえして、ぽつりといった。
「これが、わたし?」
「そう、きみだよ。
 いつも私を、見守ってくれてありがとう。」
 亡くなった妻は、じっとみつめていた。
「うれしい。」
 その一言に、実感がこもっていた。
 私も、うれしかった。
 私は、やっぱり、なくなった妻を今も愛していた。


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