もう一つの世界26, 創作大賞応募作品 恋するショッピングモール 2/6
恋するショッピングモール 2/6
翌日、昼から図書館に行くと、ぐうぜんに殿山に会った。
彼は週一回は図書館、週二回はショッピングモールに行っている。
私と彼は、ショッピングモールの話になった。
彼は、ショッピングモールのことをよく知っている。最近、ショッピングモールの中にある社交ダンススクールに通っているらしい、
そして、ある場所について、話してくれた。
「知ってるか?出会いのソファーがあるのを。」
「なにそれ?」
「おれも最近ダンス仲間から聞いたんだけど、なんでもシニア―同士の出会いのスポットがあるらしいんだ。」
「何の出会い?」
「そりゃあ 男と女に決まってるだろう。」
「へえ、そうなんだ?」
「二階の回遊路の一番奥にあるソファーらしいんだ。そこに年配の男女が集まって来て、出会いの場所になってるんだって。」
私があのご婦人と知り合った場所が、まさにその場所だった。
しかし、殿山には何も言わず黙っていた。
「そこで声を掛け合って、カップルが何組かできているらしいんだ。」
私はなにくわぬ顔できいている。
「そこになあ、一人噂になってる女性がいてなあ。」
「ふーん。」
「そこで知り合った男性から、お金を借りるらしいんだ。五万円と言うのが絶妙だろう。十万円というとちょっとした金額だけれど、一,二万ではない。まあなんていうか、貸せないこともない絶妙な金額だろう。」
「寸借詐欺かなにか?」
殿山は、ちょっと頭を傾げて、
「それが、そうでもないんだ。何回か催促すると、ちゃんと返してくれるんだ。たぶんほかの男性から借りた五万円を回しているんだと思うけれども、一応はちゃんと返してくれるんだ。」
「ふーん、面白い話だなあ。」
私は、お金のことはなにも言われなかった。
もっとも、初対面でお金のことは言わないだろう。少し親しくなってから、それとなくいってくるんだろう。
それにあの婦人がそうだとは限らない。
「どんな女性なんだ?」
「細見の上品な女性で、実はなあ、俺もその女性と知り合って、何回か会ううちに、五万円貸して欲しいと頼まれたんだ。」
殿山らしく、全然気にせずしゃべっている。
「それで、貸したのか?」
「ああ、貸した。山本なら俺の性格わかっているだろう。気にいった女性から頼まれたら、五万円ぐらい工面するだろう。」
「俺は分からんけど、お前は貸すだろうなあ。それに下心も少しあったんだろう。」
「まあな、でも最初は一カ月したら返すという約束だったんだ。
しかし、一か月後くらいからショッピングモールに来なくなって、三か月くらい会えなかったんだ。」
「それじゃあ、やっぱり寸借詐欺だろう。」
「そのまま行けば、そうなんだけど。俺は社交ダンスに行っているだろう。それで、ショッピングモールに行き続けていたら、三か月後にまた会って、五万円を催促したら。今度会った時に返すっていったんだ。
しかし信用できないだろう。
それで、家にまでついて行くといったら、急に態度をかえて、そうだ、ATMのカードを持ってるから、引き出して返します。って、それで五万円返してもらったんだ。
でも正直いって、また会いたいなあ。」
私は何て言って良いか、とりあえずは、
「お金が帰って来てよかったなあ。」と、いっておいた。
私は家に帰りつくと、その夜、亡くなった妻に殿山の話をきかせた。
すると妻は、心配そうに、
「あなたも気を付けた方が良いですよ。騙されやすい顔をしてますものね。」
私は少しむっとして言い返した。
「騙されやすい顔って、どんな顔なんだい?
私ってそんなに間の抜けた顔をしてるかな?」
亡くなった妻は可笑しそうに口に手をあて、
「いえいえ、そうじゃないですよ。あなたは女性に優しいでしょ。
だから、騙されやすいっていったんですよ。」
言い過ぎたとおもったのか、うまくとりつくろっていた。
私はもう何も話さず、夕ご飯に取り掛かった。どちらにしても『明日は図書館に行こう。』と決めていたので、ビールを飲みながらゆっくりテレビをみたかった。
亡くなったは、いつの間にか私の視界から消えていた。
何日かぶりに、私はまた昼からショッピングモールに出かけた。
金曜日の午後は、思いのほか人の数が多い、私はまず三階へエスカレーターで上がり、涼みながら、ゆっくりショップを見て回った。二階に下りブラブラ歩いて、出会いのソファーまで来た時、ご婦人はすわっていた。休憩して涼んでいるのか、左手に持った携帯電話をさわっている。
容姿は似ているが、このご婦人が、殿山のいっていた人物なんだろうか?
私は、「こんにちは。」と声をかけると横のソファーに腰掛けた。
ご婦人は、初めは私が誰だか分からず、怪訝な表情で私を見ていたが、
「ああ、前にお会いしましたね。」
思い出したのか、急ににこやかな表情に変わった。
「年を取ると駄目ですねえ、特にこういう機器は苦手で。」
彼女は、手に持った携帯電話をもてあましている。
「どうかしました?」
「ええ、電源が入らなくなって、直してもらおうと携帯ショップに来たんですけど、順番待ちで二時間ぐらいかかると言われて、一応予約は入れたんですけど、どうしようか迷っていたんです。」
「良ければ一度見ましょうか?
私もそんなに詳しくないですけど、一通り操作はできるので。」
見ると古いピンク色の携帯で、普通に開くと電源が入るタイプの携帯だ が、開けても、電源は入らない。
「なるほで、入りませんね。」
「ね、そうでしょう」
自分が正しいのが証明されて、嬉しそうに微笑んでいる。
「でも、どこが悪いのか分からないので、充電コードももってきたんです。」
「じゃあ、そこのコーヒーショップにはいりましょか?」
彼女は、一瞬怪訝な表情を見せた。
私は慌てて、
「いや、最近のコーヒーショップは、携帯の充電コンセントを各テーブルに備えているんですよ。」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、最近はコーヒーショップで若者がパソコンを使うでしょ、それでコンセントがあるんですよ。」
彼女は安心してついてきた。
私はテーブルに着くと早速携帯の充電コンセントをつないだ。
「あれ、電源ランプがつきましたね。」
彼女は不思議そうに、携帯の電源ランプを見ている。
「えっ、直ったんですか?」
充電中の携帯を見ながら、まだ不安そうにしている。
「たぶん、接触不良だとおもいますよ。なんだったら、どこかに電話してみたら。」
困った顔で思案している。
「じゃあ、私の携帯に電話してみたら、鳴ってもとらなければ、お金はかかりませんから」
こうして彼女は言われた電話番号を押して、私の携帯が鳴るのを確認した。お互いの携帯にはお互いの番号がのこったままになった。
それから、携帯が充電されている間、それとなくお互いの話しをした。
ご婦人も夫をなくして、もう五年たつようだ。
別れしなに、わたしは、それとなく聞いてみた。
「また、会えるといいですね。
電話番号もはいっているんで。」
彼女は、ちょっと困惑した顔で、
「名前のない電話にはでないんです。」
「これは失礼しました。山本です。失礼ですけど?」
「花田です。あまり電話はかけないんです。またお会いできれば。」
そう言って、彼女は席をたった。
もっともだ、どこのだれともわからないものだからなあ。
わたしもゆっくり家路についた。
家に帰ると、妻はいつものようにたずねてきた。
「きょうは、どこに行ってらしたんですか?」
わたしは、すなおにこたえる。
「ショッピングモールまで足をのばしたんだ。」
「のばしたのは、足だけですか?」
妻の勘は、あいかわらず鋭い。
「え、どういう意味?」
「鼻の下ものばしたんじゃあないですか?」
妻は、死んでもいやみをいってくる。
わたしも、なにかいいかえそうと思ったが、なにも思いつかなかった。
「ちがうよ、殿山に会いにいったんだ。
どうやら、殿山がこのまえのご婦人に、興味をもっているらしいんだ。」
「ふーん、そうなんですか。」
妻は殿山の名前をきいて、なんとなく納得した。
妻にしてみれば、殿山は、ちょっとやんちゃな不良老人にみえるらしい。
そんな殿山から、三日後に電話がかかってきた。
「よう、真面目老人、元気に生きてるか?」
あいかわらず、軽い言葉だ、
「ああ、なんとか生きてるよ。」
「いまどこにいる?」
「図書館だ。」
「そうか、おれも返す本があるから、これからいくわ。待っててくれるか?」
そして、図書館にきて私をみつけると、さっそくきりだした。
「なあ、おまえ、会ったんだろう?」
何とも、意味の通らない話しかただ。
「なにが?」
「五万円のご婦人だよ。おまえ、彼女の携帯を直しただろう。」
「何で知っているんだ?」
「おれの性格しってるだろう。
おれは、気になると、考えるよりさきに行動するタイプだろう。
だから、みかけたときに、声をかけたんだ。」
「おまえらしいなあ。」
殿山は、ニヤリとわらった。
「で、話してたら、山本って名前が出たから。
おまえも、やるもんだなあとおもって。」
「おれは別に、それに妻がうるさいし。」
「おいおい、死んでる人間が、やきもちやくか。」
殿山は、笑っている。
私は、あいまいにごまかしながら、
「で、どうなったんだ?」
「おれも、パートナーがいないだろ、だから社交ダンスに誘ったんだ。」
「おまえらしいなあ。」
「見学にきてくれて、運動にはちょうどいいですねだって。それで、もし入会金がないなら、また5万円貸そうと思ってるんだ。」
「きそうなのか?」
「きてくれるといいんだけどなあ。
またあったら、おまえからも勧めてくれよ、なあ。」
言いたいことだけをいうと、殿山は、帰っていった。
そうゆうことか、殿山は、彼女に気があったんだ。
それに、彼女が5万円の女性だったんだ。
私は、家に帰ると、さっそく妻に話した。
妻はちょっと驚いたが、
「殿山さんらしいですね。
それで、そのご婦人はなんて返事したんですか?」
「運動にはいいですね。だって。」
「たしかに。シニアーになってから、社交ダンスを始める人も多いみたいですよ。」
「入会してくれるんだったら、また、五万円貸してもいいんだっていってた。」
「殿山さんらしいですね。」
妻は、おかしそうに笑っていた。
