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もう一つの世界26,創作大賞応募作品  恋するショッピングモール 5/6

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

恋するショッピングモー 5/6

 わたしは、小川さんとわかれ、家に帰った。
 さっそく妻がきいてきた。
「今日はどちらへ?」
「ダンスだよ。行く前にいったと思うけど。」
 やっぱり、妻のほうが一枚うわてだ、
「この時間までダンスだったんですか?」
「そのあと喫茶店に入って、小川さんとしゃべってたんだ。
 君のことを、はなしてたんだよ。」
「わたしのことをですか?」
 妻は、怪訝な顔をしている。
「そうだよ。
 君のことを正直に話したんだ。」
 妻は、少し驚いて、
「どうして?
 小川さんは、信じたのですか?
 わたしは、ゆうれいみたいなものですよ。」
 でも、妻の顔はうれしそうだった。
「わたしの話を聞いて、小川さんも、亡くなったご主人と会って、話がしたいって言ったんだ。」
 わたしは、小川さんとのやりとりをすべて妻に話した。
「そうだったんですか。」
「君のことに驚いていたけど、小川さんもご主人を愛していたんだね。」
 それをきいたとたん、家内は、にっこり笑って、
「あなたも、そうなんですか?」
「なにが?」
「わたしをですよ・・・。」
 はっとして、気づいたが遅かった。
 しかたない、わたしは正直にいった。
「そうだよ、だから君と会えるようになったんだろう。」
 妻が生きているときには、一度も言ったことがなかったのに。
 内心ドキドキしていたが、妻は素直に、
「ありがとう。」と、いってきた。
「小川さんも、亡くなったご主人と、会って、話せるようになるといいですね。」
 妻は、小川さんの気持ちを思っていた。

 それから、一か月ほどが過ぎた。
 わたしは、小川さんと会っても、なにもきかなかった。
 小川さん話さなかっかった。
 しかし、ある日、ダンス教室で、わたしの耳元でこっそりつぶやいた。
「ちょっと、お話ししたいことがあるんですけど、ダンスの後でお時間いただけませんか?」
 わたしは、ちょっとおどろいたが、
「二人だけのほうがいいんですね。」
 小川さんは、小さくうなずいた。
 ダンス教室の後、殿山と花田さんは、用事があると二人連帰っていった。いった。
 どうやら、ふたりの交際は順調なようだ。
 ちょうどいい、わたしたちはいつもの喫茶店に立ち寄った。
 彼女は、落ち着いている。
 何かいいことがあったに違いない、にこにこ微笑んでいる。
 わたしは、さっそくききたかったことをたずねた。
「ご主人のことですか?」
 彼女はうなずいた。
「見えるようになったんですか?」
 彼女は、ちょっと首をかたむけた。
「夢の中で、主人と会えるようになったんです。」
 うれしそうだった。
「生きていたころと同じように、自由に話せるんです。」
 声がはずんでいる。
「主人は、交通事故で亡くなったことを、泣いて私に謝っていました。  何もしてやれないことが、悔しい、無念だって誤っては、その言葉を聞けただけでも、会えたかいがありました。」
 私は、なんていえばいいんだろう。
「会えて、話せてよかったですね。」
 その言葉しかおもいつかなかった。正直に感じたままをつたえた。
 彼女は、少し涙ぐんでいたが、
「ええ、初めは、たまたま話せたと思っていたのですが、それから毎夜、夢の中にあらわれて、話せるようになったんです。
 いまでは、毎日の出来事を普通に話せるんです。
 山本さんのおかげです。」
「いえ、わたしはなにもしていませんよ。小川さんのご主人への思いがそうさせているんだとおもいます。」
「山本さんのように、昼間にあらわれて会って話せるといいんですけど?
 どうして、夢の中なんでしょう?」
 思いつくのはひとつだけだった。
「わたしはもうリタイヤして家にいましたから。だから、昼間に、会えて話せるようになったんだとおもいます。
 ご主人は、まだ仕事をされてたんですね。だから、夜帰ってきたご主人と話す機会が多かったのでは。
 そのちがいが、そのまま現れ方の違いになっているかもしれませんね。
 それで、私は、妻に昼間に会えるし、小川さんは、夜にご主人に会えるんでんでしょうね。」
 小川さんは、しばらく考えていたが、
「そうかもしれませんね。
 でも、いまは夢の中で会えるだけでもうれしくて、夜がまちどうしくてしかたないんです。
 これも山本さんのおかげです。ありがとうございました。」
 その声がはずんでいた。
 わたしは、手助けできたことがうれしかった。
 それに、妻のことを気兼ねなく話し合える相手が出来たのがうれしかった。他人に言えないことを話し合えて、その思いを分かち合える同志ができた思いだ。普通の男女の友だちとは違った、心の交流の深さをかんじていた。
 小川さんは、まだ、話したそうだった。
「それと、このまえ円空仏を見に行った後、彫刻の先生に、彫刻を習いたい人がいる、といったら、ぜひ連れてきてください、といわれたんです。
よろしかったら、次の教室の時に一緒行きまませんか?」
 いわれて、ちょっと躊躇してしまった.
 円空仏のように自由に彫りたい気持ちがあるが、とてもじゃないが普通の仏像は彫れそうになかった。
 わたしは、正直にたずねた。
「むずかしくないですか?
 円空仏のように自由に彫れるんだったらいいんですけど。」
 小川さんは、ニッコリわらって意外なことをいった。
「わたしもそうだったんですけど、最初は仏像を彫らないんです。」
「えっ、そうなんですか?
 なにをほるんですか?」
「お地蔵さんを、彫るんです。
 お地蔵さんだったら、彫れそうな気がするでしょ。
 どんな形のお地蔵さんでもいいんです。自分で好きなお地蔵さんを自由に彫ってくださいといわれたんです。」
「それなら、彫れそうですね。」
「でしょう。」
 その顔がお地蔵さんのようにほほえんでいた。

 私は、家に帰ると、さっそく小川さんの話を妻に報告した。
「ご主人に会えたんですね。
  それは、ようございましたね。」
 妻は自分のことのようによろこんでくれた。
 多分、この世にいるはずのない自分の存在が、認められてうれしかったにちがいない。
「次に会ったら小川さんにわたしも喜んでいた、といってくださいね。」
「いっとくよ、きっとよろこんでくれるとおもう。
 それに彫刻教室にもさそわれたんだ。」
「それで、いかれるんですか?」
「どうしようか迷っている。」
 意外なことに、家内は反対しなかった。
「いかれたらどうですか。
 社交ダンスより、ずっとあなたの性格にあっているとおもいますよ。」
 さすが、わたしの妻だ、わたしの気持ちをみぬいていた。
 運動するのは健康にいいが、社交ダンスは、やっぱり殿山の趣味だ。
 わたしはもともと社交的な性格ではない。それは自分がいちばんよくしっている。社交ダンスより、ひとりで自分のペースでできる彫刻のほうが私の性格に会あっているはずだ。
「君が言うなら、そうするよ。」
『そんなことないでしょ、ご自分で、もうとっくに決めてらしたんでしょ。』
 さすがわたしの家内、ちゃんとわたしの気持ちを察していた。

 木曜日の朝の十時、私は彫刻教室に連れて行ってもらった。
 女性の先生だったとは、意外だった。
 てっきり、作務衣を着て、髭をはやした仏師が教えていると、勝手に想像していた。
 浅はかな考えだった。
 思っていたのと違って、わきあいあいとした雰囲気で、ご自宅の作業場を解放していた。生徒さんは、全員で四名、
 何でも、最初は木版画を彫っていたが、円空仏にみせられて仏像も掘るようになったらしい。はじめに、彫刻刀、ナイフ、サンドペーパーの使い方をおそわり、長さ十二センチ、五センチ角の無垢の木を手渡された。
 棚に置いてある地蔵さんの本のなかから、気に入った地蔵さんを参考にして自由に彫ってくださいといわれた。
 小川さんがおしえてくれた。
「はじめに、首の位置をきめるといいですよ。それから、角材の角をとりながら、丸めていくと自然と地蔵さんらしくなりますよ。」
 たしかに、首の位置を決めると後の作業が楽にすすめられる。ただ、首の位置をどこにするか?これが以外と難しかった。
 考えあぐねていると、先生が、
「首の位置を低くすると、可愛い地蔵さんになるし、少し高くすると、スマートな地蔵さんになりますよ。」
 わたしは、少し考えて、スマートな地蔵さんを彫ることにした。
 作業していると、時間があっという間にすぎてしまった。
 まだ、彫るというところまでいけていない。でも、充実した時間だった。 無心になれて、自分の思いを、地蔵さんの中に彫りこんでいくような気がした。
 見ると、小川さんは、観音様をほっていた。みんな彫り始めると無口になり、彫ることに集中していた。
 これは私の好きな作業だ。
 充実した時間、知らぬ間に自分とむきあえていた。
 やっぱり、こっちのほうがわたしにはあっていた。
 家に帰って妻に彫りかけの地蔵さんをみせると、
「よかったですね、わたしもそうおもいますよ。」
 とほめてくれた。



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