創作SS:虹色の処方箋
表紙画像はGeminiにて生成。
画像のプロンプトは「このSSにあう水彩画を描いて」
Geminiの創作SSです。
虹色の処方箋
「ご自愛くださいね。
微恙にかまけて
そのまま隠居なんておっしゃらずに」
若き主治医は、茶目っ気たっぷりに
そう言って診察室を後にした。
「微恙」とはよく言ったものだ。
少しばかりの熱と、身体の節々が重たい程度の
いわゆる「ちょっとした病」のこと。
七十歳を迎えた小説家の男は
自宅の書斎でひとり
原稿用紙の空白を眺めていた。
締め切りは一週間前に過ぎている。
担当編集者からの催促の電話は
体調不良を理由にすべて無視し続けていた。
正直なところ、熱はもう下がっている。
しかし、この「微恙」という免罪符が
あまりにも心地よかった。
甘美な停滞
男は、微熱の名残でぼんやりとした頭のまま
庭の紫陽花を眺めていた。
書かなければならない物語。
向き合わなければならない老い。
応えなければならない期待。
それらすべてを「体調が悪いから」という
薄いベールの一枚向こう側に押しやって
一日中寝転んでいられる贅沢。
微恙にかまけている間だけ
彼は「偉大なる作家」ではなく
ただの「労わられるべき老人」でいられたのだ。
予期せぬ闖入
ふと、窓を叩く音がした。
見れば、そこには隣家の幼い娘が立っていた。
手には、真っ赤な色鉛筆で描かれた、ぐちゃぐちゃの絵がある。
「おじいちゃん、これあげる。お熱、早く治してね」
手渡された紙には、歪な太陽と
それ以上に歪な、笑っている
「おじいちゃん」の姿があった。
男はそれを受け取り、指先でその筆圧の強さをなぞった。
再始動
「……やれやれ」
男は苦笑し、のっそりと立ち上がった。
いつまでもこの微恙という隠れ蓑に
甘えているわけにはいかないらしい。
彼は万年筆を手に取り
一週間ぶりにキャップを外した。
病にかまけて止まっていた時間は
一振りのインクと共に、再び静かに動き始めた。
おしまい。
山根あきらさんのお題でした。
最後まで記事を読んで頂き、ありがとうございました🙇♂️
