昔ばなし【竜神さまの忘れ傘】
私は異星人で地球と言う星から興味を惹く拾い物をするために宇宙船から降ろされたのです。目的は、竜神様の忘れ傘を持って帰る事でした。
降ろされた場所には大きな森が有りました。大樹は日射しを遮り日中でも薄暗く、月夜の晩は木々の間から僅かに射す月明かり以外は暗闇に近く魑魅魍魎が悪さをしに出てきそうで余程の豪胆な男でなければ森に入ろうとする者など居りません。
好奇心の強い私は興味津々で其の森に入って行きました。
道なき道は獣の通り道しか有りません。暫く進んで行くと突然開けた場所の遠くにに聳え立つ岩山が見えました。岩山の頂上は天高く大空に突き刺さっております。
中腹辺りから滝が噴き出すように流れ落ち其の水飛沫は辺りの景色を烟らせております。気が遠くなるような滝壺までの距離は図り知れません。
勿論、私は近くまで見に行きました。鳥居を潜り近くで岩山を見上げても頭がクラクラするだけで岩山の頂上は水飛沫で見える訳もなく只、その宇宙規模の雄大さに恐れを抱きながらも「忘れ傘」探しに彷徨ったものです。
【竜神さまの忘れ傘】
その昔、その地域は豊かな土地で穏やかな人々が暮らしておりました。
村の庄屋宅には当主と本妻とお妾が住んでおりました。
当主の佐久衛門は、面倒見の良い男で村人から慕われておりました。
其の妻の、涼も人柄の良い優しい女でした。
二人の間には娘、清がおりました。
清は両親の良いところを受け継ぎ誰からも愛される娘に育ちました。
さて、佐久衛門のお妾は名を里と言い、元は下働きの女でした。 顔立ちは十人並みと言う所でしょうか、目元の黒子が魅力の気立ての良い女でした。
問題は娘の留衣です。
幼少から性格が悪く優しい清を虐めるのは3才年下の留衣でした。
留衣は、何かに付けて清に悪さを仕掛けます。
ある時など眠りに就いた清を絞め殺そうとして見つかり大騒ぎになりました。
いくら何でも酷すぎると言う事で一晩、庭木に縛り付けられる罰を受けました。
母親の里の嘆きは大変なもので
「お嬢様には申し訳ない。あの子の始末は私がつけます」と言い出したほどです。
清は悩みました。
留衣の心には何が住み着いているのでしょう。
ある晩の事でした。眠りに就いた清の夢に竜神が現れ
「お清よ、お清。目覚めよ。森を通り抜け聳える山を目指して滝壺まで来るのだ。直ぐに来るのだ」と言うと消えて行った。
ハッとして目覚めた清は、真夜中も厭わず竜神の御告げのままに急ぎ家を抜け出した。
所が、気配を察した留衣も起きると清の後を追い始めた。
清は、森に辿り着くと目の前の道を只管歩き続け聳える山を目指した。
留衣も清に遅れまいと後を追います。
所が途中まで行くと突然、雨が降り出し清と留衣の間に霧が掛かったようになりました。
清がふと気づくと、側を誰かが歩いています。
銀白色の衣装を身に着けた長身の若者です。
長い頭髪は後頭部で結い上げられています。
切れ長の目は涼しく厳しさを含んでいますが、清を見る目は慈愛に満ちています。
清が立ち止まり見上げると、若者は清が濡れないように傘を差し掛けてくれています。
「清さん、こんな真夜中に森を歩いて何処へ行くのですか。
怖くはないのですか」と言葉を発する若者は、この世の人には見えません。と言っても恐ろしくは感じません。
不思議な事に清は若者から優しさを感じ
「はい、夢で竜神様から聳える山の滝壺に来るようにと言われました。
未だ遠いのでしょうか、聳える山は見えません」と答えた。
其れを聞いた若者は「では、滝壺の近くまで私が御供いたしましょう。
何か訳が有りそうですね」
清は「私には悩みが有ります。妹の留衣は私を憎んでいます。
妹の心には何か悪しき者が住み着いているのではないかと案じております。
若しも竜神様が御存知でしたら取り除いて遣りたいのです」
若者は「程なく、開けた場所に出ると聳え立つ岩山が見えるでしょう。
真っすぐに山を目指して歩くのです。淵には近づかないように」
「留衣と申す者も程なく追いつくでしょう」
と、若者は言い残すと畳んだ傘を樹の根本に立てかけ踵を返すと消えておりました。
若者が言い残した通り道を進むと聳え立つ岩山が見えました。
清が滝に着く頃には雨は上がり満点の星が輝いておりました。
「さあ、岩肌から噴き出す滝の飛沫を浴びながら、そなたの望みを念じるがよい」その様な声が聞こえたように思った清が滝壺を見下ろす場所で、留衣の為に心の重荷を取り去ってくれるよう念じていると、留衣が現れ清の後ろに忍び寄りました。
清が気配を感じて振り返ると同時に留衣が清の背中を突き飛ばしました。
「キャー.....」と言う声を残して清は滝壺に落ちて行きました。
その時、留衣は初めて大変な事をしたと気付き身体を震えが走りました。
そして、留衣は清を助けようと自らも滝壺目指して飛び込みました。
留衣の目には滝壺の水面に浮かぶ清の姿が見えました。
留衣には「姉さーん」と叫びながら滝壺の水中に落ちた自分が滝に打たれ渦に巻き込まれ、逃れようと藻掻きながら叫び声を上げている声が聞こえます。
又、自分の声でない金物を擦るような声が
「竜神様、どうか御許しをください。此の者に呪いを掛けて心に居座った悪鬼を御許しください」
留衣には訳の判らない言葉。息が苦しく手足も冷たく強張り、気を失い其の儘水中に沈んで行ったようです。
ふと気づくと満点の星空の元、姉の清と並んで寝かされている留衣。
側には、あの若者が静かに立っておりました。
清も息を吹き返し、留衣と並んで立ちました。
若者は「実は、私は此の滝に住む北の竜神だ。
清は、東の竜神と佐久衛門の妻、涼の間に出来た娘で私の許嫁だ。
佐久衛門は何も知らぬ。」
「留衣、御前の事だが、留衣の母親お里が留衣を身籠った時、竜神の使いをしていた白蛇の尾を知らずに踏んでしまった。
知らぬ事とて許せば良いものを白蛇の恨みは留衣に及んでしまった。」
「留衣の心に住み着いた悪しきものは全て滝の水と共に流され清められた。此れからは両親を大切に清の代わりを務め佳き日々を送るように」
「今までの事は、私が御前を含め皆の記憶から消し去る」
「さぁ、お留衣よ。家に帰るが良い。さらばじゃ」
と言うと、清の手を取り聳える岩山の滝の奥、洞窟へと姿を消した。
佐久衛門の養女となった留衣は数年後には婿を取り庄屋の当主を継いだ。
留衣は、あの時の記憶が、時々思い出したように蘇る。
あの時の傘はどうしたのだろう。
気になった留衣は、あの森への道を辿り始めた。
相変わらず昼間でも薄暗く不気味では有ったが、姉に一目でも逢いたい一心で歩を進めた。
突然、開けた場所が現れ遠くに聳え立つ岩山。
更に歩を進め、流れ落ちる滝の飛沫が掛かるほど近くまで行くと、急に全ての音が途切れ
「留衣、留衣。逢いに来てくれたのね」と声が聞こえた。
「姉さん、姉さん。姿を見せて」と留衣が言うと
滝の中央が割れて水の精となった清が一瞬だけ姿を見せた。
途切れた音、小鳥の鳴き声が聞こえ始めた。
留衣が元来た道を引き返し森の中を歩いていると一本の樹に立てかけられた傘を見つけた。
そう、あの時の傘。竜神が清に差し掛けた傘です。
今でも、薄暗い森の中で雨水を留め光らせています。
留衣が持ち帰った傘は、竜神を祀った祠に「竜神さまの忘れ傘」として納められ日照りの夏には祈りが捧げられ飢饉を免れたと聞きます。

宇宙は広く、たまたま宇宙船から降りた地球の一地域に伝わる話を拾いました(フィクションです)。如何でしたでしょう。
「竜神様の忘れ傘」今も何処かで祀られているのでしょうね。
宇宙船には持ち帰れませんでした。【持ち帰り厳禁】でした。
約3000文字程
最後まで御目通し頂き有り難う御座いました。
好きなものの一つにドラゴンが御座います。
今回も片桐みかん様のお題に乗らせて空想させて頂きました。
宜しく。お願い致します。
