【第45回】の「3つのお題と画像から」
『海の底にある古い劇場』
其処では毎夜8時の時を告げる鐘が鳴るとピアノの演奏が始まります。
其の日、一日の出来事や人々の営みを辿るように時には優しく穏やかに、時には激しい戦いにくれる人々を責めるかのような音色の演奏が続きます。
『世界の終わりを見た猫』
ある時、一匹の猫がゆらゆらと揺れながら降りてきました。猫はとても悲しそうな眼をしております。
ピアノは猫に聞きました「どうしたのですか、悲しそうですね」
猫は「そう、僕は何時も一緒に居た大切な家族を失いました。地上では大変な戦いが始まり、地獄の様を見ました。全てが焼き尽くされ、何もかも無くなる瞬間を見てきたのです」
「僕は、家族と此処迄きましたが逸れてしまった。アァ~僕は哀しい」
ピアノは、弾き始めました。今の猫の気持ちを慰めるかのように。
そしてピアノは「此の劇場の奥に行ってごらん」と猫に告げました。
猫が劇場の奥へと歩いて行きますと、
【記憶を編む織物屋】と看板の上がった洞窟の入口が有りました。
猫が入って行くと、優しい目をした若者がトンカラリ、トンカラリと織機の音を響かせながら様々な布地を織っています。
猫が若者の手元を見ると先日の記憶が織り込まれたところでした。
猫は「僕の記憶、その記憶を世界から消して元の時間まで戻す事は出来ませんか」若者に聞きました。
若者は「其れは出来ないよ。起きてしまったことは戻せない。先の世に置き換える事は出来るが虚しいね」と答えました。
「そうか、駄目なんだね」と猫は悲しそうに言うと目を瞑りました。
そして時は数百年前に遡ります。

『時を渡るかんざし』
螺鈿職人の若者カイは、貴族の若君から文箱の注文を受けました。 数種の螺鈿で2頭の蝶が寄り添い四季の花をあしらった漆塗りの美しい文箱が出来上がりました。
その文箱で貴族の若君と同じく公卿家の姫君との間でどれほどの回数の文が交わされた事でしょう。
しかし、最後の文を姫君が受け取ってから暫くして戦いに出掛けた若君は戦場で亡くなってしまいました。
姫君の元には螺鈿の文箱と愛しい若君の間に産まれた「蝶の姫」と呼ばれる姫が残されました。
公卿の姫君は其の後、尼になり短い一生を終えました。
蝶の姫は、祖父に引き取られ年頃となりました。
ある時、蝶の姫の元へ貴族の若君、橘の君から文が届きました。
二人は宮中の歌会始めで面識をもち惹かれあっておりました。
返歌で詠んだ文は螺鈿の文箱に入れられて届けられました。
その様な日々は延々と続き、戦の後には平和と子孫が残り歴史は繰り返され何時しか長い年月が過ぎ去りました。
その間に、螺鈿の文箱は夫々の時代の浮き沈みを見守りながら子孫と共に潜り抜けて行ったのです。
彼らの子孫、お藤と名乗る少女が産まれた家には代々受け継がれたかんざしが有りました。
簪を飾る螺鈿は蝶と時の花々で彩られておりました。
数百年前に螺鈿職人のカイによって作られた螺鈿の文箱は何時しか形を変え蝶々は何故か一頭になり簪職人の手で簪に姿を変えております。
年頃になったお藤に縁談話が舞い込み始めました。
今は下級とはいえ卑しからざる武家の末裔。
母親から仕込まれた立ち居振る舞いは決して他に劣るものでは有りませんでした。
美しさと振る舞いや言葉遣いは品位を現します。
それ故に縁談話が後を絶ちませんでした。
『一夜だけ咲く花』
相手を決めるのに困った、お藤は若者たちに問題を出しました。
「恐れ多いことでは御座いますが、わたくしを妻にと望まれます御方様には、一夜だけ咲く花を探して頂きたいのです」
「何処ぞに、一夜だけ咲く良い香りの花が有ると聞きました。名前は幻の花と呼ばれる『さがりばな』と申すそうで御座います。」
「一房、お持ち帰りくださいませ」と頭を下げました。
お藤を妻にと望む若者たちの中に朔太郎と名乗る若武者がおりました。
凛々しい顔立ちと丁寧な言葉遣いは育ちの良さを現しております。
其の日、お藤は特別に螺鈿の簪を髪に差しておりました。
朔太郎は其の簪を見て「その簪には見覚えが」と言い
「それでは『さがりばな』を探しに参ります」と言って去って行きました。
『河童の忘れ物』
朔太郎は、その足で供も連れずに街から離れた森に出掛けました。
朔太郎は森の奥、川の流れる近くの雑草を抜き取ると草笛を作り鳴らし始めた。すると川の向こうから同じように草笛を吹く音がした。
時置かずして突然、川岸の彼の足元に河童の顔が現れた。
「なんか用か」と聞く河童に
「お前さんの忘れ物は此れかい」と言って懐から大きな貝殻で出来た皿をだした。
「おう、其れ其れ。おいらの爺様が、綺麗に形を整えるのに何年もかかった皿だ。爺様の形見だ」と言って嬉しそうに頭に載せた。
朔太郎は「ところで、『さがりばな』って知っているか」
「さがりばな? 知ってるよ」
「南の島に有る。夏に咲く花だ、それも一晩咲いたら散ってしまう」
「島には船で渡らなきゃ、成らないし行っても帰って来れないかも知れない」
「そうか、まあ運を天に任せて行って見るか」
「あっ、お侍さんよ。毒蛇に注意だぜ。
お皿の礼に、此の薬を上げるよ。必ず役に立つから」
「じゃ、なんだか知らねえが。無事を祈るぜ」と言うと河童は水中へと姿を消した。
旅に出た朔太郎は「さがりばな」を持ってお藤の屋敷を訪ねた。
「さがりばな」は、辺りに良い香りを放つと消えて行った。
更に、朔太郎は懐から懐紙に包んだ物を取り出し
「これは我が家に伝わるものだが」と一本の簪を取り出しお藤に差し出した。
何と、お藤の簪と合わせると二頭の蝶が寄り添い花々と共に美しい光を放った。
其の後時代は下り、平和が続くと再び一部の愚か者によって戦いが始まった。
危うさを含みながらも、世界規模の戦いに広がるまで、お藤と朔太郎の子孫は平和に暮らしていた。
しかし、戦火は徐々に世界を巻き込み最終手段の武器が使われ全てを焼き尽くし始めた。
お藤と朔太郎の子孫は家族の猫と共に戦火を逃れて戦いの無い国、南の孤島を目指して船に乗り海に漕ぎ出した。
船から見える風景は唯、紅蓮の炎に包まれる陸地の凄まじさ絶望の極みだった。
突然の突風に横風を食らった小さな船は呆気なく転覆。
二人は抱き合い猫と共に波にのまれ海中に沈んでいった。
「海の底にある古い劇場」に辿り着いて息を引き取った猫の傍には蝶が二頭寄り添う螺鈿の簪が落ちて光を放っていた。
📝少し、無理のある筋書きかとも思うのですが、3つのお題のファンタジーと昔話を繋げて創作してみました。
お粗末では御座いますが、片桐みかん様の企画にちゃっかり乗ってしまいました。有り難う御座います。<m(__)m>
