砂浜メモリー
カラカラ、、カラカラ、、古いフィルムが回り始める。
古ぼけたシネマ、客は2人しかいない。
月が綺麗ですね
涙を拭いて語ろうか
朝陽が迎えにくるまでは
2人でいようよ、このままで
「ポエムだねぇ! 相変わらず、透わぁ。」
「詩だよ。ポエムって言うと、、何か可愛いくなるだろ。詩だよ、詩(うた)だよ。」
早苗の少し棘のある口調に、透はいつもののんびりとしたペースで答えた。
「ねぇ、あんた何であたしとこんなとこに座ってんの?つまんなくない?」
「いや、何でと言われましてもねぇ。」
「フラれた女って知ってる?愚痴ばっかりで、泣き叫んで、謂れのない罵詈雑言をぶつけ。こんな夜中の海辺では手に入れられない様なものを食べたいと言い出し、早く持ってきてとポカポカ殴るのよ。」
「いや極端にひどくない?」
「少なくてもあたしはそう!特に今夜は満月!知ってるか文系、満月は人間のアルゴリズムに影響を与え凶暴化させるんだ。きっと今夜の私はもっとひどい事が出来る!」
「狼男の正体見たり!って話?」
「馬鹿じゃない。とっととどっか行けば!って話。」
早苗はプイと横を向き、透は苦笑いした。
波の音だけが呼吸の様に繰り返し聞こえた。
「涙って枯れるんだね。」
「ん?まあ体内の水分だからね。」
「透、モテないでしょ?」
「ストレートすぎでしょ。」
「もっといい雰囲気に出来ないの?フラれた女と2人きりの夜なんよ。傷付いてんのよ。今だったら、いい感じに優しくしたらコロっといっちゃうかもだよ。」
「あー俺、そういうのはいいや。」
「何よ!まだあたしを傷つけよーっての!」
「そんな訳ないでしょ?はい。」
透はスポーツドリンクを差し出した。
この浜辺に早苗が座り込んでるのを見つけて、コンビニで色々買ってきた物のひとつ。
「そっちちょうだい!」
早苗はコンビニ袋を引ったくって缶ビールを取り出して、いきなり何度も喉が鳴る音を響かせた。
「まだハタチになったばっかだよ。そんなにアルコール耐性、無いでしょ。」
「うっさい!ハタチになって覚悟を決めて告った悲劇だぞ!あたしの事を求めてくれる人なんて、もう一生いないかも?くらい!飲まずにいられっかあ!」
月はまんまる
あの子は三角
この波が君を攫ってしまわぬように
ずっと海を見ていよう
「うっさいから!」
「酔ってんなあー。」
「酒飲んでんだから当たり前じゃん!下手な詩なんかいらない!いるのは酒!買ってこーい!」
「こんな真っ暗なトコに1人に出来ないでしょ?」
「うるさい、馬鹿!」
「それに飲み過ぎると、急性アルコール、、、」
叫んだ早苗が砂の上にどすんと落ちた。
波音の呼吸に、早苗の寝息が混ざってきた。
透はしばらく丸い月を見上げて過ごした。
その内、早苗がゴロンと寝返りを打ち背中を向けた。
波の音のBGMと満月のライトが、身体を丸める子供みたいな姿を包んでいた。
「なあ知ってるか理数系、詩や歌は愛を伝える為にあったんだぜ。つまりラブレター、愛のある手紙だ。」
早苗はいびきをかきはじめた。
「文学は謂わば愛の歴史なんだ。色んな愛があって、純粋で綺麗なのとか、ドロドロで許されないのとか、奪いとっちゃうのとか、弱みにつけ込むとか、さ。」
波音と自分の呼吸が合ってきて、何だかとても穏やかな気分だった。
だからこんな時になんてさ
ずっと知ってたから
どんなに痛いか分かるかも
誰も一生なんて無いからさ
「かの夏目漱石先生は、I love youを月が綺麗ですね、と訳したんだぜ。覚えとけよ、それくらい。」
ずずっーと鼻を啜る音が鳴り響いた。
透は吹き出した。
「何がいい雰囲気だよ。あーあ、ホントらしいわ。」
そう笑って、スポーツドリンクを飲み干した。
波の音に満月の光、その最高のステージにいる酔っ払いのヒロインは、頭の下の砂浜にまだ濡れたばかりの跡を付けていた。
そっか月は綺麗なんだ。
満月のせいでアルゴリズムが狂ってる。
だからコロッといっちゃってるんだ。
きっと、そうだ。それだけに違いない!
あたし簡単だわ。
でも、ちょっと笑えなくて、不思議と胸がドキドキするから、もう少し拗ねていようと決めていた。
Fin
