90年代ギャングスタラップを知るためのおすすめ映画
はじめに
90年代のアメリカのラッパーと聞いてまず思い浮かぶのはやはり2pacだろう。82年生まれの私がリアタイかと言えばそうでもない。高校一年生の頃、友人から渡されたおすすめmixテープなるものに2pacの「Calfornia Love」が入っていたことがきっかけで、それから何枚かアルバムを借りて聞き始めた。が、その時すでに1997年。2pacは知った時からもうこの世にはいなかった。日本ではspeedやTKサウンドなどが全盛のこの時代。いかつい!カッコ良すぎる!とハマって、2pacの出演映画「Juice」もTSUTAYAで借りて観た記憶がある。
2pacは二面性がある矛盾した人物だと言われることが多いが、彼の死後はその存在が伝説化され、一部で神格化されているような気がする。(私の中で「関羽」みたいなイメージ)2023年、25年の時を経て2pac射殺事件の犯人が逮捕されるという驚きのニュースもあった。(バッドボーイとは無関係の人物とのこと)
若い世代にとっては、90年代という時代は生まれる前か、赤ん坊の頃だったりするだろう。そんな若い世代の方に向けて、80年代後半から90年代の、いわゆるギャングスタラップを知るための入門としての映画を紹介したいと思う。ヒップホップやラッパーをテーマにした映画は無数にあるのだが、ここでは90年代のヒップホップの東西抗争に焦点を当ててみる。
All Eyes On Me
2017年に製作された2pacの伝記映画。これを観れば2pacの生涯を大体知ることができる。2pacに関連する人物としてどの映画にも大体出てくるのが、デスロウレコードで悪名高いシュグナイト、名曲「Calfornia Love」をプロデュースしたDr. DRE、ノトーリアス・ビッグ、スヌープ・ドッグだろう。
いろんな映画でこれらの人物の描かれ方を比較して観てみるとまた面白い!
シュグナイトはブラッズと深い関わりがあるので大体赤い服を着てますね。
ニューヨークで生まれ育った2pac。彼の義父はブラックパンサー党の幹部で、2pacが幼い頃逮捕される。一家はFBIから常に目をつけられていた。
大学では演劇を専攻し、シェークスピア劇をやったりしている。ニューヨークでビギーことノトーリアスビッグと出会い、友人になる。が、2pacの最初の銃撃事件の際にビギーが現場に居合わせたことから2pacは彼の関与を疑い、2pacとビギーの関係には亀裂が入ってしまう。その後2pacはビギーの妻フェイスと一緒に雑誌の表紙を飾るなどビギーに対して悪質な嫌がらせをしている。(「Hit em up」の歌詞でもフェイスを寝取ったとか歌っている)これは、ビギーが「Who Shot Ya?」という歌で自分のことを撃ったことを言っていると誤解したことが原因とも言われているが、ビギー側はこれは銃撃事件の前に作った曲だと反論している。(ノトーリアスビッグ側の映画を観るとその辺はよくわかる)
これはもう史実なのでネタバレも何もないと思うが、最後1996年の射殺事件の当時の夜の状況をかなり忠実に再現していると感じた。2pacの当時の婚約者のギダダ・ジョーンズ、これはクインシージョーンズの娘である。同じ年に製作されたドキュメンタリー「誰が2PACを殺したか?殺害事件の真相」でかなり細かく分析されているのでセットで観るといいかもしれない。

ノトーリアス・B.I.G.
タイトルそのまま、こちらは2009年に製作されたノトーリアスBIGの映画である。なんとまあ、このノトーリアスBIG役のジャマール・ウーラードは前述した「All Eyes On Me」でもノトーリアスBIG役であるw。なかなかこの巨体で演じられる人がいないのか?ノトーリアスBIG役といえばこの人になっているのか。
さて、ニューヨークのブルックリンで生まれ育ったクリストファー・ウォレスことノトーリアスBIG。厳しい母親に育てられ、幼い頃はメガネの真面目なおデブちゃん。(しかも驚きなのが、この幼い頃のビギー役をビギーとフェイスの実の息子のクリストファー・ウォレスJrが演じている!!すごい。)しかし時代は80年代後半。街で見かけるギャングスタ…真っ白に輝くナイキのスニーカー、ゴツいゴールドのリングとネックレス…とにかくカッコいい。ビギーは真面目ちゃんをやめてギャングの仲間に入り、ドラッグディーラーとして金を稼ぐことになる。80年代当時のブルックリンのベッドスタイはクラック(コカインを安価で加工した薬物)が蔓延し、ギャングがそのクラックの流通を牛耳っていた。その後バッドボーイを立ち上げるパフ・ダディと出会い、彼はドラッグディーラーから足を洗い、ラッパーとしてスターダムにのし上がっていくのだが。。
この映画に出てくる2pac役の方は全然似ていないっww。誰だかわからなかった。そしてビギーsideから映る2pacはかなり嫌なヤツに描かれていますね。製作はショーンコムズ(パフダディ)ですからね。
前述した2pacが死語神格化されて関羽的ポジになったのと比べ、ビギーはもっと人間らしい印象で、彼を取り巻く女性たちに焦点が当てられている。FATでハンサムでもないのに女にモテまくるっ!男のロマンである。元デパートの店員だったリル・キムを彼が見出し、愛人からラッパーにのし上がったと言うのはどこまで本当かな?
印象的なのはjuisyのレコーディングシーン。パフダディのススメでソウルR&Bの曲にラップを乗せることになったがビギーは気が進まない。俺はMCハマーじゃねぇ。
当時の、MCハマーやヴァニラアイスみたいなのはヒップホップじゃねぇ、もっとdopeじゃねぇと、っていうような当時の空気を感じますねぇ。結果的にパフダディの目論見は大当たりしたわけだけど。
「ready to die」「Life after Death」というどちらも彼の死を暗示させるタイトルのアルバム。しかも死後に「Life after Death」が出るとは。
彼の死は2pacの死から約半年後の1997年3月9日。この銃撃事件は今も未解決である。
2pacとノトーリアスBIG、二人の大物ラッパーの死によってヒップホップの東西抗争は終焉したと言われているが、本当に必要な犠牲だったのか?どうしても「今生きていたら…」と考えずにはいられない。

ストレイト・アウタ・コンプトン
こちらはドクター・ドレーが在籍した伝説的ラップ・グループN.W.Aの伝記映画。そしてこの3作の中で私が一番好きな映画である。N.W.Aのメンバーはイージー・E、ドクター・ドレー、アイス・キューブ、MC・レン、DJ・イェラ、アラビアン・プリンスの6人である。2pacやノトーリアスBIGが脚光を浴びるもっと前、1988年に出たN.W.Aのデビューアルバム「Straight Outta Compton」からタイトルが付けられている。
N.W.Aが生まれる背景となったのは、やはりこのタイトルにも象徴される「コンプトン」という地域の当時の荒んだ状況だろうと思う。
80年代はストリートギャングの全盛時代。ご存じの方も多いと思うが、そのギャングの代表格がクリップスとブラッズである。ギャングのチームカラーを身につけているところから、カラーギャングとも言われ、クリップスのカラーは青、ブラッズのカラーは赤である。(前述したシュグナイトはブラッズであるため、いつも映画内で赤い服を身につけている演出がされている)
そしてこのコンプトンという地域はギャングの巣窟で、ロスでも犯罪率が最も高いエリアとして認識されている。序盤、まだ学生だったアイス・キューブが乗っていた通学バスにブラッズの連中が乗り込んでくるというシーンがある。通学バスにまでギャングが乗り込んでくるなんて恐ろしすぎる街である。余談だが、このアイス・キューブ役の人似てるなぁと思ったら、なんとアイス・キューブの実の息子である!!
クリップスの一員でドラッグの売人だったイージー・E、DJとしてクラブで活躍していたドクター・ドレー、別グループでラッパーとして活躍していたアイス・キューブが中心になってN.W.Aを結成する。イージーEが中心となり自身のレーベル「ルースレス・レコード」を立ち上げて次々とヒットを飛ばし、スターダムをのし上がっていくシーンは青春映画としての趣がある。しかし、ギャラの配分の問題でイージー・E &マネージャーと他のメンバーの間で確執が生じてしまい、メンバーはバラバラに。ドクター・ドレーはシュグナイト率いるデスロウレコードに入り、大ヒットアルバム「Chronic」をリリースする。この映画に出てくる2pacはそっくりですね!グループは1991年に解散。アイス・キューブ、ドクタードレー、イージーEがそれぞれのソロ活動の中でお互いをディスり合う曲を作るほど対立してしまう。イージーEの、人間らしくどこか憎めないキャラがいいんですよね。さらにドクタードレーはシュグナイトとも対立し、デスロウを抜ける。(2pacの映画でも、シュグナイトはどちらの映画でもとにかくヤバイ奴として現れていて、2pacはデスロウを抜けたかったが抜けられなかった、という風に描かれている。)
N.W.Aというグループ名は、Niggaz Wit Attitudes(主張するニガズ(黒人)などと訳される)から、政治的なリリックも多い。ロスという地域の根強い黒人差別にも焦点が当てられていて、ただ黒人でギャングっぽい格好をしてるから、という理由だけで警察に銃を向けられる。そこから「ファック・ザ・ポリス」という曲が生まれたとか。
互いに憎み合い対立していたブラッズとクリップスが、黒人差別をきっかけに、赤と青のバンダナが結びつけられる演出が印象的。

おわりに
90年代ヒップホップ、ラッパーを主題にした映画は無数にあり、2pacとノトーリアスBIGのドキュメンタリー映画もある。が、今回はヒップホップの東西抗争に焦点を当てて3つの伝記映画をピックアップして紹介した。しかし、戦争の歴史でも明らかなように、誰だって自分に都合の悪いことは書こうとしない。主人公は美化され、特に早逝した人物の伝記は美談にされがちだ。これらの映画や番組は、全て製作者側の意図が強く出ていることを忘れずに!いろんなサイドからの映画を比較して観るのがおすすめです!
また、2pacが役者として出演している映画も結構あるんだけど、最近調べてみたら配信しているところがほとんどない!昔は「Juice」もTSUTAYAとかで借りられたのに、今は見られるチャンスがないのが残念。。
