【追記】マンガワン事件 初動対応・ガバナンスと導線設計の透明性を問う
【2026年8月4日追記】
2026.8現在、小学館サイト上に第三者委員会の報告が公開された。同時に、サイト上には導線がなかった過去の公式発表も掲載された。
第三者委員会調査報告書の受領に関するお知らせ
2026年8月3日
調査報告書(公表版)pdf
調査委員会は山本氏の件において、以下の点で人権侵害への助長または加担と評価されてもやむを得ないとの認識を示している(51p)。
a)連載休止後の山本氏への原稿料の支払いの継続
b)担当編集者による示談交渉への関与
c)常人仮面の連載開始による取引再開
報告書によると「堕天作戦」休載後、マンガワン編集室で議論されずに山本氏に原稿料の支払いを継続していたことが判明した(51p)。その後の契約解除により受領済みの報酬は全額小学館へ返還されている。
また、編集権を尊重する一方で人権問題と認識して組織的に検討する体制は組成されていなかったなどから、小学館編集部門は編集権と組織的な判断の切り分けが明確ではなく、適切な意思決定プロセスが経られなかったと調査委員会は見ている(56p)。
担当編集者の示談交渉の関与についても小学館として十分な対応ではなく、関与を即座に中止させるなどの対処を尽くしていなかったとの見方が記されている(52p)。
以下は私見となる。
原稿料支払いの継続理由として、山本氏の自死を懸念したとあるが、これは小学館として慎重に判断すべきだったと考える。規範に沿って、被害者に配慮した休載の意味を成さないのではないか。
調査報告書には2022年8月時点でも担当編集者に「内密の処理は無理のようです。(中略)これは首を吊る案件かな…と。」など同氏のLINEが付記されている(39p)。
休載後、精神的経済的に不安定となったと思われる同氏の発言から自死を懸念してただちに契約解除とせず支払いを継続した点(51p)からも、同氏は担当編集者だけでなく編集長C氏を動揺させる発言を繰り返していたとみられる。
これらにより関係者らの心理的負荷が影響し、現場が惑わされ、組織的な判断やリスク管理をさらに遠ざけた可能性を考える。結果論となるが、ほかの寄り添い方を模索できたのではないか。
緊急対応においてもおそらく複数パターンを想定した暫定措置などの権限、報告先・責任の所在や引き継ぎなど明文化されておらず、緊急時の体制に改善すべき点があったことや調査時に暫定対応の記録が不明瞭であったことが読み取れる。今後の改善を望む。
担当編集者は契約上のパートナー関係にある山本氏に寄り添うあまり、弁解の余地がないほど踏み込んでいた。示談交渉に実質的に関与があったことを示しており、個人的には明らかになった示談交渉には作為を感じる。
調査報告書から、当時いくつもの確認をすり抜ける体制の不備があったことがわかる。
コンプライアンスやハラスメントの窓口はあるが、その調査を担う専門部署がないとの報告がそれは小学館としての問題だったことを示唆している。
以下は2026.4に書いた記事であり、2026.6の進捗確認時も小学館のサイト上に本件公式発表の導線がなく、透明性を問題視したものとなる。
【2026年4月】
マンガワン事件は作家の不祥事に留まらず、出版大手が抱える組織的な倫理観の欠如と危機管理の機能不全が露呈した問題と捉える。
経緯
2020年当時マンガワンで連載中の作家(加害者)が児ポで逮捕された。以降休載。
2022年マンガワン編集部は加害者を別名で原作者として起用(1人目)。
2024年過去に強制わいせつ容疑で有罪判決を受けた別作家を新たに別名で原作者として起用(2人目)(起用の是非は調査中)。
2026年2月24日頃にSNSで高校の講師による生徒への性加害事件の訴訟内容と、加害者は漫画家で現在も別名で活動中との告発があった。
また、当事者間の示談にマンガワン編集者が関与していたという内容が拡散され、炎上。
2026年2月27日マンガワンは加害者を原作者として別名で起用していたことを公式に認め、説明とお詫びを掲載。
小学館は加害者の作品を配信停止した。
マンガワンの問題
倫理の欠如
犯罪歴のある加害者を2度も別名で起用した事実は、読者および社会に対する過去の抹消に該当する。
実務での人権軽視
被害者の公表希望を拒否した示談交渉に編集者が関与していた事実[1]は、出版社が自社のレピュテーションリスク回避を被害者保護より優先させたと判断する。
被害者が事実の公表を求めたにもかかわらず、加害者とパートナー関係を継続する対応は、優先順位を明確に示している。
性暴力で被害者が声を上げることは少ない。[2]
社会的影響力が大きいメディア企業が沈黙を強いる構造に加担した責任は重い。
小学館の問題
組織の防衛
現場の暴走を許容していたガバナンス不全と、問題発覚後の危機管理能力の低さ、広報の不誠実さという組織の問題が浮上した。
現場で発生した問題を組織が拡大させた。
問題発覚後の初動対応時、「責任を重く受け止めている」という声明はマンガワン編集部だけが発信しており、小学館にはなかった。[3][4]
また、加害者側が被害者の要求を拒否した示談交渉に編集者が介入した件についても、会社ぐるみではないとの言及のみだった。[5]
担当編集者N氏独断か編集部黙認かにかかわらず、現場の独断として問題を切り離そうとする対応は、結果として監督責任の放棄に直結した。
アクセシビリティの欠如
4月時点で小学館のGナビには本件の公式発表の導線がない。
現在は検索が困難な場所に配置されている。
公式発表の導線設計の不備、限定的に掲載される謝罪文という情報公開の姿勢は、問題風化を招く透明性欠如の証左である。
組織の構造的な問題
マンガワン編集部の別名起用は、コンプライアンスが浸透していなかったことを示す。
また、小学館は2度発生した別名起用を2026年の発覚まで認識していなかったと公表した。[6]
創作にかかわる現場は、「面白ければ多少のことは許される」という意識が生まれやすい。
経営は監視や報告の管理体制に不備があることを認識できぬまま、マンガワン編集部に契約決定の裁量を与えた。
これらが噛み合うことで組織構造に起因する不祥事が発生した。
本件は優れた作品を生むという目的を盾に、コンプライアンスの牽制機能を無効化してきた組織風土の帰結である。これにより、小学館は人権尊重を基盤とする企業の社会的信用を毀損した。
第三者委員会の報告を待つ。
■参照資料
[1]小学館、性加害の漫画家を連載起用 編集者は示談関与(日本経済新聞)
[2]第七編 犯罪被害の実態(犯罪被害の暗数と精神障害を有する者等の性犯罪被害)【PDF:6.3MB】(法務省)
[3]『常人仮面』配信停止に関するご説明とお詫び(マンガワン)
[4]マンガワンにおける原作者起用について(小学館)
[5]「週刊文春」の報道に関して(小学館)
[6]マンガワンにおける新たな原作者起用問題と第三者委員会設置について
【2026年6月14日追記】
6月現在、小学館のサイトに人権方針が追加されている。
