信用創造は、いつも価値創造を置いてきぼりにする。
これは、私たちが今の経済を考えるうえで、かなり重要な警句ではないかと思います。お金は、本来ただの紙や数字ではありません。未来に生まれるはずの価値を先取りし、それを社会の中で動かすための「信用」です。だから信用そのものが悪いわけではありません。
銀行の融資も、株式市場も、国の財政も、本来は未来の価値創造を助けるためにあります。
しかし問題は、信用の動きが価値の創造を追い抜いてしまうことです。まだ何も生み出していないのに、お金だけが先に膨らむ。
誰かが本物の価値を作っているわけではないのに、制度やや立場だけを利用して利益を抜き取る。その瞬間、経済は少しずつ不健康になります。
お金は目的ではなく、道具である
お金は、未来を作るための道具です。
新しい技術を開発する。
人を育てる。
会社を成長させる。
暮らしを便利にする。
誰かの困りごとを解決する。
そうした「価値創造」のために使われるなら、お金は社会を前に進める力になります。
しかし、お金そのものを増やすことだけが目的になると、話は変わります。
数字は増えている。
誰かの口座残高も増えている。
書類上の利益も出ている。
けれど、社会には何も新しい価値が生まれていない。これでは、ただ数字が場所を移動しているだけです。言ってみれば、経済の中でお金がぐるぐる回っているだけで、世界そのものは豊かになっていません。
制度のすき間に生まれる「中抜き」の構造
この問題は、過去のバブルや金融の話だけではありません。現代の日本にも、形を変えて残っています。
たとえば、少子高齢化による人手不足の問題があります。
本来なら、ここで考えるべきだったのは、AIやロボットを使って仕事を効率化し、生産性を高めることだったのかもしれません。人が足りないなら、少ない人数でもより多くの価値を生み出せる仕組みを作る。それこそが、未来につながる投資だったはずです。ところが現実には、安い労働力を外から呼び込み、その受け入れの間に立つ団体や業者が利益を抜いていく構造が生まれました。
もちろん、海外から来て働いている人たちを責めているのではありません。むしろ彼らは、不安定な立場の中で一生懸命働いている側です。問題は、その労働力を安価な調整弁のように扱い、制度のすき間で利益を得る仕組みの方です。
これは、本物の価値創造ではありません。
制度の網の目を利用した、所有権や利益の移動にすぎない場合があります。社会の課題を根本から解決するのではなく、その場しのぎの仕組みを作り、その途中で誰かが抜き取る。
こうした構造は、大小を問わず、あちこちに存在しているように見えます。
価値を生まない場所に、お金が流れていないか
私たちは今でも、価値を創造しない場所にお金を流し続けているのではないでしょうか。
本当に必要なのは、未来の生産性を高める投資です。
技術を育てること。
人を育てること。
現場をよくすること。
新しい仕組みを作ること。
社会の問題を、本質から解決すること。
しかし現実には、目の前の数字を整えるために、本質的ではない場所へお金が流れてしまうことがあります。
そこでは、誰かが汗をかいて価値を作っているわけではありません。
ただ制度を知っている人、立場を持っている人、間に入れる人が利益を得る。そうした経済は、一見すると動いているように見えます。
でも実際には、前に進んでいない。まるで、車輪だけが空回りしているようなものです。
理想は「価値創造」が「信用創造」を上回ること
では、私たちはどう考えればよいのでしょうか。
答えは、意外とシンプルです。
価値創造が、信用創造を上回る状態を目指すこと。
お金や信用は、未来の価値を生み出すための燃料です。しかし燃料だけを積み上げても、進むべき方向がなければ意味がありません。
まず必要なのは、
世界をこう変えたい
こんな面白いものを作りたい
この問題を解決したい
人々の暮らしを少しでもよくしたい
という夢や志です。
そこに信用が乗るからこそ、経済は強くなります。
逆に、夢も志もなく、お金だけが先に走ると、社会は中身のない数字の城になってしまいます。
偉大な企業は、数字ではなく未来を見ていた
ソニー、トヨタ、マイクロソフト、ソフトバンク。時代を切り拓いた企業や経営者たちは、単に数字を増やすためだけに動いていたわけではないはずです。
まだ誰も見たことのない商品。
まだ誰も信じていない技術。
まだ形になっていない未来。
そこに賭けたからこそ、新しい価値が生まれました。
もちろん、企業である以上、利益は必要です。利益がなければ、会社は続きません。
しかし本当に強い会社は、利益だけを見ていたのではなく、利益の先にある未来の価値を見ていたのだと思います。
次の時代を作る人
次の時代を作るのは、利権の網の目をくぐるのが上手い人ではないでしょう。
泥臭くても、ゼロから何かを生み出そうとする人。誰かの役に立つものを作ろうとする人。
まだ存在しない価値を、現実の中に立ち上げようとする人。
そういう人たちが、本当の意味で社会を前に進めるのだと思います。
これは大企業だけの話ではありません。
国だけの話でもありません。
個人も同じです。
自分の時間を、何に使っているのか。
自分のお金を、何に使っているのか。
自分の知恵や労力を、どこに向けているのか。
それは、明日の価値を作っているのか。
それとも、ただ誰かの数字の移動に付き合わされているだけなのか。
この問いは、私たち一人ひとりに向けられているのだと思います。
信用創造のスピードに、魂を追い抜かれてはならない
信用は大切です。
お金も大切です。
制度も、金融も、経済の仕組みも必要です。
けれど、それらはすべて道具です。
道具が人間の志を追い抜いたとき、社会は少しずつおかしくなります。
本来、先にあるべきなのは価値です。
夢です。
志です。
誰かの暮らしを少しでもよくしたいという、人間の願いです。
信用創造は、それを支えるためにあるべきです。
だからこそ、今一度、この言葉を胸に刻みたいと思います。
信用創造のスピードに、決して魂を追い抜かれてはならない。
