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「シュレイルの心臓を撃ち抜く者よ。」第2話


前話


ヴィゲート・ヴァン・シュレイルは1000年以上生きるヴァンパイアだった。
生まれた場所も、その姿も定かではない。しかし数ある記録の全てに、史上最強の生物であることが記されている。その確かな強さは、名を変え、国を超え、多くの場所で伝説の一つとされている。

「とはいえ眷属である私自身も、シュレイル様の全てを知っているわけではない」
ハールはカラスの姿でそう話す。
「1000年以上生きられるお方だ。眷属が生まれた時代にも数百年の差がある」
「じゃあ、ハールも?」
「私が生まれたのは273年前だ。その時には既に八人の眷属がいたはずだ」
現在、どこにいるかはハールにもわからないという。
「『真理』に囚われているシュレイル様を助けるためにも、眷属達の情報を集める」


三野里 香澄の学級に岸 与花という男子生徒が転校してくる。席は香澄の隣である。
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
与花の挨拶に笑顔で返す香澄であったが、与花は意味ありげに微笑みを返すだけだった。
その様子を外からハールも眺めていた。

与花は美少年で、運動や勉強にも秀でているためすぐに学校でも人気者の立ち位置となった。

(深夜)
「行け」
与花の一言で、黒く粘り気のある影を纏った鬼達が一斉に香澄の元へ向かっていった。
彼は陰陽師で『陰鬼・陽鬼』の2種を使役する。その夜、香澄の元に放たれたのは陰鬼である。
陰鬼が、香澄の家に着く時、屋根の上にはだらしなく足を投げ出して座る人影がいる。
「………」
陰鬼たちは、一瞬にして香澄(シュレイル状態:以下 香澄(シュ))に倒されるのだった。
「まぁ、そうだよね」
遠くの地で、与花は笑いながらそう呟く。

(翌日の朝)
高校の教室。
「おはよう、三野里さん」
「おはよう」
香澄に昨夜の戦闘の記憶はない。ハールも戦闘の様子を眺めていたが、そのことは香澄に伝えていなかった。

(回想1)
「香澄、ヴァンパイアと言われたら何を考える?」
「……血を吸うとか?」
香澄はヴァンパイアについて考える。
「まぁ、一般的なヴァンパイアであればそうだな…しかし、シュレイル様ともなると人間の血は求めない」
人間の血は、ヴァンパイアの世界ではジャンクフードに当たるらしい。
「数多くの情報の中で、人間が都合よく解釈しているものも多い。あるいは、ヴァンパイアではなく『眷属』をヴァンパイアだと勘違いし、その特徴を普及してしまった場合もある。なぜなら眷属はヴァンパイアではなく、ベースとなった体にヴァンパイアの力が宿ったに過ぎないからだ」
例として、ハールはニンニクの話をした。シュレイルは、ニンニクなど全く苦ではないらしい。ベースとなった体がニンニク嫌いだったという情報が勝手に「ヴァンパイアはニンニクを嫌う」という通説になったという。
「嘘の情報も多い中で、唯一本当のこともある。それが日光だ」
「日光?」
ヴァンパイアが日光を嫌うということは本当らしい。
「しかし、シュレイル様ともなれば日光を浴びたところで死ぬこともなければ、弱ることもない…それに香澄の場合、元は人間だ。力は弱まるが、日光で死ぬことはない」
「うん…じゃあ」
どうしてそのようなことを話し出したのか、香澄は疑問に思う。
「逆に言うと夜はシュレイル様の力が、より強く発揮されるということだ」
夜の間はシュレイルの力が強く働き、以前のように香澄の体を乗っ取るかもしれないとハールは言っていた。

それから与花は学校では平穏に生活し、夜になると陰鬼に香澄を襲わせる生活を繰り返した。その度に、香澄(シュ)は陰鬼を撃退していたが、次第に香澄の体は疲弊するようになっていった。

数日後。朝のH R前の教室。
「はぁ〜」
「どうしたの、香澄?」
市川 麗が心配そうに香澄を見る。
「なんか最近、朝から体がダルくて…」
「え、大丈夫なの?……ねぇ、与花くん」
登校してきた与花に、麗は話しかける。
「それは心配だね」
「まぁ最近色々あったから…」
香澄はここ最近のことを思い出し、心労が耐えない生活にため息をつく。
その様子を見て与花は不敵に笑うのみだった。

その夜、与花は陰陽師の正装に着替え、香澄の元へ行く準備をしていた。
「シュレイルの心臓が、どの程度のものかわかった…」
陰鬼を引き連れ香澄の元へ向かうが、そこにいたのはシュレイルの能力に操られていない香澄本人であった。
「来たな、陰陽師よ」
「カラス……シュレイルの眷属か」
与花は動じることなく、香澄の前に立つ。
「香澄?」
「こんばんは、与花くん」
香澄は与花に笑顔を見せる。
「僕を殺すのか」
「まさか」
香澄は頭を振って、それを否定する。
「与花くんとは仲間になれると思って」
「は?」
香澄の思わぬ提案に、驚きを隠せない与花。
「僕は毎晩、君に陰鬼を仕向けていたんだよ?」
「うん、知ってる。ハールにさっき聞いたから」
ハールはゆっくりと旋回し、香澄の肩に乗る。
「でも与花くん、太陽の光が出ているときは私を襲わなかった」
与花の顔が曇る。
「それに今も、私自身には攻撃してこないじゃん。こんなチャンスなのに」
与花の背後に控えていた陰鬼たちも大人しく佇むのみだった。
「……なるほどな。そう思われても仕方ないか」
「だからね、与花くん。わたしの味方になってほしいの」
「味方ね…」
渋い表情を浮かべ、香澄を一瞥する与花。
「どうして僕が承諾すると思った?」
「うーん、なんとなく」
一呼吸おき、香澄は続ける。
「与花くん、いい人そうだし」
その一言に与花は声を上げて笑った。
「完敗だよ。君は、シュレイルの心臓を持つべき人間じゃない」

与花はその場に座り込む。
「真理までの道中、君に協力すると約束しよう」
与花は笑いながらそういった。
「まぁ、元々君を殺すつもりはなかったよ。僕は陰陽師であって、人殺しではないからね」
「ただ『真理』には興味があるんだ……どうしても、知りたいことがある」
ふと、真顔になる与花だったが、またすぐに表情を緩める。
「香澄には僕が『真理』に近づくための手助けをしてほしい。約束してくれるか」
「もちろん」
香澄と与花は固く握手を交わした。

第3話


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