見出し画像

VIVA誕生祭18th─​予算は1万円─

私、失敗しないので。

台所に入った私は心のなかで呟いた。
今日は1週間遅れの末っ子の誕生祭だ。
脳内でイメトレは済んでいる。


私はこの日を迎えるまで、いくつもの戦いを乗り越えてきた。

2月21日末っ子の誕生日当日。
私は39℃の熱にうなされ家の中はカオスだった。

25日水曜日。
ラムチョップを求めて肉屋へ行くも、「置いてないし入荷の見込みもない」との返事。
しかし、ショーケースにあったラム肩ロース焼肉用を見てひらめく。
「この焼肉用、塊のまま買えますか?」
店員は一瞬目を丸くした。
結果、予約成功。

26日木曜日。
登校日だった末っ子を送り出し、スポンジを焼いた。
フランスパンの生地を仕込んで冷蔵庫でじっくりと発酵させてある。

27日金曜日。
今日は決戦の日。
肉は今朝、受け取った。
張り切ると滑るのが私の流儀だが、今日は許されない。
だって、誕生祭だから。


ファンファーレが鳴った

おもむろにシンク下の右扉を開け、剣(包丁)を引き抜いた。

ラム肩ロースに塩コショウとオールスパイスを振り、耐熱バッグに押し込んで低温調理の鍋へ沈める。

スポンジを三枚にスライスし、シロップを塗りたくり生クリームといちごを挟んで休ませ、フランスパンを成形して二次発酵させる。

付け合わせのサラダを作り水気を切り、ケーキを仕上げて冷蔵庫へ押し込み、フランスパンを焼き上げる。

低温調理から肉を引き上げ水分をふき取り、60度のオーブンで一時間乾かす間に、野菜を刻んで炒め、オレキエッテと共に煮てスープを作る。

肉汁にはバルサミコと赤ワインを加え煮詰め、バターを溶かし込み、肉を自作スモーカーで10分間スモークして休ませる。

その間に前菜の盛り付け、モッツァレラとトマト、生ハムを白い皿に、メインはベビーリーフとラムを並べソースをたらす、スープも器に注ぎ入れる。

焼き上がって間もないフランスパンをカットし、ワインクーラーにハウメセラを。

ハァハァハァ…まだ、包丁を引き抜いただけで、始まっていない。手順を確認しただけで息切れした。


実際には、なんてことはない。一つずつ、ゆっくり作った。

昨日焼いておいたスポンジは、午後になってから組み立てる。
シロップにはホワイトラムと苺の果汁を混ぜたアンビバージュをたっぷり。用意した分全部、しっかりと染み込ませる。

中には規格外の苺を一パック、惜しみなく並べた。

形は不揃いでもちゃんと甘い。
切って挟むなら形は関係ない。

仕上げには、もう一パックの綺麗な苺を飾る。
ちいさな工夫である。

1段目に規格外を惜しみなく1パック

冷蔵庫からフランスパンの生地を出して成形する。
今日も卒業式の練習で登校日だった娘を、2時15分に迎えに行く。冷たい生地の二次発酵を待つには、ちょうどよい暇つぶしだ。

帰ってくると、発酵は8割ほど進んでいた。230℃にオーブンを予熱するのは時間がかかる。続きは常温で発酵させることにする。

フランスパンは、いまだにあまり上手くない。毎回、少し緊張する。

予熱の段階でオーブントレイを2枚入れる。下段には熱湯を注いで蒸気を出す。上段にはオーブンシートを敷いた生地を滑り込ませる。

一箇所だけ、ちゃんとクープが開いた。
それだけで少し嬉しい。

けれど、オーブンの奥の焼き色が焦げ手前で危なかった。

クープ、少し焦げ気味。

受け取ったラムは、想像より大きかった。
三女に見せると「おー!いいじゃん」と声が弾む。三女はラムが大好きだ。だから肉屋で交渉して、焼肉用を塊で手に入れた。

実は前日、嬉しいことがあった。
高校の副教材費が余り、3,169円の返金があったのだ。

100g450円のラム。630g。
副教材費で買えた計算になる。

塩コショウ、ガーリックパウダー、オールスパイスを擦り込み、ジップロックに入れて空気を抜く。
63℃で1時間半、低温調理。
その後、60℃のオーブンで1時間乾燥させる。

100均のボウル二つで作った自作スモーカーに、りんごのチップを入れて10分スモーク。換気扇は全開で。

自作スモーカー。つまみ、デカすぎ。
スモーク後

ソースは、肉汁に冷凍しておいた前の飲み残しの赤ワインを加え、バルサミコ、醤油、蜂蜜とともに煮詰める。
仕上げにバターを少しだけ溶かし混ぜた。


スープは、トマトの入っていないミネストローネ。
玉ねぎ、人参、セロリ、じゃがいも、ベーコンを小さく刻み、焦がさないようにじっくり炒める。よく炒めると、野菜から甘みと旨味がきちんと出る。

コンソメキューブと水を加えて沸かし、オレキエッテを少しだけ入れた。

時計は18時を回っている。

冷蔵庫に、キャンプの時に買ったまま未開封の生サラミがあるのを思い出す。3個で1000円の、あれだ。

前菜に出そう。

それに合わせて、予定になかったセロリのマリネを急きょ作る。

筋を取って薄切りにしたセロリと、小さく刻んだレーズンを、オリーブオイル、レモン汁、塩、マスタードで和える。

セロリの香りとレーズンの甘みを、生サラミで包んで食べる。
複雑で、美味しい。

ラムに添えるサラダも、ちぎって氷水にさらし、水気を切った。

セロリの葉は捨てずに、ジェノベーゼにする。
刻んで、オリーブオイルとにんにく、粉チーズを合わせて撹拌した。


前菜の皿は冷蔵庫から出す。
メインとスープの皿は、50℃に設定したオーブンで温めておく。

前菜を盛り付ける。

セロリのマリネをこんもりと。
二つに折った生サラミを三枚。
角切りのモッツァレラと、くし切りのトマトをランダムに重ねる。

最後に、セロリのジェノベーゼを添えた。

前菜

頃合いを見計らってスープを盛る。
最後に、パセリを散らす。

フライパンに砂糖を少し入れ、カラメルになったところで、くし切りにしておいたリンゴを加えてじっくりソテーする。
仕上げにバターをまとわせる。

リム皿にベビーリーフとサニーレタスのサラダを盛る。
マッシュルームをスライサーで薄切りにして乗せる。

皿と一緒に保温しておいたラムをカットし、二切れを並べる。
ソースを垂らし、ソテーしたリンゴを添えた。

ラムとリンゴのソテーは一緒に食べる

レストランのように、一品ずつ出した。
私も座って一緒に食べるので、次の料理まで少し間隔は空く。

でも、冷たいものは冷たく、温かいものは温かく食べてもらいたかった。
だから、このペースで出すのが正解だと思った。

最後にケーキ。
たっぷりのクリームといちご。
シロップの染み込んだスポンジはしっとりと柔らかい。
良い誕生祭になった。

前菜とケーキにはスパークリングワインを合わせ、ラムには赤ワイン。
食後にハイボールを一杯。

腰掛けていたソファにゴロリと転がると、三女に再三「そこで寝ないでね」と注意された。
気づいたら、真っ暗なリビングで毛布をかぶっていた。
やっちまったなぁ。


さて、集計しよう。

・ラム:3,200円
・ケーキ材料:2,000円
・前菜:1,100円
・スープ:500円
・ラムの付け合せ:600円
・ワイン二本とカルピス:1,800円

合計9,200円。

調味料や油などは計算に入れていない。1万円で十分間に合った。

スパークリングワインは、ハウメセラブリュットがやまやで780円と手ごろだった。
赤ワインもスーパーでチリのカルメネールが600円ほど。

副教材費が戻ってきたので、実質6,000円。
1人当たり1,500円のディナーだ。安い。


─キャンパーの寄り道日記vol.6─

いいなと思ったら応援しよう!