ドデカ海老フライ建築現場【実録】〜1尾の限界を超え、私は「巨像」を造る〜
海老フライ用に売っている大きめサイズの海老、家族の財布を握っている私はその前で立ち止まってはため息をつき、豚こまコーナーへと足を向けるのがいつものルートだ。
だが、今日は違う。
私は大海老を無視してスーパー独自のパック詰めされた、はかり売りのバナメイエビコーナーに直行した。
無言でパックを手に取る。
日付、ドリップ、身の張り。
触らなくても、だいたい分かる。
なるべくデカいのを探す。
200gほどを2パック手に取った。およそ800円。
ふと、あのブラックタイガー、8尾1280円だったよな?
あと480円であれが食えるのか…
いやいや…350缶が二本買える差額だ。
迷うな、私よ。
他にパセリ、特売のマヨネーズも迷いなくカゴに放り込む。
いつも買い物は2日分と決めているから一廻りする頃にはもうカゴは満杯だ。
キャベツはある、卵もある。
よし。
山盛りになった重いこのカゴをセルフレジにドンッと置き、ピッピする。
もう慣れている。私はレジのおねえさんになれる自信がある。
流れるようにバーコードをかざし、店のレジかごを重ね、自動ドアを出た。
やたらと重い。
牛乳2本が効いている。
車の後部座席に「んッ!」と音にならない掛け声をかけて積んで家に向かう。
確実に、この「んッ!」が出る時は二重あごになってる。
ショッピングバッグ代わりのツールバッグから、順に冷蔵庫へ仕舞う。
バナメイエビだけが、調理台という作業ラインに残る。

「えー、本日のタスクは、巨大エビフライ6本の製造となります。
1名不在につき、数量減少を通達します。尚、1本あたりの連結数は3尾。
連結作業は困難を極める可能性があるため、各工程、慎重に進めてください。以上。」
梱包を剥がし、殻剥きレーンに流す。
6尾は飾りになる尻尾を残す。他は、尻尾の中の身まで、そくっと抜く。
背ワタは一箇所から竹串を入れ、ゆっくりと引き抜く。
身を痛めないように。
これは、気を抜くとすぐに壊れる作業だ。
次は洗浄ライン。
澱粉と塩を加え、軽く撹拌する。
薄灰に濁る。
汚れが浮いてくる。
ここで一度、水に落とす。
流す。
水分は残さない。
ペーパーに挟んで、しっかり抜く。
「次の工程からは危険が伴います。安全靴、ヘルメットの着用を徹底してください」
カットラインに入る。
腹側から開き、筋を切る工程。
尻尾付きの個体は、繋げたまま縦に割る。
繊維を断つ。
だが、切り離さない。
手元の精度がいる。
作業員は、時々眼鏡を外す。
……この現場、平均年齢は高い。

作業は造形班に引き継がれた。
接着方法については、結論が出ていない。
薄力粉でいくか。
それだけで持つのか。
「強度が足りない」
「いや、いける」
議論はまとまらない。
最終的に、薄力粉を採用。
ただし、それだけでは不安が残る。
冷却による固定。
──凍結。
この案が通った。
……問題は、それだけではなかった。
凍結。
固定はできる。
だが──
器具に張り付く。
剥がれない。
無理に外せば、形が崩れる。
一度、止まる。
「粉、増やすか」
接着に使っている薄力粉を、そのまま使う。多めにまぶす。
器具との接触面を切る。
……これが当たった。

造形班の理想は高い。
「長いだけのエビフライに、何の浪漫がある?」
外構部がざわつく。
凍結──持ち時間は1時間。
出せる手は限られている。
「衣、もう一度いくか」
空気が止まる。
「それ、やっていいのか」
「詐称じゃないのか」
「炭水化物が勝つぞ」
意見は割れる。
だが ──
ボリューム。
今回の目標は、それだ。
衣2度付け。
この案が通った。

ここまでの工程は、土台作りに過ぎない。
これから加熱に入る。
油のプールに、泳がせる。
花形の作業だ。
だが、危険も伴う。
「えー、加熱班に申し送りです。
本件、外見は通常に見えますが、構造的には極めて脆弱です。
外装は堅牢に見えて、もろい。
無理に動かせば、崩れます。
慎重に作業を進めてください」
「スラー、スラー、チョイスラー、」
そっと、巨大な衣付きのエビを降ろす。
静かに泡立ち始める。
作業員は、その泡を見つめる。
外装が固まる。
そこで、一度だけ返す。
また、見つめる。
ゆっくりと、色が変わる。
黄金色。

「ゴヘー、ゴヘー、ゴヘー、」
持ち上げる。
慎重に。
誰が想像しただろうか?
この構造物を。

わずか7cm程度のバナメイエビが18cmまで膨れ上がった。
若干の違和感は否めない。
それは肯定する。

ただ、このチームの造作は半端ではなかった。
試食。
「旨めぇ」
それだけで、十分だった。
作業員は、また眼鏡を外す。
旨めぇの細部を見るために。

⏬️本件に挑戦したい方は、詳細を置いておきます。
ご安全に。
─キャンパーの寄り道日記 vol.10─
