物流ニュースなび【26年6月25日号】企業の半数が「前倒し確保」に動いたナフサ危機、次に来るのは「売れない局面」?
みなさん、こんにちは。
今日の東京は朝から雨模様です。台風7号が沖縄の南を北上中で、気象庁によれば26日にかけて先島諸島に接近、27日以降は九州から関東にも影響が及ぶ見通しとのこと。九州では今日、線状降水帯の発生が懸念されており、輸配送の遅延など物流現場への影響が心配です。
今日はナフサ供給不安の話をお届けします。帝国データバンクがまとめた最新の調査に、私が取材を通じて感じてきた現場の感覚を重ねながら考えてみます。
■ トピック
企業の半数が「在庫確保」でリスクに備える
ナフサ供給不安、5月でも影響は拡大
(出典:帝国データバンク「中東情勢に伴うナフサなど石油製品供給状況に関する影響調査」、2026年6月23日)
調査が示す「長期化」の実態
帝国データバンクは6月23日、26年5月21~31日に4604社を対象に実施したアンケートの結果を公表しました。中東情勢の緊迫化から約3カ月が経過した時点での実態調査です。
3~4月のパニック的な局面と比べて状況がどう変化したかを尋ねると、「影響がさらに強まっている」が32.6%、「やや強まっている」が36.8%で、合わせて約7割の企業が影響の拡大を実感しています。当初の混乱が一時的なものではなく、長期化・定着しつつあることを示す数字です。
具体的な影響の内訳では、「原材料・部材の仕入コスト上昇」が83.9%でトップ。「調達が不安定・入手困難」が73.0%、「調達リードタイムの長期化」が50.2%と続き、「物流・輸送・包装コスト上昇」も48.9%に達しています。物流業界の読者にとって見逃せないのはこの最後の数字で、包装資材はナフサ由来の素材を多く含むため、梱包材、フィルム、粘着テープ類のコストアップが物流コスト全体を押し上げる要因になっています。
調達上の支障が最も生じている資材を尋ねると、塗料、接着剤、シンナーなどの「化学系加工資材」が29.6%でトップ、次いで「包装・物流資材」が20.2%と2位に入りました。粘着テープ、プラスチック容器、ストレッチフィルム。出荷作業で毎日使われるものが、軒並み手に入りにくくなっているようです。「主原料」ではなく「物流系の消耗品」に目詰まりが出ているという構図は、川下の現場ほど実感しやすいはずです。
「前倒し確保」は合理的だった そして全体の需給を歪めた
今回の調査で「在庫の確保(前倒し発注・安全在庫の引き上げ)」を実施したと回答した企業は51.7%、実に2社に1社以上です。
私が取材を通じて感じてきたのは、こうした動きが報道が大きくなるよりも早い段階から始まっていたということです。ある物流現場では、向こう半年分の包装用フィルムをまとめて確保したと聞きました。「いつ手に入らなくなるか分からない」という不安が、そこまでの行動を促したわけです。ナフサの安定調達が見込めない状況では、入手できるうちに確保しておこうとするのは企業として自然な、むしろ合理的な判断です。
ただ、私の見立てでは、この「合理的な個々の判断」が積み重なることで、市場全体の需給をさらに歪めてきた側面があります。みんなが同じタイミングで前倒し確保に動けば、需要が一時的に集中し、本来よりも大きな品薄感が生まれる。調査でも、供給側が取引先を選別・優先順位付けしているという回答が14.4%あり、需要側の駆け込み調達と供給側の配分絞り込みが同時進行している様子が浮かび上がっています。「本当にモノがない」のか、「前倒し需要が集中して見かけ上の不足が生まれている」のか、現場から判断しにくくなっているのが今の状況です。
覚書は成立したが、正常化はそう簡単ではない
6月17日、米国とイランはイスラマバード覚書に署名し、軍事行動の即時・恒久的終結を宣言しました。すでに日本向けを含む大型タンカーが海峡を通過し始めたという情報も出ています。
ただ、報道によれば、覚書が定めるホルムズ海峡の無料通航保障は60日間に限られており、通航料の問題や制裁の扱い、核問題に関する交渉は今後に委ねられています。戦争保険料の高止まりや金融機関の慎重姿勢も続いており、商業上の「通常運転」への回帰にはかなりの時間を要するとみられます。海運関係者の間では、サプライチェーン全体の回復には1年近くかかりうるとの見方も出ています。
帝国データバンクの調査が対象とした5月末の時点はまだ覚書署名の前です。約7割の企業が影響の拡大を実感していたあの時点から、状況がどこまで変わったのかは引き続き注視が必要です。
次に来るのは「売れない局面」かもしれない
私がもう一つ懸念しているのは、危機の次のフェーズの話です。仮にナフサの安定調達の見通しが立ち、供給が本格的に正常化に向かったとして、その後に何が起きるかということです。
在庫確保に動いた企業の多くは、前倒しで購入した資材を手元に持っています。半年分の包装フィルムをまとめ買いした現場が、正常化後にすぐ追加発注に動くかといえば、そうはならないはずです。需要が一気に集中した分だけ、今度は在庫が消化される速度が落ちる。つまり、供給が戻ってきたとしても、買い手側の購買余力はいったん落ちる。私の見立てでは、「売れなくなる局面」が訪れるリスクがあります。
包装資材や化学系加工資材を扱うメーカーや商社にとっては、危機の後に待ち受ける可能性のあるシナリオとして、今から意識しておく価値があると思います。1973~74年のオイルショック後に「買い占め・売り惜しみ」から一転して過剰在庫の問題が顕在化したことを思えば、この構図は歴史の繰り返しとも言えます。
財務力が「対応力」の差を決める
調査にはもう一つ重要な指摘があります。危機への対応力は、企業の規模よりも財務基盤によって決まるということです。収益力と借入負担の組み合わせによって、資金繰り悪化の割合に最大3倍超の差が生じているというデータが示されています。価格高騰を一時的に吸収できる体力があるか、前倒し在庫を抱え続けられる資金余力があるか。危機対応の本質は、平時からの財務体力に帰着します。
取引先との関係の深さも、こうした局面で浮き彫りになります。「価格改定を受け入れないと原料を供給してもらえない」という声が現場から上がる一方、同業者間で在庫を融通し合う動きもある、と帝国データバンクは伝えています。供給が細った局面では、信頼関係の有無が調達力の差になる。物流業界においても、荷主との関係構築や資材調達の安定性という点で、同じ構図が成り立ちます。
覚書が成立したからといって、危機が終わったわけではありません。ナフサの正常化が進んだとしても、次は過剰在庫の問題が待ち受けているかもしれない。どちらに転ぶか分からないという不確実性そのものが、今の経営判断を難しくしています。その不確実性を直視した上で、自社の調達と財務の足元を点検しておくことが、今この時点での現実的な備えではないでしょうか。
今日はここまでです。次回もお楽しみに。
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