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社員戦隊ホウセキ V/第129話;届かない感情

前回


 六月五日の土曜日、午後六時半頃に苛怨かえん戦士せんしは出現した。引手ひきてリゾートがおく田間たまに作った新しいホテルに。

 目的は勿論、現社長の引手ひきて暈典みつのりと、都議会議員になった暈典の父親を殺す為だ。

 苛怨戦士の動きを予想して張り込みをしていた社員戦隊は、すぐさま苛怨戦士を止めるべく動いたが…。


 ブルーとイエローが引き受けた苛怨戦士との戦いは、露天風呂から付近の山林へと場所を変えていた。

「何で、邪魔するんですか!? 怨み、晴らさせてくださいよ!!」

 苛怨戦士は怒声を上げながら、ブルーとイエローに殴り掛かる。ブルーとイエローは防御しているだけで、反撃しない。と言うよりも、する気になれない。

「憎しみに飲まれるな! 俺が見込んだ後輩は、そんな奴じゃねえ!!」

 イエローが苛怨戦士に後ろから組み付き、動きを封じながら訴える。彼の右手のブレスを通じて、リヨモも加勢する。

『ジュールさん、貴方は他人の苦しみが解るお方です。ワットさんや時雨しぐれさんが苦しまれているのが、解りますよね? 元のジュールさんに戻ってください』

 イエローのブレスから響いたリヨモの声には、雨のような音も混ざっていた。イエローとリヨモは、こうして感情を叩きつける。
 しかし、苛怨戦士には伝わらない。マダムと揃いのブレスレットが、彼らの声を掻き消さんとばかりに鉄紺色の光を強く発する。

「黙れ! 邪魔するなら、あんたらもあの世送りだ!!」

 ニクシム神の力を受けた苛怨戦士は、イエローの怪力をも上回った。暴れ回ってイエローの拘束を振り解くと、すぐ振り向いて額の宝石から紫の火球を発射した。
    至近距離で火球の直撃を受けたイエローは吹っ飛ばされ、ホウセキスーツが変化した黄の光の粒子を散らしながら林床に倒れた。露わになった和都かずとの顔は、眼鏡を涙で濡らしていた。

「もう、この手しか無いのか?」

 苛怨戦士の攻撃でイエローの変身が解けるのを目の当たりにし、ブルーは悔しそうに呟いた。
 そして次の瞬間、決意したように顔を上げると、ホルスターからガンモードのホウセキアタッカーを抜き、「ガンフィニッシュ」と囁いた。その声に同調して、青い光が銃口に集まる。

 その声は、苛怨戦士の耳にも届いていた。

「おっ。いいですねぇ、隊長。僕を殺す気ですね」

 苛怨戦士から先までの怒りが瞬時に消え、口調は挑発的なものとなった。そして、銃を構えてイマージュエルの力を集中させるブルーの方に、余裕の足取りで接近する。ブルーは顔を上げたまま苛怨戦士を睨むが、バイザーの下の目は涙で濡れている。

「防御力、落としてあげますよ」

 接近しながら、苛怨戦士は変身を解いた。十縷の顔が見えると、堪らずブルーは息を呑む。そんなブルーに、操られた十縷はどんどん接近してくる。

(ジュール…!)

 時雨の脳裏に十縷と過ごした記憶が甦る。

 初対面の時、光里との距離感を指摘した。

 初めての訓練で、剣や銃の使い方を教えた。

 念力ゾウオに激怒したレッドを、横から制止した。

 長割おさわり肝司きもしの一件が終息した後日、たまたま会社への道を共にした。

 先日、「倒すのではなく、守ることが大切」ということを、剣道場で改めて説いた。


 そんな記憶が一気に溢れ出している間に、操られた十縷はブルーに触れる程の距離まで接近していた。
 対するブルーも、ホウセキアタッカーもガンフィニッシュを放つに充分な力を蓄積していた。しかし…。

(無理だ…!!)

 引金に掛けたブルーの指は動かなかった。そしてブルーは俯き、銃を持つ手を降ろした。蓄積したイマージュエルの力も霧散した。
 操られている十縷は腹を抱えてこの様を笑った。

「撃たないんですか? なら僕が撃ちますね!」

 十縷はそう言って、左手のブレスレットから鉄紺色の光球を発した。
 ブルーはこれを至近距離で被弾し、吹っ飛ばされる。先程のイエローと同様にホウセキスーツが青い粒子と化して霧散し、林床に倒れた時には時雨の素顔を晒していた。涙に塗れた素顔を。

熱田あつた! もうめてくれ! お前、そんな奴じゃないだろう!?』

 倒れた時雨のブレスを通じて、愛作が叫ぶ。その声は十縷の耳に届いてはいたが、心には届かない。ブレスレットから送られるニクシム神の力が、遮断してしまう。もう、彼らに今の十縷を止める術は無いのだろうか……?


 イエローとブルーが敗れる様子を、ゲジョーはスマホで撮影していた。一連のやり取りを傍観する彼女の表情は、いつになく暗い。

(何故、そこまでして止める? こんな辛い思いをしてまでしてお前たちが守っているのは、犯罪者同然の親子なんだぞ?)

 かつての仲間を攻撃できず、一方的に打ち負かされた和都と時雨にゲジョーは同情しつつも、彼らの行動を理解できなかった。引手親子のような悪人など、殺させてしまえば良いのでは? 彼女はそうとしか考えらないからだ。

(緑の戦士と紫の戦士も、同じことをするのだろうな…)

 ゲジョーがそう思うと、丁度そこにグリーンとマゼンタが駆けつけて来た。
 ここに来るまでに、愛作とリヨモからの通信で戦況は把握していた二人。それでも林床に伏せた時雨と和都の姿を実際に見ると、大きな衝撃を受けずにはいられなかった。この場に、素顔を見せる十縷が笑いながら立っている光景にも。

「ジュール…。何してんの! 隊長とワットさんをそんな風に…!」

 グリーンは堪らず叫んだが、言葉が続かなかった。十縷はその声に反応して二人の方を向き、こう言った。

光里ひかりちゃんに祐徳ゆうとく先生。引手リゾートの轢き逃げ社長親子、何処に連れて行ったの? トドメ刺しに行きたいんだけど」

 笑いながら十縷が口走った言葉は、恐ろしい内容だった。元から十縷は怒りの勢いで過激な言動に走ることがあったが、落ち着いた表情で言われるとまた印象が違う。

「ジュールにそんなこと言わせないで…」

 ブレスレットから送られるニクシム神の力が、十縷の憎しみを増強して恐ろしい発言をさせている。この現状を嘆くグリーンは、メットの下で涙を流す。
 マゼンタはそんなグリーンを気遣うように彼女の肩に寄り添いつつ、十縷に鋭い視線を向けた。

「もう、貴方は私たちの仲間だった熱田十縷君ではありません。ニクシムの手先の苛怨戦士です。今から貴方を殲滅します!」

 マゼンタは決意表明をするように叫ぶと、十縷に向かって突進しだした。もの凄い気迫を纏って。
 その気迫にはグリーンとゲジョー、地に伏せさせられた時雨と和都、更には遠方で戦況を見守る愛作とリヨモ、マダムにニクシム幹部も息を呑んだ。
 その中でマゼンタは十縷の眼前で回転しながら跳び上がり、右脚を豪快に振り上げる。

花英かえいけん奥義おうぎ打法だほうおち椿つばき!!」

「お姐さん、早まらないで!!」

 思わずグリーンが駆け寄ろうとするより先に、マゼンタは十縷の右側頭部を狙って右から回転踵落としを繰り出した。それまで余裕を漂わせていた十縷の表情も、流石に緊迫したものに変わる。そして……。

「危ねっ…! 殺す気マンマンじゃん…!」

 十縷は寸でのところで大きく背を反らし、紙一重のところでマゼンタの落椿を避けた。かくしてマゼンタの一撃は空振りに終わったのだが、避けるのが少し遅かったら十縷は確実に死んでいた。
 この一撃に並々ならぬ伊禰の決意を感じた十縷。しかしそれは彼を改心させるのでなく、攻撃に駆り立てる方に作用してしまった。

「さすが武道家女子! スケベ隊長たちとは違いますね!」

 十縷が半狂乱で叫ぶと左手のブレスレットから鉄紺色の光が生じ、彼の姿を苛怨戦士に戻す。苛怨戦士は一瞬で変身を遂げ、反らした背を再び立てながら額の宝石から紫の色の火球を発射した。
 会心の一撃を避けられたマゼンタは隙だらけで、この火球を避けることなどできなかった。マゼンタは被弾し、ピンク色の光の粒子を撒き散らしながら吹っ飛ばされた。そして地に倒れた時、スーツは消えて伊禰の姿に戻っていた。


 イエロー、ブルー、マゼンタと、苛怨戦士は順に社員戦隊を沈めていく。ニクシムの本拠地では、マダムたちがこの光景を確認して歓喜に湧いていた。

「やっぱ、殺せるのは紫だけだったか。まあ失敗したけどな!」

 と、スケイリーは社員戦隊を嘲笑う。マダムはそれ程ではないものの、スケイリーと同じく気を良くしていた。

「こ奴の憎心力は相当じゃな。しかも操り易い! もう三人も倒してしまうとは…。残りは緑の戦士だけじゃな」

 マダムは苛怨戦士と揃いのブレスレットから、更に強く鉄紺色の光を発する。銅鏡には、それに同調して苛怨戦士のブレスレットが光の勢いを増す映像が映る。この時、マダムとスケイリーは自分たちの勝利を確信していた。

 しかしザイガは依然として二人とは異なる。何の音も立てず、鋭い視線で映し出させる戦闘の映像を凝視していた。


 戦況を映像で見ているのは寿得じゅえる神社じんじゃの愛作とリヨモも同じだが、雰囲気は全く異なる。
 かつての仲間に次々と社員戦隊が打ち負かされる様に愛作は顔を歪め、リヨモは雨のような音と壊れかけた歯車のような音を立てる。

「もう殺すしかないのか? だが、あいつらに殺させるのか?」

 苛怨戦士の作り出す惨状に、愛作は真剣に頭を抱えていた。

(皆さんの一大事だというのに、ワタクシは何もできない…)

 リヨモは昨日ゲジョーに罵られたことをまだ引きずっているのか、己の無力さを心の中で嘆いていた。


次回へ続く! 

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