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社員戦隊ホウセキ V 第2部/第90話;救援

前回


 七月二十四日の土曜日。午後一時過ぎに十縷とおる愛作あいさくは赤のイマージュエルに乗って寿得じゅえる神社を発った。小惑星ニクシムを目指して。

 赤のイマージュエルを見送った時雨しぐれたちは、まだ寿得神社の杜の空き地に居た。左から和都かずと、時雨、伊禰いね光里ひかりが横一列に並び、片手を空の方に翳している。
 時雨たちの背を見守るりんは、胸の前で両掌を握り、平穏な解決を祈っていた。

 祈る琳と、空に手を翳す時雨たち四人。この構図を保ったまま、時間だけが流れているような気がしたが、状況は密かに進展していた。

「ワット。赤のイマージュエルの気配は掴めてるよな? 共鳴させられるか?」

 左手を空に向けて伸ばしたまま、時雨が左隣の和都に問い掛けた。和都は頷いた。

「はい。できると思います」

 和都は上に伸ばした右手で、何かを掴むような仕草を見せた。
 伊禰と光里も同じような会話を交わしていた。

「ジュール君との共鳴は、ひかりんの方がお上手ですわよね。私はアシスト担当で宜しいでしょうか?」

 語り掛けたのは伊禰の方だった。光里はこれに頷く。

「それでお願いします。私、組むならお姐さんかなぁ…って思ってましたから」

 光里の返答が伊禰には嬉しかったのだろうと、後ろ姿でも推察できた。

「桜餅、食べたいと思いません?」

 唐突に、伊禰はそう言った。後ろで聞いていた琳は首を傾げたが、伊禰の右隣の光里は理解しているらしく、乾いた声で笑っていた。

「それはダサいです。確か、緑色のガーネットがありましたよね? 何て名前でしたっけ?」

 光里の返しは、伊禰の発言とどう関連しているのか、琳には理解できなかった。しかし、当事者どうしはこれで通じ合っているようだ。

「ハイドログロッシュラーだ。無駄話は程々にしておけ」

 光里の問に答えたのは、時雨だった。その時雨を後押しするように、和都が掛け声をした。

「スタンバイ完了ってことで良いですね。行きますよ!」

 和都の掛け声を受け、全員が「了解!」と叫んだ。
 その次の瞬間、琳は驚愕した。空をガラスのように割って、四つの大きなイマージュエルが現れたのだから。青、ピンク、黄、緑、四色のイマージュエルが。
 イマージュエルを呼び出した時雨たちは、すかさず叫んだ。

「銀河合体! アルビレオ!」

「流星合体! ハイドログロッシュラー!」

 四つのイマージュエルは、二つずつペアになって上下に重なる。青が上、黄が下のペアと、ピンクが上、緑が下のペアに。重なったイマージュエルは、一帯を眩い光で包み込んだ。
 その眩さに琳は目が眩んだが、視界が戻った時、琳は度肝を抜かれた。

「イマージュエルが合体した!?」

 時雨たちの前には、青と黄の宝石で創られたようなマシンがあった。黄のショベルカーが左右に分かれ、青のホバー艇を両側から挟んだようなマシン。サファイアとトパーズが合体した宝世機・アルビレオだ。
 アルビレオの頭上には、ピンクと緑の宝石で創られたようなマシンが宙で静止している。緑の大きなF1カーの上に、ピンクのヘリコプターが乗ったようなマシンだ。F1カーに似た機体下部には車輪が無く、代わりに紫金石のような黒い翼が左右にある。ガーネットとヒスイが合体した宝世機・ハイドログロッシュラーだ。

 時雨たちの想造そうぞうりょくがイマージュエルに作用し、合体宝世機となったのだろうと琳は察し、イマージュエルの力や想造力の凄さに感嘆していた。
 宝世機を合体させた時雨たちは、四人揃って琳の方を振り向いた。

「それでは、私たちもニクシムの本拠地へ参ります。姫もお父様も、必ず連れて帰ります」

「琳ちゃんは全員の無事を祈ってて。それが私たちの力になるから」

 時雨と光里の言葉を受け止め、琳は深く頷いた。
 挨拶を済ませた時雨たちは、「ホウセキチェンジ」の掛け声で戦闘スーツを身に纏った。そして宝世機から照射された木漏れ日のような光を受け、ブルーたちは浮き上がる。すぐに四人とも、それぞれの合体宝世機の中に収容された。

 交信者を乗せた宝世機は動き出す。アルビレオは猛然と地を駆り、ハイドログロッシュラーは空を舞う。
 琳に向かって来たアルビレオは、琳を轢くより先に姿を消した。その頭上では、ハイドログロッシュラーがUターンのような旋回をしてから空をガラスのように割り、その中に突入した。アルビレオも同様に景色を割り、向こう側へ突入していったのだろうと、琳は推察した。
 アルビレオもハイドログロッシュラーも居なくなった。割られた空や景色も、何事も無かったかのように、元に戻っている。一人、この場に残った琳は、改めて祈った。

(光里、みんな…! 絶対、生きて帰って来て!)


 時雨たちの目指す小惑星ニクシムでは激闘が続く。
 地表ではブラックがブンシンジュの化けたレッドと、地下空洞ではスケイリーが本物のレッドと、それぞれ交戦していた。ピジョンブラッドの中に残った愛作は、歯軋りするような思いでこの戦いを見守っていた。

北野きたのたちが来てくれるまで、なんとか凌いでくれ…)

 ピジョンブラッドの中から、外の様子は普通に見える。ブラックが卓越した剣技でウラームの鉈を操り、分身のレッドを圧倒する様子が。分身のレッドは起き上がってもすぐに転ばされる。ブラックとの力の差は歴然としていた。
 指環からは、レッドのブレスが拾った声や音が聞こえる。岩でできた閉鎖空間では、音は独特な響き方をする。上ずったスケイリーの声や悲鳴に似たレッドの叫び、武器が空を切る音などから状況を想像し、愛作は不安に駆られた。

(俺が戦えたら、少しくらい熱田あつたに楽をさせられるのに…!)

 自分には戦う力が無いから、時雨たちに頼らざるを得ない。己の無力さを痛感させられ、愛作は心の中で嘆いた。

「いかん! レッド!」

 愛作は思わず叫んだ。ピジョンブラッドの外で、ついに分身のレッドがブラックに屈したからだ。ブラックの鉈が、分身のレッドを胸から胴にかけて袈裟斬りにしたのだ。
 分身のレッドは、白い光の粒子を撒き散らしながら後方に倒れていく。完全に倒れ伏す寸前に、分身のレッドはブンシンジュの姿に戻った。水晶で創られた二枚貝が、乾いた音を立てて岩がちの地に転がる。

「こんなに戦えるとは、この小細工は本当に優れものだ」

 ブラックはそう呟きながら、ブンシンジュを回収しようとしていた。
 しかし、その時だった。

「何だと? こいつらまで、ニクシムに来れるとは」

 殺風景な景色に蜘蛛の巣状の皹が走ったと思ったら、次の瞬間には景色が砕け散り、煌びやかな影が現れた。それは青玉せいぎょくのホバー艇を、左右に分かれた黄玉おうぎょくのショベルカーが挟み込んだ形をしたマシンだった。
 いきなりマシンが現れたので、ブラックは鉄を叩くような音を鳴らしながら後方へと跳び、マシンから逃げた。

「アルビレオ! 来てくれたか!」

 救援の到着に、愛作は歓声に近い声を上げた。
 アルビレオの登場で、ブラックはブンシンジュの回収を見送らざるを得なくなった。ブラックを退かせたアルビレオは、サファイアの船首に当たる部分からサーチライトのような光を発し、ブンシンジュを捉えて浮遊させてそのまま機体の中に回収した。
 アルビレオの電撃登場に、愛作は驚く。そんな彼の指環は、アルビレオを操るブルーの声を伝えた。

『社長、お待たせしました! マゼンタとグリーンの合体宝世機も、少し離れた場所に着いてます。社員戦隊、全員集合です!』

 朗報だった。愛作の顔から、不安は消し飛んだ。

「マゼンタとグリーンには、まずレッドの救援に向かって欲しい。今、レッドは一人で地下のアジトに潜入して、スケイリーと戦っているんだ!」

 愛作は指環を介してブルーたちに、現状伝達と指示を送った。
 しかし、これで万事解決とはならない。愛作たちの前に立ちはだかるブラックが、すぐに次の行動を起こした。

「来い、オブシディアン・チャリオッツ」

 ブラックは、音量は無いが抑揚の無い声で愛機を呼んだ。すると景色を突き破って、黒耀石でできた戦車が、景色を突き破って七色の光が渦巻く穴の向こうから猛進して来た。この戦車もサーチライトのような光を発し、機内にブラックを招き入れた。
 アルビレオは上手く旋回し、オブシディアン・チャリオッツと正対する。かくして、アルビレオとオブシディアン・チャリオッツの戦いが始まった。


 マゼンタとグリーンを乗せた合体宝世機・ハイドログロッシュラーが現れたのは、アルビレオが現れた地点とは【小惑星の裏側】に相当する場所だった。

「ここが小惑星ニクシムで良いのですわよね?」

 ガーネット側の操縦席に居るマゼンタは、初めて来た地球以外の星の景色に舌を巻くと共に、本当に目的地に来れたのか不安も感じていた。

『隊長からの通信が届いてますから、大丈夫だと思います』

 ヒスイ側の操縦席にいるグリーンからの通信で、マゼンタの不安は少し軽減された。
 緊張気味のマゼンタと対照的に、グリーンは動じていなかった。

『ジュールから聞いたんですけど、ニクシムのアジトは地下にあるらしいんです。だから、ドリルみたいに地面に穴を開けて、思い切って突入しちゃうのもアリな気がするんですけど、どうですか?』

 グリーンの提案は大胆過ぎて、マゼンタは思わずメットの下で苦笑いしてしまった。

「考える材料が無いのに悩んでいるよりも、まず行動した方が良さげですわね。ドリル作戦、参りましょう!」

 という考えに基づき、マゼンタはグリーンの案を了承した。
 方針が決まると、二人の意志を受けてハイドログロッシュラーは動く。地表と反対方向に機種を向け、そのまま真っ直ぐ上昇していった。小惑星の一面を見下ろせる高度に達すると、ハイドログロッシュラーは急旋回して機種を地面に向ける。

(ピジョンブラッドもアルビレオも見えない。私たちは、時雨君たちの居る場所の裏側に来たみたいですわね)

 一望した地表には岩しか見受けられなかった点から、マゼンタはそう推理した。その一方で、グリーンは頭を突撃にシフトしていた。

『行くよ! 竜巻急降下!』

 グリーンが叫ぶと次の瞬間、ハイドログロッシュラーは高速回転しながら猛スピードで急降下した。傍らから見たら、緑とピンクに光る竜巻が空から地に高速で降りて行くように見えただろう。
 すぐにハイドログロッシュラーは地表に達した。急降下のスピードとドリルのような高速回転で地殻の岩を砕き、地下を掘り進んでいった。


 ハイドログロッシュラーの地下への強行突入は、地下空洞に大きな影響を与えた。

「地震か!?」

 地下空洞で戦闘中だったレッドとスケイリーは、激しい揺れを感じて一時的に戦闘を止めた。
 揺れはすぐに増大し、轟音が地下空洞の空気を震わせた。スケイリーの後方では落盤が起き、次の瞬間にはスケイリーの足元の岩盤が崩落した。
 レッドの目には、スケイリーの腰から下が急に地に埋まった後、大量の土煙が一帯を覆うのが見えた。レッドは落盤に襲われなかったが、揺れの激しさに堪らず倒れてしまった。
 揺れや落盤の原因は解らない。土煙で視界を遮られる。困惑するレッドの耳に、聞き憶えのある声が聞こえた。

「あっ! ジュールだ!」

 その声が聞こえた後、誰かが自分の方に走って来るのを、レッドは音で察知した。足音から、二人いると予想された。二人が近づいてきた時、丁度土煙が晴れた。

「光里ちゃんに祐徳ゆうとく先生! 来てくれたんですね!」

 レッドは思わず明るい声を上げた。グリーンとマゼンタが、腰を落として自分に寄り添っていたのだから。

「少し間違えたら、ジュール君も危なかったと思いますが…。凄い偶然ですわね」

 そう呟いたマゼンタの後方には、ヒスイのコクピットが見えた。機体で地下空洞を分断し、道を塞いでいるのが判った。

(宝世機で闇雲に突撃したの? 大胆だなぁ…)

 状況とマゼンタの言葉から二人が選んだ手段を類推し、レッドは苦笑いした。しかし、お蔭で自分はスケイリーから解放された。

「助かりましたよ。迷惑しました!」

 レッドは二人に謝意を示した。


次回へ続く!


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