【連載小説】save the gene | 第12話 ブラック企業 1/2
Part 1 社会実験
一戸天馬は高校一年生だ。普段は学業に多くの時間を割き、それだけでも十分に忙しい毎日を送っている。だが、彼はgene社のバイトも掛け持ちする二足のわらじを履いていた。平日の放課後にバイトを入れるのはあまりにも過酷なこととこれからの案件は時間がかかることが多いため、土日祝日に限定して働くことになった。
その土曜日の朝、天馬は数日前のジーンとのPINE通話での打ち合わせを思い出していた。ジーンは少し興奮気味に、今回の仕事について説明した。
「今回はついにB級やるよ! まず午前中早くに天馬の家に行くから、会社用の背広を持っていくから着用して! そして指定の大田区蒲田にある会社に偽装面接するから!」
天馬は少しワクワクしながら応じた。
「何かいよいよ本格的になったな! 仕事の難易度が上がったことが直に伝わる! B級は発現させるまでも困難を要するんだな!」
ジーンは天馬の言葉に頷いた。
「そう! それで相手はものすごく離職率の高いブラック企業だから、理不尽な面接をしてくるはず! そこで面接官に適当な受け答えをして、そうやって時間稼ぎする間にこっちがスマコンでピースサインを送るから、その時指パッチンして!」
今までの簡単な案件とは一味違う濃密な仕事内容に、天馬はさらに詳しく尋ねた。
「指示通りに動くことは了承してる! それからどうなるんだ!?」
ジーンは続けて説明した。
「そうすると何かが起こる! その時は天馬は……」
ジーンは改めて電話口から、とんでもないことを告げた。
「今までの鬱憤とストレスを吐き出すレベルで会社に対して『なろう』やってくれ! gene社は存在しているだけのゾンビ企業に対して深い軽蔑を持ってるからね」
少しおちゃらけた指示内容ではあったが、天馬は今回の仕事が今までの簡単な案件とはまるで違うと確信した。
「gene社が私情を入れてくるくらい重要度が低くないんだな! 少しのってきた! わかった、了承した!」
ジーンは満足そうに頷いて言った。
「じゃあ土曜の朝来るね……ハッハッハ!」
そんなやり取りを回想していると、天馬の母親である一戸香澄が声をかけてきた。香澄は天馬を心配する様子もなく、むしろ誇らしげだ。
「天馬は勉強のコツを掴んでいるから、要領よく勉強して隙間時間にバイトしてるのね……お父さんに似たのかしら? お父さんも勉強の要領がよかったから、苦学を経験しなくてもT大に行ったから」
天馬は答えた。
「勉強一筋だと俺、楽しくないよ。他のこともやっていろんなこと経験しないと」
香澄はにこやかに言った。
「高校生でたくさん稼いでるなんて、さすが我が息子!」
一戸香澄は褒め上手の教育をしている。褒めて伸ばす、その教育は理論と経験に基づいているため、天馬は母親に対し良妻賢母だと思っている。
その時、いつものように突然ジーンが背後から声をかけてきた。
「よう!」
天馬もそれに呼応した。
「よう! 何か持ってきたのか? スーツ?」
香澄はジーンに笑顔で言った。
「うちの息子をよろしくお願いします! まだ若いうちに社会経験をさせておけば、将来立派なビジネスマンになれることを期待してますから」
ジーンは香澄に対し、にこやかな表情で答えた。
「うちは見込みのある人かハイスペックな人しかとらないので、天馬君が選ばれたことは光栄なんです! 天馬君のことは僕に任せてください」
香澄はにこやかに繰り返した。
「よろしくね! ジーン君!」
ジーンは約束通りスーツを持ってきたようだった。彼は宙に浮きながら、天馬にスーツを差し出す。
「僕、大きなもの持てないから途中まで会社の車で来たよ。はい、これ! うちの会社にあった背広ね、これに着替えて蒲田に行くから! ちなみに面接は午後15時からだからゆっくり行こう! 天馬の書類等は本名以外は適当に書いて送ったから手ぶらでいいよ!」
天馬は言った。
「じゃあちょっと午前中は勉強するわ……休みにバイトがあると、やっぱり勉強に一抹の不安が残るんだよな」
ジーンは首を傾けた。そして午後11時頃交通経路を使用して蒲田に足を運んだ。
Part 2 共通テストと天馬のバイト
蒲田に着いた天馬は、季節外れのあまりの暑さに思わず顔をしかめた。6月にもかかわらず、容赦なく照りつける日差しに、これはさすがに屋内に避難しないといけないと思った。
「6月頃になると暑くなるよな! 日本は亜熱帯気候だからさ」
天馬がそう言うと、ジーンは宙に浮きながら答えた。
「また例年より暑いし、今梅雨の季節なのに、晴れてるよね」
天馬は疑問そうに首を傾げた。
「例年ってよく分からないよ。だって夏って5月か6月にくるものだろ?」
「昔は暑くなるのは7月下旬の梅雨明けからだったんだ。だからその頃を例年並みって言って対比してるところが気象業界にはあるんだ」
ジーンの説明に、天馬はさらに首を傾げた。
「昔のことなんて俺生まれてねーから分かんねーし、今暑いんなら今が例年並みだろ?」
「そうだね。あまりにも暑いからさすがに勤務中でも休憩するなとは言わないから、僕指定のカフェに避難しよう」
ジーンの提案に、天馬は「別にハンバーガーショップのモックでもいいし……」と言いかけた途端、目の前にモックの店舗があった。しかし、店の前には長蛇の列ができており、とても入れる気配がない。
「比較的安いところで涼む……みんな同じこと考えているから、カフェ代は持つから指定のカフェに行こう」
ジーンの言葉に天馬は頷き、指定された古民家風のカフェへと向かった。
互いにテーブル席に座り、天馬は前から疑問に思っていたことを口にした。
「このバイトをしてると学業に支障が出るんじゃないかって心配してるところがあるんだ。もし希望より大学のランクが下がったらどうしようかと悩んでるんだよな」
ジーンは天馬の心配に対し、冷静に言った。
「共通テストって知ってるよね? 昔はセンター試験って言って全体的な学力を測る試験だったんだけど、共テはその個人のスペックを測る、才能を測る試験へと一気に難化したんだ」
天馬は眉を潜めた。
「つまり、努力じゃどうにもならないから共通テストは捨てろってこと? ジーンが決めることじゃないだろ?」
ジーンは首を振って言った。
「共テ対策は聖修院でもやってるでしょ? でも今実情、共テ対策は手探りという状況なんだ! だから努力が空回りすると想定されるんだ。つまり僕の言いたいことは」
天馬はアイスコーヒーをすすりながら、ジーンの詳しい話を真剣に聞いた。
「共通テストよりA級討伐のコネ採用の方が可能性がある。確率の高いほうに賭けてみた方がいいんじゃない? どう?」
ジーンの話は奇妙だった。つまり、天馬がいわゆるモンスター退治をしている理由は、共通テストを捨ててコネ採用を手に入れるため、という動機になる。天馬はこの話に少し疑問を持った。
「俺、国立目指してるんだ。共通テスト捨てたら私大しか入れない。俺は私大には入りたくないんだ」
ジーンは最新の情報、いや、今言えるだけの最大限近い情報を天馬に提供した。
「君の高校の共通テスト対策で、君がいざ本番という時突破できないのであれば、共通テスト対策に時間を割いたって無駄……とは言わないけど、効率が悪いよ。保険はなるべくあった方がいい。ちゃんと勉強して共テ対策もして、コネもキープしておく……未成年は現時点での選択の過ちで未来がおおよそ決まってしまうのは現実としてある」
天馬は何か授業を受けている気分だった。ジーンはAIだからか、高校の先生より納得できそうなことを言っている。アイスコーヒーをすすりながら天馬は言った。
「俺はもしかしてまやかしを受けてるのかもな。ジーンの話は何か刺さる。従った方がいいかもしれない」
「天馬はたまたまそういう手段を取れてるだけであって、どうしても共テ対策したいのであればバイトの回数を減らしてもいい。でも今はまだ高1だから、実績作る方がいいのでは?」
ジーンの言葉に、天馬は少し納得した部分があった。
「まだ追い込みじゃないから、今は遊んだりバイトしたりして好きなことして過ごすか」
ジーンは笑って言った。
「君はちょっと頭のいい学校に行ってしまったんで気が張りすぎてるね。世の中、そこまで学歴にこだわってないよ」
そう人生相談をしているうちに、時間が過ぎた。
「そろそろ目的の会社に向かおうか。面接練習くらいはしてきてるよね。スマコンもちゃんと装着した?」
天馬は力強く答えた。
「万全! 大丈夫! 初陣だからな」
そう決意を固め、二人は目的の会社へと足を運んだ。
Part 3 圧迫面接
雑居ビルの9階、そこに今回の目的の会社、〇〇ディストピアがあった。エレベーターで9階まで上がると、ジーンが天馬に告げた。
「僕はしばらく隠れて色々作業してるから、天馬は単独で面接会場に行って」
「面接なんてやったことないから緊張するわ!」
ジーンと別れた天馬は、内装の薄暗い、清潔とは言えない会社へと足を踏み入れた。受付らしき場所で声をかけると、一人の社員が天馬を案内した。
「一戸様ですね。こちらへどうぞ!」
天馬が案内されたのは、小さな面接会場だった。天馬は指示通りに扉を三回ノックし、「失礼します!」と声をかけた。中から男性の声で「どうぞ!」と返事があり、扉を開けると、そこには大勢の社員が居並び、中央には厳格な面構えの男性が座っていた。

その男性に「こちらへどうぞ!」と促され、天馬は座りづらそうなパイプ椅子に腰を下ろした。軽くお辞儀をすると、男性は早速質問を始めた。多くの社員が見守る中、話しづらさを感じながらも、天馬は耳を傾けた。
「まず、御社にどのような魅力を感じたのかお聞かせください!」
天馬は適当に「はい、〇〇ディストピアの企業理念に感銘を受けました!」と答えた。案の定、面接官は天馬に唐突に問い返した。
「ほんとに!?」
天馬は不意を突かれ、少し驚いた。面接官はさらに言葉を畳みかける。
「無能はよく定型文を話すんだよね! 君みたいな! 『感銘を受けました』とかね! そうやって面接を突破しようとする!でも 採用されても使えないんだよ! 我が社の理念についていけない! ほんとの最近の若者は根性を知らないのかね?」
傲慢な物言いに、天馬はふつふつと怒りを覚えた。だが、ここは冷静に、と自分に言い聞かせた。
「根性論はもう古いのではないでしょうか?」
天馬の言葉に、面接官は少し怒り交じりに返した。
「働くというのはだね。まず拘束時間が長ければ長いほどいいんだよ! 家に帰れると思っている社員は無能だ! 睡眠時間も4時間以内でいい! そういう根性がないものにうちに入れるわけにはいかないんだよ!」
まるで人と話している感覚ではなくなってきた。面接官はさらに続けた。
「会社とは奉仕するもの! 手取りが少ないように感じるのは自分が無能だからだよ! 給料が高い低いは関係ない! 会社に忠実に従うことだけがうちの企業理念だ!もしや 君はこの会社の前情報を知ってここに来たわけではないな!」
あまりにも古く、まるで宗教じみたこの会社の体質に、天馬はまるで別世界に来たようだった。その時、天馬のスマコンにピースサインが表示された。天馬は心の中で「ここで指パッチンか……」と思った。
天馬はジーンの言う通り、指をパッチンと鳴らした。
面接官はきょとんとした顔で、「ん? 何やってるんだ? 君は?」と尋ねた。
すると、一人の社員が慌てて面接会場に駆け込み、面接官に告げた。
「大変です! うちの会社がgene社という会社に買収されました!」
面接官は「はぁ?」と呆れた態度で、「は? 何を? 言ってるんだ君は?」と聞き返した。
まさかgene社がこんな大げさな手に出るとは思わなかった。以前の案件とは違い、今回はgene社自身の企てが動いている。天馬は調子に乗って、演技をするように言った。
「僕、実はgene社の重役なんだよね? 僕の気分次第でこんな零細、どうとでもできるんだよ!」
「何を言い出すんだ! 私に失礼な口を叩いているんだぞ!」
面接官の言葉に、天馬はにやりと笑って答えた。
「その『私』ってもうgene社の傘下のどうでもいい人でしょ? 僕に逆らったら君の処遇も考えてあげていいけど!」
そんなやり取りをしていると、空いていた面接会場の扉からジーンが姿を現した。
「gene社が既にこの会社を調査済みなんだ。この会社、労働基準法に違反している上に、何人も自殺者を出してるね。警察に通報すれば一発アウトだよね? まるで人が経営しているように思えないほどえぐいよね? この会社?」
面接官と社員はあまりにも突発的な出来事に、すっかりおとなしくなってしまった。ジーンはさらに続けた。
「社長の元に案内してくれる? もう日本は……いや世の中は、そういう人の運命を弄ぶ悪人に辟易してるんだよ。君たちが失職したくなければ元社長を売ってよ! ね?」
面接官は現実を理解したようだった。そして、渋々といった様子で言った。
「はい、従います。社長室にご案内します、一戸様」
天馬は心の中で「ああいう風に言っときながら、いざ自分の保身のためなら社長を売るのかよクソ野郎……」と、心底思った。
そして天馬とジーンは社長室に案内された。
Part 4 対ナチュラル本戦
天馬とジーンは社長室の扉の前まで案内された。天馬は案内役の面接官に尋ねた。
「名前?なんていうの?」
「わたくし飯島と申します……」
飯島と名乗る面接官に、天馬は心の底から軽蔑したように言った。
「お前のような昭和が俺たち若者を喰って生きてるんだよ!とっとと死ねばいいのに」
天馬は、この会社の古い体質と強硬なやり方に、心の底から憤りを感じていた。
飯島は社長室の扉をノックし、社長を呼んだ。
「社長!面会希望者がいます!」
社長の声が聞こえた。「飯島か?アポは取ってないぞ?だが、私も手が空いてるところだ!重役ならばいいぞ!よし入れ」
飯島が扉を開け放つと、天馬とジーンは社長と対面した。社長は訝しげに二人に問いかけた。
「君たち何者かね!?」
ジーンは社長に向かって言った。
「ちょっと世直しではなくて、我が社のデータ収集のために協力させてもらうよ!」
ジーンは天馬に振り返って告げた。
「発現方法はいつもと変わらない!君の怒りも乗せてプロンプトを入力して」
天馬は、この会社を、許せないという思いを込めてスマコンにプロンプトを入力した。
「もう老害が甘い汁すすっていい時代じゃない!これからは俺達の時代だ!『ブラック企業 古い体質 労働基準法違反 save the gene!!』」
そのように入力すると、一瞬、周囲が黄金色一色に染まった。天馬は驚きを隠せない。
「今までと違って新しいことが起こってる!?どうなるんだ!?」
ジーンは天馬の問いに答えた。
「B級はもうナチュラル討伐本戦と言って間違いじゃないよ!これまでの雑魚とは違う!さあ、構えて!」
金色の輝きが終わると共に、社長室に黄金色の巨大なアルマジロが姿を現した。

その異様な姿を見て、飯島は絶叫した。
「化け物だ!?色々起こりすぎてて理解できない!助けて!!」
飯島は一目散に社長室から逃げ出した。
そして、アルマジロ姿のナチュラルは、人間が話すような声で言い放った。
「我が名は**貪欲のディザスター……ヴァリス……**貴様のような無能社員が我に立てつくか!?」
以前に経験したB級ナチュラルと雰囲気が似ていると感じた天馬は、思わず口にした。
「お前もディザスターと名乗るのか?」
ジーンは宙に浮きながら、興味深そうに言った。
「僕もさすがに知らなかったけど、もしかしたらB級は自分のことディザスターと名乗る傾向があるみたいだね?今度からB級じゃなくディザスターと呼称しようか?多分B級はみんなそう名乗ると思う」
こうして、天馬とジーンはB級ナチュラル、もといディザスターと対峙した。
To be continued?
