save the gene |スピンオフ 山崎國男の受難
―――BL等要素が多少含まれています(´・ω・)―――
Part 1 山崎國男のスマートコンタクト
とある夏の正午、聖修院の学生食堂には、夏季休暇にもかかわらず、まばらに生徒の姿があった。一般開放された食堂の一角で、山崎國男と甘利康之は向かい合って座っていた。國男は湯気の立つ塩パスタを、康之はミックスフライ定食を注文している。

「國男、これ」
康之はミックスフライのハンバーグを切り分けながら、手のひらに乗せた小さな箱を國男の方へ滑らせた。
「これなんだ? 見たところ、コンタクトレンズの箱みたいだけど?」
國男はフォークを止めて、興味深そうに箱を手に取る。
「シータから國男に、だってさ」康之は淡々と続けた。「天馬もつけてるスマートコンタクト…略してスマコンだよ」
國男は驚きで目を丸くした。
「ええ!? なんでgene社の製品を俺に? ついに俺のところにまで話が来たのかよ…」
「少しデータを取りたいんだって。コストが高いから製品化はできないけど、今のうちに國男でテストしたい、ってさ」
「ふーん、俺を実験動物みたいに扱いたいんなら、それなりの報酬はあるんだろうな?」
國男は疑いの眼差しで康之を見つめた。
「未来予測、ってシータが言ってたよ」
康之の言葉に、國男はわずかに眉を上げた。
「ああ、どっかで小耳に挟んだな…スマコンの機能の一つだろ?」
「他の機能も好きに使っていいってさ。なんなら競馬やカジノでも」
ミックスフライを口に運びながら、康之は平然とした様子で言った。國男は塩パスタを頬張り、少し考える。
「そういや、未来の話が現実になるアプリだったな。何か、少しずつ思いついてきたぞ!」
國男は顔を上げ、興奮した表情で康之に話しかけた。
「今度、内のライバル校である豊林高校と卓球の練習試合があるんだ。これ、未来予測を使ったら、めちゃくちゃ面白そうだと思わないか?」
康之は國男の言葉に小さく頷き、静かにハンバーグを食べ続けた。
「その調子で」
そう言いながら、康之は國男の胸の内を見透かしているようであった。山崎國男は、すでにスマコンの能力を卓球の試合で悪用することを考えているようだった。
Part 2 豊林高校エース 栗栖心夏(ここなつ)
國男は聖修院の卓球部に所属していたが、IH(インターハイ)の出場権は遠かった。実力もさることながら、一年生である彼はレギュラーに抜擢されることさえ叶わなかった。しかし、豊林高校との練習試合だけは別だった。IH予選の決勝で必ずと言っていいほど当たるライバル校との練習試合は、一年生にとって貴重な経験を積む場であり、國男もそれに参加する日だった。
試合に備えて食べ過ぎないよう、昼食は塩パスタだけで済ませた國男は、腹ごなしに一人トイレへと向かった。個室に入り、康之から受け取ったスマコンの箱を開ける。中に入っていたのは、透明なコンタクトレンズだった。國男はそれを丁寧に装着した。
その瞬間、國男の視界に半透明の画面が表示された。それはまるで、目の前にスマホの画面が浮かんでいるかのようだった。
「はあ…スマホ画面が目の前に半透明で表示されてる…」
國男は感心しつつも、辛辣な意見も口にした。
「ようはコンタクトとスマホ機能を合体させただけだな…。例えば20万円のスマコンとハイエンドスマホ、どちらも天秤にかけてとなると、スマコンとはならないよな…」
そう毒を吐きつつも、國男の心はどこか浮ついていた。新しい機能、それも対話型AIメビウスによる未来予測という未知の力に、期待を抱かずにはいられなかった。
体育館に向かうと、赤の卓球着を着た豊林高校の一年生たちが訪れていた。その中の一人、金色の髪質の男の子が、國男に声をかけてきた。
「はじめまして…君、聖修院だよね?俺、豊林のエース、栗栖心夏(ここなつ)って言うんだ。よろしくな?」

栗栖という人物は、気さくに國男に話しかけてきた。その屈託のない笑顔に、國男は少し戸惑いながらも、自己紹介をした。
「おお…俺は山崎國男っていうんだ。よろしく…」
國男はそのまま、栗栖の顔をじろじろと覗き込んでしまった。國男の視界に映る対話型メビウスのインターフェースと、栗栖心夏の笑顔が重なる。
「なんか俺の顔にゴミでもついてるのか?」
栗栖の問いに、國男は慌てて目をそらした。
「いや、なんでもねえ…よろしくな」
栗栖はにっこり笑って、立ち去ろうとした。
その背中を見送りながら、國男は意外なことを口にした。
「あいつ、可愛いな…。コミュニケーションツールPINE、交換できないかな…」
國男の心に、栗栖心夏への淡い想いが芽生えていた。それは、ゲイという自身の性癖によるものだった。メビウスが彼にどんな未来を見せてくれるのか、國男はすでに、よからぬことを考えていた。
Part 3 栗栖との練習試合
練習試合が始まろうとしていた。青色の卓球着を着た聖修院の生徒と、赤色の卓球着を着た豊林高校の生徒が、体育館の熱気の中、対戦相手を探してペアを組んでいた。國男は、迷うことなく栗栖心夏に声をかけた。
「俺とやらねえか?」
栗栖は國男の提案に、少し驚いたような表情を見せた。
「君、実力あるの?さすがに君じゃ僕とは勝負にならないよ?他をあたって」
冷たくあしらわれた國男だったが、ひるむことなく言葉を続けた。
「もし、俺が勝てたら?」
その言葉に、栗栖は少し興味を持ったようだった。
「それだったら、君のことを認めてあげるよ!」
國男は、よからぬ提案をした。
「俺が勝ったら、ちょっとこの体育館裏まで来てよ…」
栗栖はニヤリと笑った。
「へー、自信があるんだね?いいよ、一戦やろう」
こうして、國男と栗栖のシングルスでの対戦が始まった。
まずサーブは國男から。彼はラケットを振り抜き、ボールを打ち出した。しかし、栗栖は的確なスマッシュを放ち、國男はそれを返すことができなかった。
「スマッシュが来る位置にいない!」
栗栖は、國男の立ち回りをよく思わなかった。國男の実力は、彼にとっては物足りないものだった。
しかし、國男は内心でニヤリと笑った。彼はコンタクトレンズに表示されるメビウスのインターフェースを起動し、プロンプトを入力した。
「天馬の真似してこう言えばいいんだな。『栗栖心夏 save the 俺!!』」
國男の視界には、未来予測の映像が半透明で映し出された。そこには、栗栖の動きやボールが来る位置、そして國男がどう動けば得点を稼げるかが詳細に表示されている。詳細なデータとともに、試合の展開が手に取るようにわかった。
國男は心の中で思った。
(豊林のエースに勝てるわけないじゃん…ズルしちゃお!)
栗栖は、國男の内心を知る由もなく、サーブを打つためにボールを手に取った。
「じゃあ俺からサーブ行くよ!一投目は優しくするから」
完全に舐められている國男だったが、彼は未来予測のナビゲーションに従い、的確な位置に立ち回った。
Part 4 栗栖心夏のナチュラル
國男は未来予測のナビゲーションに従い、思いっきりスマッシュを打った。そのボールは、栗栖の死角を完璧に突いた。栗栖は反応できず、打ち返すことができない。
「基本もしっかりしてないのに、ラッキースマッシュで俺とタメ張ろうっての?」
栗栖はそう言い、次は國男のサーブを待った。
「君のやりたいことはこういうことでしょ?」
栗栖は打ち返されたボールを予測し、スマッシュを打った。だが、そのスマッシュの方向に國男がいた。未来予測の指示通りに動いた國男は、的確にスマッシュを返し、得点を奪った。
「うそだろ?こんなことって?」
栗栖は驚きを隠せない。その後の試合は、常に國男が先回りする展開となった。栗栖はどんな球を打っても、國男が的確に返してくる。試合は一方的なものとなり、11-6で山崎國男の勝利に終わった。
「へーん、どんなもんだい!」
國男は勝ち誇ったように言ったが、栗栖は下を向いて打ちひしがれていた。
「まさか、こんなことって」
國男はすかさず声をかけた。
「じゃあ約束通り、体育館裏に一緒に来てくれよ」
栗栖は困惑しつつも、しぶしぶと國男についていった。
人気のない体育館裏に着くと、栗栖は不安そうに國男に尋ねた。
「何か話でもあるの?」
國男は躊躇なく、とんでもないことを口にした。
「ナチュラルって悪霊を取り除いて、俺のこと好きになるようにしてやるよ!」
「お前、何を言って!?」
國男の突飛な発言に、栗栖は驚きを隠せない。だが國男はそんな栗栖を気にすることなく、スマコンの対話型AIメビウスにプロンプトを唱えた。
「栗栖心夏 豊林のエース save the 俺!!」
すると、栗栖の背後から、異世界によく出てくる羽の生えた妖精のようなナチュラルが姿を現した。
その妖精は警戒したように言った。
「こんな人気のないところに連れ出して、あなた危ないわ…」
しかし、國男は慌てることなく、次の言葉を放った。
「確かこの言葉を放つんだっけな?『erase!!』」
國男の言葉と共に、妖精のナチュラルは音もなく消滅した。
それで栗栖が心変わりしたかどうかは定かではないが、國男は感情を抑えきれずに告白を始めた。
「栗栖!お前のことが好きだ!付き合ってくれ!」
だが、栗栖は即答した。
「ああ、そういうこと?俺、彼女いるから…」
國男の恋心はあっけなく砕け散った。
「そうだよな…。こんなイケメンに彼女いないわけないものな…」
國男は自嘲気味に呟いた。栗栖は、そんな國男を慰めるように優しく話しかけた。
「君、さみしいの?聖修院って高校の時に勉強だけで、暗黙で恋愛禁止のルールがあるって聞くから」
栗栖は、國男の抱える葛藤を、どこか理解しているようだった。
「ちょっと体育館に戻ろうか?」
栗栖の言葉に、國男はうなずいた。二人きりの体育館裏は、彼にとってただただ辛い場所に変わっていた。
Part 5 栗栖のハグ
國男と栗栖は気まずい空気を引きずったまま、体育館に戻った。すると、栗栖は唐突に國男に抱き着いた。
「つまり、こういうことでしょ?」

國男は驚き、恥ずかしさで顔を赤くした。
「お、おい!いきなり何をするんだ!?」
栗栖は動じることなく、國男の耳元でささやいた。
「僕、アメリカ人とのハーフだから、日本人が常に欲求不満なの知ってるよ。國男はさみしいから僕に求愛したんだね?」
國男は驚きで声を震わせた。
「お前、やっぱ外国人とのハーフだったのかよ!?」
「日本人はよく『我慢』するっていう文化を重んじるよね。だからメンタルがみんなおかしいんだよ。國男はその中でもかなりおかしい。告白するまでの過程が長すぎる」
栗栖の言葉に、國男は反論した。
「お、俺は勉強ばっかしてたから、勉強のことしか知らなかったし…」
「世界ではハグは共通の文化なの。それに、LGBTQだって、今やだんだん恥ずかしいことではなくなってきてるの。現に周りは僕がハグしても、誰も反応してないでしょ?」
國男は周りを見渡した。確かに、豊林も聖修院も、誰も彼らのことなど気にも留めず、淡々と試合に集中していた。
「そういえば…集中してるってのもあるけど、本当に誰も見てないな…」
國男の言葉に、栗栖は微笑んだ。
「僕は君の彼氏にはなれないけど、PINE交換しようか。さみしいなら、相談に乗るよ」
「本当か…」
國男の目は、驚きと嬉しさで輝いていた。
こうして、二人はPINEで連絡先を交換し、練習試合は終わった。國男は、未来予測でも決して予測できなかった、不思議な出会いを経験したのであった。
Part 6 っていう事があったんだ
後日、國男と康之は再び二人で学食に来ていた。ナポリタンを口に運びながら、國男は先日あった出来事を康之に話した。
「っていうことがあったんだ…」
話を聞き終えた康之は、やれやれと肩をすくめた。
「高一でイケメンで男性に興味あって、彼女がいない…。レア度はSSRだね」
國男は少し寂しそうに言った。
「まあ、連絡先だけでも交換できたからいいか…」
康之はそんな國男を見透かすように言った。
「君、完全にその世界に足を踏み入れたくないんでしょ?」
國男は力強く首を振った。
「俺はそこまでいかないよ!」
「女が狙いにくいから男を狙っているところが國男にはあるけどさ…」
康之はさらに言葉を続けた。
「それって、結局、逆じゃない?」
その言葉に、國男は何も言い返せず、机に突っ伏した。
「とほほ…」
他愛のない夏の日常は、こうして過ぎていった。
