その瞳に、うつして|サイレント・マイ・ヒーロー
仕事終わりの恋人を、独り占めしたかった。

閉じた画面の向こう
最後のメールを送信して、創矢は肩の力を抜いた。ノートパソコンの画面が暗くなり、デスクの端に置いた図面だけがライトを拾う。飲みかけのコーヒーは、もう湯気もない。
時計の針は、日付が変わる少し前を指していた。
椅子の背にもたれたまま目元を軽く押さえる。その首の後ろに、そっと腕が回った。
肩口にやわらかな額が触れる。
創矢は驚かなかった。
振り返る前から、誰なのか分かっている。
「起きてたのか」
少しだけ顔を横に向けると、後ろに立った律がこちらを見下ろしていた。薄いブルーの部屋着。少し乱れた前髪。耳元には淡い青の補聴器。
眠そうなのに、その目だけは創矢から離れない。
「先に寝てると思ってた」
律は返事をしない。代わりに首元へ回した腕を少しだけ締め、肩へ頬を寄せた。
「……迎えに来た?」
その言葉に、律のまぶたがわずかに上がる。
図星らしい。
創矢の口元がゆるむ。
律の指がシャツの胸元をつまんだ。
「……そ、や」
呼ばれたのは名前だけ。
けれど、その声だけで十分だった。

迎えに来た恋人
創矢が椅子を回すと、律は自然に膝の間へ入り込んだ。そのまま見上げてくる視線に、創矢は小さく笑う。
「そんな顔しても、もう仕事は終わったよ」
律の口元が少しだけゆるむ。けれど首元へ回した腕は離れない。創矢が頬へ手を添えると、その手のひらへ頬を預けるように目を細めた。
指先が前髪をかき上げる。
髪の中を通り、そのまま後頭部へ。
ゆっくり撫でられるたびに、律の肩から少しずつ力が抜けていく。
「……そ、や」
呼ばれた名前に視線を落とす。
見上げてくる目は、さっきからずっと同じだった。
仕事だけじゃなくて、今は自分も見てほしい。
そんな気持ちが伝わってくる。
創矢は頬へ触れたまま顔を近づけた。
唇が重なる。
短いキス。
離れたあとも律はそのままだった。
首元へ回した腕は解けない。
創矢の肩へ頬を寄せ、小さく擦り寄る。
その仕草に思わず笑うと、律は少しだけ顔を上げた。
見つめ合う。
ほんのわずかな距離。
創矢の指が髪を梳く。
耳の後ろから後頭部へ。
ゆっくり撫でられるたびに、律の目が細くなる。
気持ちよさそうに目を閉じたかと思えば、今度は創矢の首元へ額を押しつけた。
創矢の腕が腰へ回る。
律も応えるように首へ腕を回し直した。
離れない。
離すつもりもない。
しばらくそうしていたあと、律が顔を上げる。
それから寝室の方へ視線を向け、もう一度だけ創矢を見る。
言葉はいらなかった。
創矢は笑って、そのまま律を抱き上げる。
ふわりと浮いた体は自然に創矢へ寄り添った。
律の腕が首へ回る。
肩へ頬を預けると、安心したように目を閉じた。
デスクライトだけが残る部屋。
閉じたノートパソコンの横で、冷めたコーヒーが静かに置かれたままだった。

あとがき
最後まで読んでくださりありがとうございました。
仕事を終えた創矢を迎えに来た律。少しだけ甘えたかった夜を書いてみました。
その先は、二人だけの時間です。
Thank you for reading! ❤️
I hope you enjoyed this quiet moment with Soya and Ritsu.
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Clover Room🍀
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