見出し画像

【舞台】万能グローブガラパゴスダイナモス×ゴジゲン×小山田壮平 「見上げんな!」福岡公演千秋楽 ネタバレあり感想

午前9時7分。
広島駅でこだまに乗り込み、博多駅へと向かう。
2時間弱ほど経った11時過ぎ、もうすぐ博多駅に到着する旨と、列車はこのまま博多南駅へと向かう旨を知らせるアナウンスが車内に流れた。

博多南駅。
春日市でタクシー運転手をしていた祖父が存命の頃は、博多駅で降りずに博多南の車両基地まで新幹線に乗っていたことをなつかしく思う。
祖父母が共に他界した現在は、中国地方飛ばしのライブや演劇を見るために福岡を訪れても、博多駅で降りるようになった。
祖父母の墓は春日にあるが、福岡市内からは微妙に距離があることもあり、申し訳ないことに最近はあまり訪れていない。

鑑賞動機

劇とは一見なんの関わりもなさそうな前置きのことは一旦置いておいて、まずは本作を見に行くことにしたきっかけを書き留めたいと思う。

私はヨーロッパ企画が好きで、劇団の本公演、最近は毎年開催されるようになったニッポン放送とのプロデュース公演、劇団内派生ユニットであるイエティの公演は、2016年以降全て観劇している。

しかし、劇団員の外部公演への出演については、基本的に東京公演のみ、あっても東阪公演のみということが多く、地方住みの私にとってはなかなか見に行く機会を捻出できずにいた。

今回は福岡の劇団『万能グローブガラパゴスダイナモス』の公演に酒井善史さんが客演で出演、しかも演出はヨロ企の主宰・上田誠さんの弟子である松居大悟さん、福岡の劇団なので当然福岡公演もあって、居住地から比較的アクセスしやすい。
ヨロ企の劇団員はみんな好きだが、好きな役者を一人に絞れと言われたら酒井さんになるということもあり、情報解禁即鑑賞することを決めた。

開演前

風街珈琲店

11時過ぎに博多駅に到着し、時間余裕があったのでバスに乗って天神へ。
ゴジゲンの善雄善雄さんが作成し、酒井さんもチャレンジしていた福岡グルメBINGOに掲載されている風街珈琲店で昼食を取った。

風街珈琲店木板
風街珈琲店木板
酒井さんも注文したパスタセット(オーロラ)
酒井さんも注文したパスタセット(オーロラ)をストーカー的に注文

開場後ロビー

風街珈琲店から5,6分歩いて、中ホールは今作がこけら落としとなる福岡市民ホールへ。
客席の開場までは少し時間があったが、稽古中の写真や、各種インタビュー、ガラパの歴代公演のチラシなどが掲示されており、開場待ちの間も充実した時間を過ごすことができた。
特にインタビューについては、福岡県外の人間ではなかなか目にしにくい新聞の地方版やローカル誌掲載のものを事前に読めたのが収穫だった。

物販でパンフレットと台本を購入し、今作の脚本を務めた川口大樹さんにサインをいただいた。
サインをいただいている間、

  • ヨーロッパ企画のファンで、ガラパのお芝居は初めて見ること

  • 区役所職員役の酒井さんを見るのがとても楽しみなこと

  • 県外の人間だが、母方の親戚は全員福岡に住んでいること

  • 福岡市民ホールの外観写真を母に送ったところ、頼んでもいないのに長文の思い出LINEが返ってきたこと

などをお話しさせてもらった。

福岡市民ホール外観
この写真を送ったら、「私が高校時代にチェッカーズを見た須崎公園も再整備以下略」みたいな長文LINEが来た

客席も開場したので中に入ろうとしたところ、え!!ロビーに松居大悟(敬称略)もおるやんけ!!!
厚かましいながら松居大悟(敬称略)と一緒にお写真を撮ってもらい、「私広島に住んでて、リライトのエキストラに応募してたんですけど全落ちしちゃって、そしたら後日脚本:上田誠案件で余計に大ショックを受けまして、あっ、でも公開めちゃくちゃ楽しみにしています、お写真ありがとうございました」と、オタク特有の早口でまくし立ててその場を去った。
ド陰キャコミュ障ムーブ過ぎて、我ながら涙が出てきた。

松居大悟父からの祝花
ロビーには松居さんのお父さまと思しき方からのお花も届いていた

役者について

約1,500字の激長前置きを経て、劇本編の感想に移りたいと思う。

酒井さんの役柄について

酒井さんと松居さんの対談記事で、酒井さんは

ウチの劇団はメンバーのほとんどが同世代ということもあり、年齢などを取っ払った記号的な役が多いのですが、最近は等身大のキャラクターを演じることに興味が出てきていて。年相応の役を演じることで、新たな気づきがありそうです

いろいろなモノをずっと“見上げてきた”人たちの群像コメディ 各々の場所で頑張ってきたからこそ実現したコラボレーション

とおっしゃっていた。

実際酒井さんは、画家がたくさん出てくるお芝居で一人特異的にタイムパトロールを演じる(ヨーロッパ企画第36回公演『出てこようとしてるトロンプルイユ』)など、ヨロ企の中でも特に記号的な役割を演じる機会が多い役者さんである。
冗談とはいえ、上田さんには「酒井さんのキャラクターって、やっぱ1種類なんで」とまで言われている。

博士役しかキャラがない酒井善史
博士役しかキャラがない酒井善史

また昨年末に金丸慎太郎さんが入団するまで、酒井さんはヨロ企の男性役者の中では最年少だったということもあり、劇団の公演では若さが求められる役を担当することも多かったように思う。
例:藤谷理子(28=当時)の元カレ役を演じる。なお酒井善史(43=当時)。

今回は、役所の職員といういかにも酒井さんらしい堅物な役柄かつ、初登場のシーンで「アジェンダ!レジュメ!パワーポイント!スキーム…セグメント…ユーザビリティー!」と中身のないカタカナ語を連発したり、「福岡タワー全長234メートル」といった数字の入った説明台詞を振られたりなど、川口さんが酒井さんに当て書きしたんだろうと感じる場面も多かった。
一方で、「バンドでギターを弾いていた」という過去が明かされて以降は、“40代のおじさん”という立ち回りもかなり増えていたように感じた。
また博多弁をしゃべる酒井さんは、当然ながらかなり新鮮。
上田さん脚本のお芝居でないからこそ生まれた酒井さんの新境地が見ることができ、ヨロ企ファンとして非常にありがたく、楽しかった。

酒井さん制作の小道具について

酒井さんは今作に、役所としてではなく小道具としても参加している。
今回酒井さんが制作した小道具は二つ。

一つは、光るギター。
第一幕で「ギターを光らせることばかり考えていた巻(酒井さんの役名)」というフレーズが出てきた際、「これは絶対に後で酒井さん自作の光るギターが出てくるやんけ!!!」と、めちゃくちゃ興奮してしまった。

実際感動のクライマックスであるライブシーンでギターのピックカード中央部が光り出し、泣けるシーンなのにちょっと笑ってしまった。
しかもエピローグでは、ピックガード中央部に加えて、ボディーの外縁部もピカピカと光っていた。
ありがたいことに今回最前列で観劇していたため、発光のために何かしらの機械が頑張っているのであろう「ウィーーン」という音が微かに聞こえてきた。爆笑。

もう一つの小道具は、宇宙と交信するアンテナ。
アンテナ部分が光ったり、粒子がどうのこうの(台本を確認したところ、酒井さんのアドリブ)とか言ってシャボン玉が流れてくる仕様になっていたりと、酒井さんのこだわりが細部にまで詰め込まれていた。
なおシャボン玉は、感動のライブシーンでも大量に噴き出されていた。いや笑うって。

向野さんについて

ここまでヨロ企ファンらしく酒井さんのことばかり述べてきたが、初見の役者さんで非常に印象に残った方がいる。
それが、主人公の父親・未知人を演じた向野章太郎さんである。

向野さんは、博多弁が特にキツいタクシーの運転手を演じていた。
未知人がタクシーを運転する姿を見た際、私の脳裏には5年半ほど前に亡くなった祖父の姿が思い浮かんだ。
冒頭に述べた、個人タクシーの運転手だった祖父である。
お仕事がお休みの日にタクシーの車両に乗せてもらったな、朝倉の出身ということもあってか方言も強かったな、と祖父の思い出がどんどんあふれ出てきて、劇とは全然関係ない理由で泣いてしまいそうになった。
お芝居に集中できなくなるので、慌てて祖父の記憶を脳内から吹っ飛ばしたくらいだ。

また未知人の初登場シーンの冒頭、非常にローカルなワードを頻出させながら、彼が道を説明する場面がある。
台本を確認したところ、このセリフはほとんど向野さんのアドリブだった。
これは直近で一番衝撃を受けたアドリブかもしれない。

向野さんが演じた未知人は、本当に福岡のタクシーのおっちゃんそのものだった。
“運転手っぽい”ではなく、まさに“運転手”だったのである。
身内に福岡のタクシー運転手がいた私が言うんだから間違いない。

とにかく向野さんのお芝居が素敵で、今回特に心に刻み込まれた。
願わくは、他作品でもまたお目にかかりたい。

舞台セットについて

今作は舞台セットも素晴らしかった。
特筆すべきは、舞台中央部にある円柱状のセット。

備え付けられている階段は可動式で、円柱周囲を回ることができる仕様になっていた。
これにより、階段に乗ったまま役者の移動が可能になり、物語のスムーズな進行を促していた。

また円柱は内部に入ることができるかつ、中が透けて見えるようになっており、回想シーンやエレベーターに乗るシーンなどで活躍していた。

「見上げんな!」という公演タイトルにふさわしい、高さを生かした舞台セットになっていたと思う。

"福岡ローカル度"100%

今作は、想像以上に博多弁や福岡の地名、ローカル固有名詞が飛び交う、"メイドイン福岡"な舞台だった。
私自身は県外客とはいえ、母がいまだバリバリの博多弁話者であるし、福岡に地縁もあるため、方言にもローカルワードにも8割方ついていくことができたので、良かったなと思う。

この舞台を、これから福岡にゆかりのない東阪のお客さんが見てどう感じるのか、いち観客ながら非常に楽しみである。

「見上げんな!」というメッセージ

今作に登場する「ボイジャーズ」のバンドメンバーは、遥か空の彼方にある宇宙に未練を残している。
その未練が完全に解消し、完璧なハッピーエンドになるわけではない。

過ぎ去ったつらい過去を変えることは、どうあがいても、努力してもできない。
しかし、その未練を「見上げ」ずに、折り合いをつけて、未来を、前を向いて生きていこうというメッセージを感じた。

小山田壮平ミニライブ

終演後には、本作の音楽を担当した小山田壮平さんによるミニライブが行われた。
セットリストは、

  1. すごい速さ

  2. 革命

  3. 時をかけるメロディー

  4. 夕暮れの百道浜

すごい速さ』は、小山田さん的に「ガラパと言えば」という楽曲らしい。
4曲目は本作のために書き下ろし、劇中でも歌われた楽曲だった。

andymoriにわかリスナーとしては、「たったの5,500円で素晴らしいお芝居を見た後に、『すごい速さ』と『革命』も聴けるの!??」と驚きとうれしさを覚え、不勉強ながら初めて聴いた昨年リリースされたソロ曲に胸を打たれた。
圧倒的な声量の大きさ、天性の歌声、緩急のついたアコギの演奏
“ミニライブ”ではあったが、素晴らしいものを見せてもらったという満足感でいっぱいだった。

ミニライブ終了後、ガラパの主宰である椎木樹人さんがカーテンコールで呼び忘れた川口さんと松居さんを呼び込み、4人でトーク。
椎木さんはカテコでしゃべれなくなるなど前々から怪しかったが、この時点で泣いており、他3人も最前から見た限りでは目がウルウルしているような気がした。
アニメオタクにしか伝わらないたとえで申し訳ないが、そんな4人を見ながら私は「リアルSHIROBAKO23話じゃん……」と、こちらまで感慨深くなった。

最後はキャスト全員が再集結し、本日のみ特別に記念写真の撮影。

椎木さんが一人客席に降りてそのまま物販へと向かい、その他メンバーが壇上からそんな椎木さんを見守りながら、千秋楽の幕が降りた。

終演後

物販横で椎木さんのサイン会が開かれていたので、私はパンフレットにサインをいただいた。
観劇直後でいろいろな感情がこみ上げてきたということもあり、「ヨーロッパ企画のファンで、ガラパのお芝居を今回初めて見ました。また観に行きます」と、ありきたりな感想を述べるに留まってしまったと思う。

最後に

各種インタビュー、パンフレット、終演後のトークなどを通じ、とにかく椎木さんの「福岡発で面白いものを作りたい!」という並々ならぬ熱量がこれでもかと伝わってくる作品だった。

私自身大学進学時に上京して、地元にUターン就職しているのだが、周囲の友人は大学で県外に出たままほとんど戻ってきていない。
今は地元にいるのに、旧友が誰もいないというなんともさみしい状態だ。
私も地方在住の身として、椎木さんの「地元に根差しているからこそ、なにかできることがある」という理念には勝手ながら共感させられたし、強く胸を打たれた。
私は福岡のローカル特撮のドゲンジャーズが好きなのだが、特に東映特撮のファンというわけでもない私がドゲにハマったのも、”ローカルだから””福岡だから”という部分は大きいだろうし、やっぱり福岡という土地だからこそ独自進化を遂げるエンタメってあるのだと思う。


ガラパは12月に東福ツアーを行うとのこと。
私も福岡公演を観に行きたいと思っている。

福岡で就職した妹や、母方の親戚大勢がおり、ライブ遠征でもよく訪れるとはいえ、祖父母が共にくなって少しだけつながりが切れてしまった福岡。
私にとって”第2の故郷”である福岡に、”ガラパ”という帰る理由が一つ増えた
福岡への熱い思いが詰まった『見上げんな!』という作品を鑑賞して、私も福岡という土地への思いが増したように思う。

いいなと思ったら応援しよう!

不健康運動 金銭的なサポートは不要です。 スキやアカウントのフォロー、記事の拡散などを行っていただけますと、大変うれしいです。

この記事が参加している募集