「目詰まり」という名の供給不足 政府のナフサ言説を一次資料で解剖する
風吾チャンネル 2026年4月27日
政府はずっとこう言い続けている。「供給は足りている。問題は流通の目詰まりだ」と。
だが少し考えれば気づく。流通が詰まる理由は何か。川上から原料が来ないからではないのか。
「目詰まり」とは、官僚語で書かれた供給不足の告白だ。今回はその構造を、政府の一次資料に基づいて解剖する。
1. まず数字を直視せよ
議論の前提として、現時点のナフサ在庫の実態を確認する。
【現状データ】

ここで重要なのは、「原油備蓄230日分があるから大丈夫」という論法がナフサ危機に機能しないという点だ。
原油を精製してもガソリン・軽油などの燃料油が優先される。石油化学向けナフサに回せる割合は精製量の約10%に過ぎず、設備制約もある。「原油備蓄」という数字は、ナフサ不足を隠す煙幕として機能している。
2. 「4ヶ月分確保」という算数のトリック
高市首相はこう説明した。
【政府説明・高市首相 2026年4月5日】
「ナフサ2ヶ月分と川中製品(中間製品)2ヶ月分を合わせて、計4ヶ月分の在庫を確保している」
一見、余裕があるように聞こえる。だがこれは算数のトリックだ。
ナフサ現物は「2ヶ月分」しかない4ヶ月の半分、つまりナフサ現物の在庫は2ヶ月分に過ぎない。
残り2ヶ月分は「川中(中間製品)」の在庫だ。
川中在庫とは、ナフサをクラッキングして得られるポリエチレン・エチレン等の中間製品のことだ。
これはすでに製造済みの在庫であり、製造ラインの原料にはならない。
首相の説明は、性質の異なる2種類の在庫を足して「4ヶ月分」と呼んでいる。石油化学産業が必要としているのは原料としてのナフサであり、川中在庫は下流への時間稼ぎにはなっても製造継続の保証にはならない。
生産量はすでに「前月比23%減」だ
もし本当に供給が足りているなら、なぜ生産量が激減しているのか。
2026年2月、国内ナフサ分解装置の稼働率は75.7%まで低下し、エチレン生産量は過去最低を記録した。
「確保している」という言葉と、現場の数字は真っ向から矛盾している。
3. 「目詰まり」レトリックの解体
経済産業省は4月10日付の対応方針案にこう記している。
【経産省・対応方針案 2026年4月10日】
「日本全体の石油供給は足りているが、流通段階で目詰まりが発生しているため、対策を一層強化」
この文章で政府が言っていないことに注目してほしい。
「川上の問題」を「川中の問題」にすり替えている
赤澤経産相は同時期の会見でこう述べた。「塗料用シンナーの供給不安については、川上の石油化学企業では
国内供給が継続しており、川中のどこで目詰まりが発生しているか特定すべく確認しているところ」と。
川中の目詰まりを調査中と言いながら、川上(ナフサ調達)が逼迫していることは既知の事実だ。
川上が詰まれば川中が詰まるのは当然であり、この説明は矛盾している。
「目詰まり」という言葉は、川上の供給不足という本質的な問題を、流通の非効率という二次的な問題に
すり替える機能を果たしている。
「日本全体として」という但し書きの罠
「日本全体として必要となる量を確保している」という表現も要注意だ。「必要となる量」の基準は何か。
エチレン生産が前月比23%減となっている状況で「確保できている」というなら、
それは「縮小した需要に対して充足しているというだけだ。」平時の需要水準での充足とは全く意味が異なる。
4. 構造的欠陥は今に始まった話ではない
石油備蓄法はナフサを備蓄対象としていない。対象は原油とLPGのみだ。
原油は国家が守るが、石油化学メーカーが同じ中東から輸入するナフサは誰も守らない。
同じ中東依存なのに、法制度が縦割りのまま放置されてきた。これは今回初めて露呈した問題ではなく、
長年わかっていたことだ。
日本はナフサ95%依存という、先進国の中でほぼ唯一の構造を持つ。米国・欧州・中国は
エタンや石炭など代替原料を持っているが、日本は中東からナフサが来なくなれば
化学産業が止まる設計になっている。今回の危機は「不運な出来事」ではなく、ー設計通りの帰結ーだ。
5. 専門家が示す「6月」という時間軸
TBS「報道特集」に出演した専門家はこう述べた。「需要に供給が追いつかなくなり、
日本にとって深刻な影響が出る恐れがある」——いわゆる「6月に詰む」発言だ。
政府はこれに反論したが、趣旨の否定はしていない。「深刻な影響が出る恐れがある」という部分は
誰も否定していないのだ。
三井化学は「6月初旬までは稼働維持できる分を確保している」と答えた。
これは裏を返せば「ー6月以降の安定調達は確約できないー」ということだ。
政府の「確保している」と現場の「6月まで持つ」は、時間軸が根本的に異なる。
結論:「目詰まり」は供給不足の委曲表現である。整理すると、以下の5点が明らかだ。
① ナフサ実在庫は2026年1月時点で約0.45ヶ月分。危機的水準にある。
② 「4ヶ月分確保」は川中在庫を合算した政治的な数字であり、製造継続を保証するものではない。
③ エチレン生産が前月比23%減という現実は、「供給は足りている」という説明と矛盾する。
④ 「目詰まり」という表現は、川上の供給不足という本質を流通問題に矮小化するレトリックだ。
⑤ ナフサが石油備蓄法の対象外であることは立法上の既知の欠陥であり、政策的不作為の蓄積だ。
政府が「供給不足」という言葉を使わないのは、パニックを避けるための政治的判断だろう。
その判断自体を一概に否定はしない。
しかし、国民が状況を正確に判断するために必要な情報を歪めることは、別の問題だ。
「目詰まり」とは、官僚語で書かれた供給不足の告白である。そこだけは、はっきりしている。
※【参照一次資料】経済産業省対応方針案(2026年4月10日)/赤澤経産相閣議後会見(2026年4月3日)/経産省石油統計(2026年1月)
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