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その「自由でいいよね」は、何度だ?

「自由でいいよね!」

まっすぐで、健やかな言葉。
8文字。

だけど私には、これは本当にそのままの意味なのか、180度捻った皮肉なのか。はたまた117度くらい捻った、皮肉と羨ましさの間なのか。

それがわかってしまうのだ。ぜんぶ目分量で生きているのに、これはきっちり測れてしまう。

まっすぐな言葉は、まっすぐ投げてくれよ!

心の中で「ストライクッ」だとか、「おぉ!すごいスライダーだ!」などと、甲子園しか見ない素人の女が判定している。

こんな事では、野球ファンに怒られちゃうな。

私は今、フリーターだ。
フリーランスではなく、フリーター。

響きは似たようなもので、まぁかっこいい。

新卒入社からものの7ヶ月で適応障害になり、退職して地元に帰ってきた。

中学生の頃からカフェを開くことが夢だった私は、公立大学の経営学部に進学した。大学3年生の頃、周りの友達が少しずつ就活を始め、次第に髪色は暗く、未来は明るくなっていく。

でも、私はこれっぽっちもスーツを身に纏う気にはなれなかった。

実家が農家で、親が企業に勤める姿を見たことがなかったせいか、一度も企業勤めする自分を想像したことがない。

やっぱり、カフェに就職しよう。
社会のレールから初手で外れることを決めたのは、大学3年生の秋だった。

そういえば大学4年の春に、地元の(本当は少しだけ異性として好意を持っていたかもしれない)友達と、会って話をした。

最近はどうだ、就活はどうなったと。

風が心地良い、ピンクとオレンジが淡く滲む、マジックアワーの空だった。

彼は昔から憧れていた、公務員の職に就くらしい。「それはいいねぇ!」と言った。もちろん、1度も捻りのない、まっすぐな“いいね”だ。

一方、私がカフェに就職したいんだと話すと、

「え、せっかく勉強して大学行ったのに、企業行かないの?しかも、よりにもよってカフェ?まぁ、自由でいいよね。」

と彼は言った。

ん、?こうなったらリクエストだ。
ちょっと審判リプレイしてくれ!

大学行ったのに、企業行かないの?
_1アウト。

よりにもよってカフェ?

_2アウト。


まぁ、自由でいいよね。

_3アウト!!!!


もう、終わりだ終わり!というか退場だ!

そんなわけで、ストライクゾーンにいたはずの彼は、私の心から退場させられた。あれは見事に180度捻った「いいよね」だった。

「よりにもよって」とは何だ。カフェを馬鹿にしているな?これだから田舎の地元っていうのは困ったもんだ。

その後、いろんなカフェを巡ったり、直談判しては断られたりして、最終的にご縁あってカフェでの就職が決まった。

が、退職した。

レールを外れた先で大事故を起こして、
今は道なき道を裸足で歩いているところだ。

ふと、小学生の頃のゴールデンウィークを思い出す。友達は皆車で旅行に行く中、私は裸足で田んぼに入って父の田植えを応援した。

あぁ、その時に似ている!

周りは正しく楽しい方へ向かっている時に、私は裸足で自分が面白いと思う方へ進んでいる。一応父やご先祖様のために言っておくが、周りと違う認識があるだけで、周りを羨んだり自分の暮らしに不満を持ったことはない。

むしろ、農家の娘に生まれた自分が好きだ。( 新学期に「うちは牛農家だ」と自己紹介すれば、大抵初日から覚えてもらえる)。

その記憶のせいか、こんな現実も案外しっくりきてしまう。なかなか悪くないものだ。

退職後には、普通に企業へ就職できないかと、ずいぶん調べて検討した。

できなかった。

どうやら私は、「普通の職場で、普通に働く」をインストールするためのOSが、うまく起動しないらしい。FRUITS ZIPPERは「さ、アップデートしよ?」と歌い誘ってくれているが、できることならぜひそうしたい。

それに私は、まだカフェで働きたいと思う。
懲りない女だ。

そのせいで、彼と言い合ってしまったり、一人暮らしの家賃を払うのは厳しいと実家に戻ったり、色んなことがあって今ここにいる。

そんな事をかいつまんで話すと、
大抵言われるのが「でも自由でいいよね!」だ。

自由で、いいのか!
本当に、いいと思うんだろうか。
選べるなら、私と同じ道を選ぶのか?

「あ、これは180度捻った『いいよね』だ…!」
「おぉ、この人は140度くらい捻ったな。」
と、つい頭の中に数字が浮かんでしまう。

これだから田舎は、と思っていた地元に戻り、(異性だがそういう好意は微塵もない)また別の友達と会って話した。最近はどうだ、これからどうするんだと。

店内に煙が漂う昼間の中華屋で、
浜松餃子と回鍋肉を食べた。

これまでどんなことがあって、これからのことは何もわからない。
でもカフェはいつかやりたい。

そう話すと、「自由でいいよね。本当にさ、これからがすげぇ楽しみよ!」と言ってくれた。

あぁ、捻ってないや。
まっすぐ、健やかな言葉。

もう心に審判を置いておけないほど精神が参ってしまっていた私に、それは気持ちのいいくらいストレートに届いた。なんだこの世界も、少なくともこの片田舎の地元も、なかなか悪くないじゃないか!

きっとこの先も私は、何度も色々な角度の「自由でいいよね」を言われるのだろう。

まっすぐ届けてくれた言葉は、
その言葉もその人のことも、大切にしよう。

180度捻って投げられた言葉は、また180度捻って、健やかに受け取ってしまいなさい。

それでは最後に、練習しておこう。

「でもさ、自由でいいよね。」
おぉ、これは180度捻った「いいよね」だな。

そうしたらこうだ。

「えぇ、自由でとってもいいのよ!
でもそちらこそ、自由でいいねぇ。」

私は何度捻ったかって?
470度くらいかしら。


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