見出し画像

【ショート】 キスサプリメント


動けなかった。

木と木の隙間から溢れる僅かな陽の光をぼんやりと眺める。
風で揺れる葉の掠れる音が、不安を煽った。
いつもなら軽快に駆け抜ける森は、今はただ薄暗く、静寂が体を少しずつ冷やしていく。
つい、数時間前までは、温かな空気が包んでくれていたのに。
立ち上がろうとすると、左脚が痛んだ。
擦り傷から血はとうに止まっているのに、動かそうとすると、冷や汗が落ちる。
大きく息を吐くと、その場に丸く蹲った。

滲む視界の向こうに気配が生まれる。

全身が逆立つ。

――逃げなければ。

立ち上がろうとすると、鋭い痛みが左脚から全身へと走る。
右脚だけでは支えられず、乱れる呼吸のままに、その場に崩れ落ちた。
気配は近づき、やがて目の前が翳る。

もう……。

強く目を閉じると、荒い息が顔にかかる。
体を小刻みに揺らし、縮こませていると、左脚の擦り傷をベロンと舐められる。

――え

僅かに顔を上げる。

ざらついた舌が黄色い毛並みの奥の傷に触れる。

痛みが止まった気がした。



(410文字)




こちらの企画に参加しています🌿



いいなと思ったら応援しよう!

COBITo|物語を書く人 【のんびり率120%🌿】 この物語を楽しんでいただけたら、そっと応援していただけると嬉しいです。いただいたチップは、物語を続けていく力に使わせていただきます。