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【ショート】 声を奪われてから

―― short story ――

魔女は言った。
私を心から想う人が現れたら、元に戻れると。
それだけだった。

ひらひらと羽を動かしながら、揺れる葉の間に身を隠す。
手を伸ばして、ベリーの実を一つ取る。
大きなそれを腕いっぱいに抱えて、少しずつ頬張った。
今日は、たくさん、飛ばないといけないから、腹ごしらえが必要だった。
東の森は、これからの季節、寒くなる。
西の森へ向かおうとしているところだった。
夕日が沈む。
木の穴を覗くと、そこには何もいなかった。
ここで、休ませてもらおうと、葉っぱを敷いて横になる。
羽を閉じると、光が薄らぐ。
そっと目を閉じた時、木が揺れた気がした。

――いけない。

飛び起きたが、少し遅かった。
大きなリスが入り口を塞いだ。
……ごめんなさい。
寝床を奪うつもりはなかった。
リスは私に鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。
歯が除くと、少しドキッとしたが、特に何もされなかった。
肩から力が抜ける。
端っこに追いやられたが、葉っぱを奥に敷き直してくれる。
その日は、リスの温もりに包まれながら眠った。

心地の良い感覚がなくなると、木の穴はガランとしていた。
代わりに眩しい陽光が穴の中まで照らしている。
……行かないと。
立ち上がろうとした瞬間、目の前が陰る。
大きいけれど、愛らしい鼻が身体に擦り付けられる。
……くすぐったい。
思わず、口元が緩む。
穴の中に入り込むと、私はまた端っこに追いやられる。
入り口も塞がって出れない。
目の前に、木の実やベリーの実が置かれる。
リスを見上げる。
穴が小さすぎて、密着したまま、顔が見えない。
指を伸ばす。触れる前に、引っ込める。
リスの目が私を捉える。
深い、黒い瞳。
指を外へ差す。リスに伝わるだろうか。
なぜか、リスは首を横に振った。そして、顔を背ける。
わからないまま、私はまた一晩リスと過ごした。

その日、森が一瞬だけ止まる。

そのあとで、音が割れた。

穴の隙間から息を殺して様子を伺う。
獲物になったのは、鹿だったようだ。
だらんとした体を男が抱き抱えている。
胸が冷たくなる。

その夜は、その木の穴で一晩過ごした。
木の実はリスが持ってきてくれて、満腹で眠った。
次の日の朝、リスがいなかった。
待っても、帰ってこない。
両腕を抱く。
体が冷たくなっていく。
そっと、穴から顔を出す。
変わらない森の朝。
今日は少し靄が濃かった。
飛び出す。
少し高めに飛ぶと、森の終わりの村の方へ進む。
胸がざわめき、首を振る。
考えないようにして、速度を上げる。
村の近くで急降下する。出入り口に積まれた台車には、
獲物にされた動物たち……。

息が止まる。

人間たちは、まだ、家の中にいる。
外にいるのは、猟師が一人と門番が二人だけ。
そっと、台車に近づく。
涙がぽろ、ぽろ、と零れる。
そばに行くと、腹の辺りが撃ち抜かれて赤黒く染まっている。
手を伸ばし、触れる。
ふわっとした毛並みは柔らかい。
とめどなく雫が溢れ、前が見えなくなる。
私は背中に手を置き、四つのうちの一つを引きちぎった。
光る羽を傷口に添える。
不思議な光は、傷を瞬く間に治した。
冷や汗が伝う。
リスの顔を見るとゆっくりと目を開き、体を起こす。
……良かった。

ふと、目の前が暗くなり意識を手放した。

息が苦しい。
体が熱かった。
目を開いても、しばらく闇しか見えない。
ひやっと口元が濡れた。
……心地いい。
だんだんと視界が明るくなっていく。
見覚えのない部屋と、
深い黒い瞳がそこにあった。
でも、リスじゃない。
ふと、頭がクリアになる。

「……誰?」

――声が出る。

黒い瞳が、わずかに揺れた。
何かを確かめるように、じっと見ている。

彼は、何も言わない。

ただ――

少しだけ、距離を詰めた。



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