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【ショート】 世界樹の見張り番

―― short story ――


今日という日が待ち遠しかった。
やっと、君に会える。

「エナ」

「トマ」

笑い合う。

草木を踏みしめると、風が吹く。
風は花の甘い香りを運び、息を大きく吸い込んだ。
そのまま二人でくしゃみをすると、また笑った。
森に響く笑い声。
手を繋ぐ。

朝の光が頭上で輝き出すと、巨大な木がその姿を見せる。
どちらともなく吐息が漏れる。
立ち尽くしていると、後ろから声が聞こえた。
「行かなきゃ」
「うん」
木々がざわめく。
風に背中を押され、二人は走り始めた。

選ばれたのは、エナだった。
トマの口角が下がる。
子供は二十三人いた。
口の中が苦かった。
その日からトマはエナの手をずっと握った。
エナは笑っていた。

その日が来た。
エナはトマを見た。
そして、巨大な木に吸い込まれていった。
すると、それと入れ替わるように男の人が巨大な木から出てきた。
後ろから女の人が走ってきて、男の人に抱きついた。
二人は泣いて、それから笑った。
女の人の手には、花束があった。

大人になった。
トマは巨大な木の前で花束を持っている。
今回選ばれたのも、女の子だった。
女の子は怯えていた。
大人たちが背を押すと、女の子は泣き出した。
口の中が苦かった。
女の子は吸い込まれなかった。


花束が落ちた。


吸い込まれなかった女の子が成人した。
歯軋りが止まらない。
今年は男の子だった。

男の子はトマを素通りして、
迷わず吸い込まれていった。

すると、一人の女性が木から出てきた。

トマは走った。

「トマ」

信じられないほど美しくなったエナが、トマを受け止めた。

「エナ」

「……ずっと、見てたの。ありがとう」

「ごめん、花を用意するのを忘れてしまった」

「たくさん、くれたから。……ほら」

しなやかな指が差す先には、木の下を埋め尽くすほどの枯れた花の跡。

エナの手を握る。
エナが手を握り返す。

足元で、枯れた花びらがふわりと舞った。

世界樹の木が揺れる。

今度は、二人で樹の中へ吸い込まれていった。



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