【ショート】 未練配達員
雲の上はふわふわで歩きづらかった。
いっそのこと少し飛び跳ねて走る方が早い。
何人もの人たちが、雲の上を飛び跳ねている。
白い雲に足をつけると、ふわっと煙が立って消える。
いつもの景色なのに、今日は胸がざわめく。
鈍色の空が目前に迫っている。
風が足をさらう。
バランスを崩すと、肩から下げたバッグの中身が落ちそうになる。
慌てて押さえると、無事を確かめるように覗く。
大きく肩から息を吐くと、雲を蹴った。
夕方になる頃には、バッグの中身は空だった。
残るは手にしている一通の封筒だけ。
「最後の仕事だ」
雲を蹴る足が、思うように前へ出なかった。
それでも雲を蹴った。
霧に覆われた屋敷に着くとチャイムを鳴らす。
出てきたのは、毎日見ている顔だった。
いつも嫌な顔をせず、開けてくれる。
けれど、それだけだった。
背を向けると、窓からずっと僕を見ているのに。
封筒を差し出す。
受け取ると何も言わずに扉を閉めようとした。
「もう来ません」
扉が止まる。
初めてだった。
(410文字)
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