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龍と星のあいだで 第四章 森へ還る ― 祈りの道を歩く ―

休日の神社には、たくさんの人が訪れる。

わたしは、いつものように一礼をして、
鳥居をくぐる。

左手には、祓戸神社。

祓え給え、
清め給え、
神(かむ)ながら
守り給い、
幸(さきわ)え給え。

穢れを祓い清め、
参道へ向かう。

空気が変わる瞬間を感じたくて、
意識を集中する。

見えない壁を通り抜けると、
ひんやりとした澄んだ空気へと変わる。

大杉の森へと入ると、
暗いはずなのに、
とても爽やかな気持ちになる。

地面は苔に覆われ、
木漏れ日が光と影をやさしく映し出していた。

潤いのある森。
けれど、濡れた感じはなく、澄んでいる。

清流が流れ、
小さな滝壺がころころと音を立てる。

ここは、いつも変わらない。

時間の流れが一定で、
不思議な感覚に迷い込む。

灯籠の下には、うさぎの置物。

「今日も精が出ますね」

小さく声をかける。

彼女には、役目があるのだ。

三本杉が、いつものように出迎えてくれる。

見上げると、遠くで
「よく来た、よく来た」
と言われたような気がした。

また、参りました。
ありがとうございます。

赤い楼門をくぐる。

朽ちた立木が、
苔の羽織をまとい、
神楽を舞うように立っている。

わたしは心の中で、
「今日も素敵でございますね」と賛美を送る。

参道は清流を渡り、
さらに奥へと導いていく。

山紫陽花が、星のようにかわいらしい。

神仏混淆の社には、

天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
高皇産霊神(たかむすびのかみ)
神皇産霊神(かみむすびのかみ)

造化三神、
はじまりの神様が祀られている。

その隣には、大日如来。

大日如来もまた、
宇宙の根源とされる仏様。

天井には、龍雲図。

ここは、
宇宙と深くつながっているように感じられた。

手水舎で身を清め、
いよいよ本殿へと上がっていく。

狛犬様が、
優しく迎え入れてくれる。

ここまで来て、
ふと気づく。

人がたくさんいたはずなのに、
とても静かだった。

誰もいない。

時々、
こういうことが起こる。

奇跡。

奇跡は、特別なものではない。
毎日、わたしたちは何かを選んでいる。

右へ行くか左へ行くか、
立ち止まるか。
声をかけるか。
黙っているか。

その小さな選択が、
思いもよらない景色へ
連れていくことがある。

わたしは、
それを奇跡と呼びたい。

本殿は、
開かれ、整えられている。

わたしは、
丁寧に参拝をする。

国常立尊(くにとこたちのみこと)
大国主命(おおくにぬしのみこと)
伊邪那岐尊(いざなぎのみこと)
伊邪那美尊(いざなみのみこと)
ほか、二十二柱。

御神前は美しく整えられていて、
神様の依り代である鏡が白く光る。

今日もここに来れたことに感謝します。
わたしはしあわせです。

この本殿から下を見ると森が広がり、
花の季節はシャクナゲが色鮮やかに咲き誇る。

本殿の裏へと歩いていく。

そこには、
ひっそりと、
けれど雄大な存在感を放つ、
八大龍王神が祀られている。

わたしにとって、
いつのまにか、
心の拠り所となっていた場所。

ある日、いつものように本殿の裏へ回ると、
道の真ん中に大きな蛇がいた。

わたしが立ち止まると、
蛇はゆっくりと向きを変え、
石段をのぼっていった。

するりと、
八大龍王神の奥へと消えていった。

ああ、誰が信じるだろうか。
こんな奇跡があるなんて。

小さな合図。
小さな奇跡。

この森の空気。
この時間が、わたしの心を整えてくれる。

わたしは、還る場所を見つけた。

この森はとても居心地が良い。
いつまでもここにいたい。

本殿の前に戻り、ベンチに座る。

見上げると、
宇宙へとつながる。

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