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学校を「選べない」ことへの責任。この地ではぐくむ、学びと未来の選択肢とは|コエルワ×教育長

わたしたち㈱コエルワは、北海道の人口数千人~三万人のまちを舞台に教育を主軸として活動しています。この『コエルワ×教育長』シリーズでは、北海道の地方自治体が「教育」をキーワードに、どのような課題や危機感に直面し、それぞれの取り組みをしているのか、そしてそれぞれの教育長が町や子どもたちに抱く願いを、代表・阿曽沼が伺います。

第3弾のゲストは、比布町教育長 北川範之(きたがわ・のりゆき)さん。比布町は、道内でも先駆けて2014年度から小中一貫教育に取り組み、2022年4月には義務教育学校「比布町立比布中央学校」を開校しました。また、弊社が提供する長期休暇支援事業「まなび場」は、2022年度から継続して実施しています。小規模自治体における望ましい教育の在り方とはなにか、対談を通してともに考えていきました。


小中一貫教育から義務教育学校への移行

阿曽沼陽登(以下、阿曽沼):本日はよろしくお願いします。早速ですが、比布町は道内でも先駆けて小中一貫教育を導入し、2022年度には義務教育学校が開校しました。この移行の背景が気になったのですが、どのようなお考えや議論があったのでしょうか。

北川範之教育長(以下、北川教育長):本町の小中一貫教育は、2014年度に北海道教育委員会指定の「北海道小中連携・一貫教育実践事業」を受けたことから始まりました。その後、小中一貫校の運用もはじまった中で、課題が浮かび上がってきたんです。

小中一貫教育により、小学校を卒業後、中学校へスムーズに移行していけるという成果はあったものの、やはり小学校と中学校が本質的な意味で“一貫した”教育を行うことはなかなか簡単ではありませんでした。小学校は6年生が最高学年であり、そこをゴールにして教育活動がされていく。中学校は進学してきた1年生に対して、そこから3年間で生徒を育てていこうと。同じ義務教育機関でありながら、長い間別々の組織として混ざり合うことが難しいものがありました。

阿曽沼:小中一貫教育を掲げていても、小学校と中学校という2つの組織が同じ方針を持つことの難しさ、この難しさをどう打開してきたのでしょうか。

北川教育長:小中が互いに努力して創り上げてきた一貫した教育をより着実のものにするために、教育委員会の我々の在り方を見直したんです。学校だけに任せることなく、我々教育委員会もしっかり学校教育について理解を深めて、まちの方針も足腰の強いものにしていく。学校と教育委員会の関係を強化する必要性もみえてきたんですよね。

そういったところを見直しながら、本質的な意味での“一貫した”教育へ向けて義務教育学校の開校へ踏み切っていきました。

テーマを掲げた一貫した教育体制

阿曽沼:私もこうして自治体のみなさんとご一緒させていただくことが増えて、教育委員会と学校の関係性って様々なところに難しさがあるんだなと感じるようになりました。体制の見直しもありながら開校された義務教育学校かと思いますが、この9年間の一貫した教育の良さって、どういった部分なのでしょうか。

北川教育長:義務教育学校になると、教職員もひとつの組織になります。1年生から卒業する9年生まで、全教職員がすべての子どもたちにずっと関わることができる。子どもたちや保護者にとっては、全教職員が9年間という長い間に渡って、成長を見守ってくれる安心感があります

そして、9学年が一緒に過ごすので世代をこえた関わりもできるようになりました。例えば、9年生で実施する修学旅行の報告会。義務教育学校に移行する前は中学校1、2年生が報告会に参加していましたが、移行後は5、6年生も参加するようになりました。ここには、年上に対する憧れや尊敬といった気持ちが芽生える。さらに、8年生や9年生が1年生へ関わることで優しさや思いやりが育つと。世代をこえた関わりがそうした心の育ちにもつながっているなと思います

阿曽沼:小中一貫教育から義務教育学校への移行によって、組織がひとつになり、そうすることでより徹底した9年間の系統的な教育、さらには幅広い学年の交流が可能になっていくということですね。

北川教育長:さらに、本町は義務教育段階の9年間だけではなく、出生時から義務教育段階までの15年間を見据えて、子どもを育成することを掲げています。その点においては、定例の学校長・教頭会議のメンバーに新たに認定こども園の園長も含めた会議体制にしていこうと、来年度から実施していくところです。

阿曽沼:お話をお聞きしていて、小規模自治体だからこそ、まちが子どもたちの教育に果たす責任が大きいなと。どうしても、学校数が少ないという選択肢の少なさがあり、そのひとつの選択肢の中でどのような教育を行なっていくかという責任の大きさがあるように感じました。どう選択肢を担保していくのかというのもまた、難しい課題だなと思っています。

北川教育長:まちの責任はひしひしと感じます。いくつかの学校があって、こういう学校に行かせたいという保護者、行きたいという子どももいると思うんですよね。でも、本町の場合はひとつしかない。だからこそというか、学校もまちもそして外部のひとも一緒になって子どもたちをこう育てていきたいというテーマをみんなで掲げないとならないなと、そう思っています。

阿曽沼:小規模自治体における教育の在り方について、教育長がおっしゃられた、ひとつしかないならば、その中でいかに良い教育をしていくかをまち全体で構築していく、という姿勢はその通りだなと思います。

多様な出会いをまちの中で

阿曽沼:まちとして一貫した教育を重要視することの一方で、我々がいろいろな自治体にお邪魔していく中では、子どもたちが義務教育段階を経て、まちを飛び出した先の高校でうまくなじめないことがあるというお話しもよくお聞きしてきました。

長く成長を見守ってくれる学校やまちであればあるほど、高校で新しい環境に身をおく強さをどのように備えていくか。この点は、僕としても考えてみたいなと思っています。

北川教育長:私たちも、気にかけていた部分です。小さなまちで生まれ育っても、社会で生きていく力をいかに身につけられるのか。ひとつ、そのためにはいろいろな人とのふれあいが必要だと思っています。まなび場も、その一環で導入しているということなんです。

阿曽沼:比布町では、2022年度から現在まで、3度のまなび場を開催させていただきました。これまで継続してまなび場を開催している中で、教育長のご感想をお伺いしたいです。

北川教育長:3度とも、現場に行って様子を見させていただきました。大学生のプレゼンテーション、LEGOを使ったワークショップやつながる装置をつくる活動。どの活動においても、大学生のみなさんの寄り添うような温かい雰囲気が印象的でした。

2024年度のまなび場の様子

子どもたちが自然と自分の考えを口にしたくなるような、そんな空気を醸しだしている。そして、じっくり待つ姿勢。そんな大学生と接して、人見知りしがちな子も、自分の言葉で自分の考えを述べている場面をみたときには、本当に素晴らしいなと思いましたね。

それから、みなさんとの懇親会。あの時間が、ものすごく有意義な時間だったと思い出されます。今の大学生は、こういう考え方をしているんだと、非常に勉強させられました。

阿曽沼:僕も、懇親会の様子はよく覚えています。初年度は北川教育長、そして町長にもお越しいただいて、大学生がまちのみなさんと和気藹々と交流させていただきました。先程「今の大学生」とおっしゃっていましたが、昔と今ではどんな違いを感じていらっしゃるのですか。

北川教育長:僕が若いころは、決められた枠の中にはめられていたというか。その中で、どう考えてどう行動するか。でも今は枠がなく、自由だなと、そういう感じがして。

自由な発想で自由に行動して、それが本来の姿であり、そして多様な考え方があっていいと思っています。だからこそ、そういった大学生が本町の子どもたちと接していくことで、彼らもまた自分たちの考えを表現したくなるんだろうなと思いますね。

これからも共に場をつくるために

阿曽沼:教育長には毎回、まなび場に足を運んでいただいて、このようにおっしゃっていただけることが嬉しいです。毎回継続して見ていただいているからこそ、まなび場にこの要素が加わればいいなと感じることはありますか。

北川教育長:本町の子どもたちにマッチしている場だと思っていますが、強いて言えば、感性をはぐくむようなものでしょうか。それから、野外活動といった体験も一緒にできればいいなと思いますね。

阿曽沼:野外活動と言えば、みなさんにお誘いいただき、まちで開催されている水鉄砲大会「ぴっぷウォータースプラッシュバトル!」に参加させていただきました。まさか、大学生が優勝するとは思っていませんでしたが(笑い)

おっしゃっていただいたように、感性をはぐくむ機会は我々も大事にしたいと感じています。一方で、効果測定が難しく、事業においてはどうしても二の次にしてしまうこともありました。そんな中で、感性をはぐくむ機会をともに創りたいとおっしゃっていただいたのは、非常に嬉しいです。

阿曽沼:また、今年度、弊社は「企業版ふるさと納税」を活用し、企業と自治体をつなぐ資金調達スキームの運用を開始しました。初の寄付企業として太陽工業株式会社にご協力いただいて、比布町への寄付が実現しました。

その際、太陽工業株式会社の関係者の皆様から「なぜ比布町を推薦するのでしょうか」と質問をいただいたんです。僕は、懇親会で村中町長に、なんというか非常にかわいがっていただいたことが印象的で。それから、教育課生涯学習推進室長の幸村さんがおっしゃっていた、「子どもたちには、比布出身というのを誇りに思ってほしいんです。」という言葉。町のなかに脈々とあるあたたかさと子どもたちに対する想いを強く感じて。ぜひ今回は比布町への寄付をお願いしたいという次第でした。

北川教育長:今回は、本当に有難いなと思っています。実は、事業は継続したいけれども、縮小する可能性が出てきていたところでした。僕が教育長に就任した当初から、教育への財源が厚いまちではあるのですが、やはりこうして町外からの財源を集めつつ、まなび場を含めた事業を継続していかなければいけないなと思っています。

阿曽沼:比布町とのこうしたつながりを大切に、来年度以降もまた、良い場を創っていこうと思います。

子どもたちの成長を第一に想う

阿曽沼:こうしたまなび場の導入のように、比布町は、以前から民間企業との連携を熱心に行われている印象があります。練成会との協定をされていました。さらに、教育委員会主催の「寺子屋」事業にも取り組まれています。民間企業と連携した部分も含め基礎学力に重きをおかれている印象を持ちました。

北川教育長:練成会さんとは、2012年から学力向上対策事業をスタートしています。名前の通り、中学3年生の受験対策を中心に単なる学力向上を目的に始まった事業でした。ですが、現在では学習の取り組み方や学習への意識づけと重きが変化しているんです。

「ほくれい塾」という寺子屋事業も、数年間で変化しています。少し前までは、ドリルに取り組む子どもたちの姿が多かったのですが、学校では学ばない体験学習に重きをおこうと、調理実習や木工といったものづくり、そういったものを取り入れています。

子育て世代が、少しでもこのまちの教育がいいと思ってもらえるようにしていきたい、そのために学力の向上に加えた心の成長をはぐくんでいきたいです。

阿曽沼:変化という言葉もありましたが、そういったことに寛容ではないのがこの業界だと思います。北川教育長がその姿勢をお持ちだというのは、すごく素敵なことだなと感じました。

北川教育長:冒頭にお話しした、義務教育学校についても同様です。あくまでも、子どもたちの成長が最優先。義務教育学校についても、小中一貫教育から移行してよかったと言えるように、これから4年目に向かってさらに充実した義務教育学校をつくっていきたいと思っています。

逆のパターンもあるかもしれません。また壁ができたら修正することもあり得ます。義務教育学校は目的ではありません。ひとつの手段です。本町の子どもたちが様々な体験や経験を通して、このまちで豊かに自分らしく育つように、これからも取り組んでいきたいと思います。

対談を終えて

阿曽沼:教育長対談の3回目は、比布町の北川教育長にお話を伺うことができました。
北川教育長は、対談でもおっしゃっておられましたが、これまでの3年間、毎年、しかも毎日現場に足を運んでくださっています。現場ではいつもにこやかに、あたたかく現場を見守ってくださり、また現場以外の場でご挨拶にお邪魔しても、いつも丁寧にお礼を伝えてくださる教育長です。

懇親会の場ではいつも大学生との話が盛り上がっておられるので、改めて町の方針やその背景などをしっかりとお話をさせていただいたのは実は今回が初めてだったような気がします。直前になってしまった質問事項に対しても丁寧に回答をご用意いただき、さらに対談中も「ちょっと話しすぎちゃったかな」と常にこちらを気にかけてくださったのが印象的でした。

一方で、柔らかな語り口の裏側に、教育長の比布町の教育に対する熱い思いと自負、そしてそれが故に発揮できるのであろう、柔軟さを強く感じました。

写真撮影の際に教育長からはこんな話も。「時間が足りなくて十分に話せなかったんだけど……今は”体験”の場が少なくなっているなと感じているんです。昔は、自分たちで遊び道具を作ったり、遊び方を夢中で考えたり、そうして自我を発見していた。でも、今は外遊びの習慣が減っていますよね。我々としてはこうした体験・経験の場を提供していきたい、そういう思いで様々な事業を行なっているんです。そこに関わる大人は子どもたちを見守り、認め、励ます。自我の発見を通して、夢や希望をもつ子どもたちが増えてほしいなと思っています。」

「写真は苦手なんだよね」とおっしゃりながら、私達の現場を見守ってくださるときとおなじような朗らかな笑顔で、最後までご対応いただきました。
年度末の大変ご多用の中を、本当にありがとうございました。

写真右より)比布町教育長 北川範之さん、阿曽沼、比布町教育委員会教育課課長 小菅生竜夫さん

本対談時には、比布町教育委員会教育課課長 小菅生竜夫さんにもご協力いただきました。ありがとうございました。

両名のプロフィール

右)北川範之(きたがわ のりゆき)
 
昭和29年、北海道名寄市出身。北海道教育大学旭川分校を卒業後、昭和52年に利尻町立仙法志小学校に教諭として着任。平成23年から26年まで比布中央小学校の校長を務める。平成27年から旭川市教育委員会公民館事業課嘱託職員を3年務め、その間平成28年から旭川地方・家庭裁判所で家事調停委員を務める。
平成30年より比布町教育委員会教育長に就任し、現在に至る。
就任後は、義務教育学校の開校に尽力し、令和4年度から義務教育学校となる比布中央学校が開校する。
義務教育学校の利点を生かし、9年間の連続性・系統性を踏まえた一貫性のある教育活動を展開し、社会で生きていくために必要な力の育成と様々な経験を通じてグローバル・AI時代を生き抜く力を養うことを目標にしている。

左)株式会社コエルワ 代表取締役CEO 阿曽沼陽登(あそぬま・きよと)
平成元年、京都府生まれ、岡山県倉敷市育ち。医学部を目指して多浪するも挫折。北海道浜中町で酪農業に従事したのち、宮城県女川町で教育NPOの活動に参加。平成25年、24歳で慶應義塾大学に入学。在学中にアルバイト先のおでん屋を間借りし、小中高生が集う学びの場を開設。取り組みは他地域にも拡大。卒業後は若い世代を対象に、教育・研修事業を展開する。平成30年、教育分野での活動が評価され、世界経済フォーラムのU33 Global Shapersに選出。令和元年より創業100年の非教育事業会社の経営企画に参画し、戦略策定やワークショップの運営、中期経営計画の策定に携わる。令和6年、株式会社コエルワの代表取締役CEOに就任。


撮影場所:比布町図書館
編集・作成チーム:太細真弥/谷郁果/南小春 写真:大類日和


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