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狂ってしまったUAEの国家戦略

現在、世界では、様々な要因が後押しして、年間で14万人を超えるミリオネア(投資可能な流動資産、つまり自由に使えるお金を100万ドル以上持っている富裕層)が他国に移住しています。

  • 情報化社会の中で、各国の住環境についての情報を得やすくなった。

  • 各国にて富裕層を誘致するためのインフラ整備が進んだ。外国人へのアピールための税制や教育環境の整備も進む。

  • 価値観の多様化で、真剣に海外移住を考える人が増えた。ブリグジットへの失望や、トランプ氏嫌いで、国を去る富裕層も。


図表1 海外に移住するミリオネアの増加

富裕層が流入する国では、税収の増加や、ハイソサイエティなコミュニティが作られて、そこから新しいビジネスが生まれるなど、様々なメリットが出てきます。一方で、富裕層が流出する国では、富裕層の持つ資本とともに、(富裕層は高度人材であることも多く)頭脳も流出してしまうことになります。

図表2、図表3を参照しながら、各国の状況について確認していきたいと思います。

図表2 各国における富裕層の流出入と、国内のミリオネア概観 (Henley & Partners)

足許で富裕層の流出が目立つのが、中国とイギリスです。

2016年のブリグジット以降、ネット累計で4.5万人のミリオネア(投資可能な流動資産を100万ドル以上持っている富裕層)がイギリスを去りました。また、2024年に誕生した労働党政権下で外国人に対する税制優遇措置が変更されたこともあり、2025年には16,500人ものミリオネアがイギリスを去りました。

それまでは、共産党の締め付けを嫌って中国を去る富裕層、先進国でのビジネス展開を狙ってインドから去る富裕層が多かったのですが、不名誉なことにイギリスは流出国ナンバーワンになっています。この傾向はしばらく続くでしょう。

紛争を嫌って、ロシアやイスラエルを去る富裕層が増えているというのも、この数年間の特徴で、この note の本題であるUAEの今後を考えるに当たっても参考になってきそうです。

図表3 ミリオネアの流出入の大きい4か国 (Henley & Partners)


イギリスや中国を去る富裕層の受け皿の1つとなっているのがUAE(アラブ首長国連邦)で、2025年には9,800人のミリオネアがUAEに移り住みました。特に2022年以降、つまりコロナ禍が一服し、リモートワークも一般的になった中で、欧州との時差の小さいUAEの人気が高まり、一気に移住者が増えていきました。

10年前まではアメリカが最大のミリオネア(100万ドル以上持っている富裕層)の流入国でした。ただ、アメリカの内向き化も相まって、富裕層にとっての魅力は後退しつつあります。

  • 2014年発効の外国口座税務コンプライアンス規制

  • 政治的、感情的な要因。トランプ政権の誕生

  • 治安の悪化。外国人にとっての住みにくさ

  • NYなどの伝統都市のインフラの老朽化

UAEの国家戦略

UAE(アラブ首長国連邦)は7つの首長国により構成されている連邦国家です。特に、首都が置かれ原油の清算も多いアブダビ首長国、金融や観光の盛んなドバイ首長国、文化の中心のシャルジャ首長国などが有名ですね。

それらの中でも、周辺国よりも石油埋蔵量が少なく、早ければ2030年代に原油が枯渇してしまう可能性のあるドバイ首長国で、1980年代から脱石油依存のための観光・金融などの産業育成が始まりました。外国人誘致政策のその一環で、外国人の子息のための教育インフラの整備も進められました。

何より大きいのは、所得税も相続税もゼロという制度で、資産を守りたい富裕層にとって、魅力の移住先だと言えます。

図表4 UAEとその周辺国

改めて、図表2を参照しながら、UAEへのミリオネア(100万ドル以上持っている富裕層)の流入状況について確認していきましょう。

2025年に9,800人のミリオネアがUAEに移り住みましたが、その資産規模は630億ドル(約9.7兆円)にも上ります。UAEのGDPの11.1%に相当する額で、国全体に対するインパクト(つまり発言権も)小さくなかったと言えるでしょう。

UAEには全体で116,500人のミリオネアが住んでいますが、その約30%が(図表3の統計がある)2014~2025年にUAEに移住してきた外国人です。統計のない2013年以前に移り住んできた外国人や、UAEに移住後に相続を受けて富裕層の仲間入りを果たした親族についてもカウントすると、UAEに住むミリオネアの半数は外国人なのではないでしょうか。

ただ、2026年2~3月の米国・イスラエルのイラン攻撃を機にUAEの恵まれた環境が一変します。

攻撃への報復として、イランから周辺国の米国関連施設に対して攻撃ドローンが発射されました。(封鎖で問題となった)ホルムズ海峡から200㎞のところにあるドバイも例外ではなく、ドバイの街から外国人が脱出し、街の一部がゴーストタウン化したとも言われています。

この note を執筆している2026/4/18時点で、米国とイランとの間で和平再交渉が行われる予定となっており、今後、どのような展開になるかは読みにくい状況です。ただ、このように紛争に巻き込まれやすい地勢の国に外国人の富裕層がとどまり続けるかというと、微妙なのではないでしょうか。

今回のアメリカも参加しての攻撃でも、イランが数十年にわたって構築してきた地下数百メートルのミサイル・ドローン基地網を破壊することはできなかったと言われています。

米軍の猛攻を耐え抜くイラン「地下500mミサイル要塞」の全貌、トランプの誤算と終わらない戦争(1/5) | JBpress (ジェイビープレス)

アメリカは今回に懲りて中東から距離を取り始めるのかもしれませんし、イランは核開発を10年間ほど停止させるのかもしれません。ただ、アメリカにも簡単に屈しないイランの底力が確認された訳で、イスラエルにとってイランはこれまで以上に脅威と映るのでしょう。この2国間(イランとイスラエル)の緊張が今後も続くという想定の中で、UAEに住む富裕層は決断を迫られていくことになります。

外国人に人気の移住先になるには

実は日本にも、2024年に400人、2025年に600人のミリオネアが移り住んできました(図表2)。2025年の資産流入額は31億ドル(約4,800億円)と小さくありません。整ったインフラ、歴史と文化、治安の良さなどに加えて、円安により外国人の移住費用が抑えられたことも後押ししたのでしょう。

人口減少がリスクとなる中で、今後も海外の富裕層、或いは高度人材を惹きつけていくには、何が必要となるのでしょうか?

世界の富裕層ではなく米国人全般を対象とした調査になってしまいますが、引退後に移住したい国のランキングが発表されています。

ランキング上位の国を見てみると、ある程度物価が抑えられ、治安が良く、魅力的な文化が根付いていることがアピール材料になっていることが分かります。加えて、英語で医療・教育といった公共サービスを受けられることも、移住者にとって重要な判断材料になってくるようです。

図表5 米国人に人気の移住先 (International Living)

高市政権は、外国人が日本に永住する際の条件に「日本語能力」を加える方針を示しています。

外国人の永住要件に日本語能力を追加・収入基準も設定、法制度学習プログラムを創設…政府基本方針 : 読売新聞

これは、「日本語、或いはやむを得ない場合は英語」に緩和してもいいのではないでしょうか。

一方で、外国人が日本文化や法制度を包括的に学ぶためのプログラムの受講や、マイナンバー制度や医療保険への加入の義務付けも進められる方向のようで、これは日本人と移住してくる外国人の双方にとって良いルールのように映ります。

まとめ

UAEのドバイ首長国は、2030年代に石油が枯渇するリスクを念頭に、1980年代から脱石油依存のための国家戦略を進めてきました。金融や観光の振興に加え、海外の富裕層を誘致する政策も、ドバイを中心にUAEの経済を大きく押し上げたと言えるでしょう。ただ、イランとアメリカ・イスラエルの問題もあり、黄色信号が灯り始めています。

いよいよ人口減少の影響が出始めている中において、日本も国家戦略の再定義を求められています。移民政策は、その重要な一角と位置付けられています。各国が富裕層や高度人材を取り合う世の中で、日本が苦戦することも想定されてますが、悲観材料ばかりではありません。

日本は宗教色が薄く、ウクライナのように宗教を理由に国内が割れてしまったり(モスクワ聖庁系 vs. キーフ聖庁系)、中東のように隣国との争いが複雑化するリスクは低いと言えます。中国が台湾に伸長して日本のシーレーンが脅かされるリスクはありますが、韓国をすっ飛ばして日本本土に直接的に攻めてくるリスクは低いのでしょう。相対的に見れば、日本は外国人移住者にとって平和な土地と言えるのです。

注記


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