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民事不介入という言葉が、人を殺すとき【ストーカー犯罪の闇①】

私がこの原稿を書きはじめたのは、ある若い女性が命を奪われたニュースを目にした夜だった。

「またか」と、心が冷えるような思いを抱いたのと同時に、私は思った。

これは、かつて私が現場で何度も目にしてきた“悲劇の型”だ。

被害者は助けを求めていた。通報もしていた。
けれども、何かが遅かった。
「民事不介入」という言葉が、またひとつ命を遠ざけたのだとしたら———

元刑事として、今だからこそ伝えたいことがある。
それは制度の問題だけではない。
「自分は大丈夫」と思ってしまう、
私たち一人ひとりの“認識の甘さ”にも、問いを差し出さなければならない。

本シリーズ「沈黙のリアル」では、
現場で出会ってきた数多くの事件、そして人間模様のなかから、
誰かの「守る力」になるかもしれない言葉を、綴っていきます。


■川崎ストーカー殺人事件から見える、制度の限界と個人の備え

警察法第2条(警察の責務)
警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締りその他公共の安全と秩序の維持に当たることをもってその責務とする。

警察職務倫理の基本
1 誇りと使命感を持って、国家と国民に奉仕すること。
(以下省略)

〇ストーカー規制法

2000年11月、わが国では、ストーカー行為等の規制等に関する法律、いわゆる「ストーカー規制法」が施行されました。

この法律制定のきっかけとなったのは、その前年に埼玉県桶川市において発生したストーカーによる女子大生殺害事件で、当時21歳の女子大生・猪野詩織さんが、元交際相手の男を中心とするグループから執拗なストーカー行為を受け、桶川駅前で殺害されるという実に痛ましい事件でした。

〇民事不介入

この事件は、当時被害者が何度も警察に相談していたにも関わらず、警察は「民事不介入」を理由に一切取り合わず、その後「刑事事件」に発展してしまって初めて捜査を開始した、そんな警察の捜査怠慢が招いた重大事件として扱われました。
結果、埼玉県警では、懲戒免職を含む15人の警察官が処分され、裁判では被害者に対する国家賠償責任が認められるなど、警察による一大不祥事として世間を驚かせたのです。

〇それでもなお起きるストーカー事件

そのような経緯でストーカー規制法が施行されたにも関わらず、その後もストーカー事件は後を絶たず、警察庁の統計によると、令和5年のストーカー行為等に係る相談件数は全国で1,444件、前年比約20パーセント増加、同法違反による禁止命令は96件で前年比約60パーセントもの増加を見せるなど、その件数は年々増加の一途をたどっています。

そんな中、またしても悲惨なストーカー殺人事件が起きてしまいました。

先月30日、神奈川県川崎市の住宅から、昨年12月から行方不明になっていた岡崎彩咲陽さん当時20歳の遺体が一部白骨化した状態で見つかり、これを受け神奈川県警は元交際相手で神奈川県川崎市に住む白井秀幸容疑者(27歳)を死体遺棄容疑で逮捕しました。

この事件は、被害者の岡崎さんは行方不明になる以前から、白井容疑者との交際トラブルを警察に相談しており、更には行方不明後も家族により警察に対し捜索願いを出したものの、県警からは「事件性はない」と言われ、それ以上取り扱ってもらえなかったと報じられています。

また、岡崎さんが行方不明になる約一週間前には、自宅付近をうろつく白井容疑者と思われる男の姿が映像に収められていたり、前日には警察に何度も110番通報をしている記録が残っているなど、これらの数少ない情報を見ても、桶川ストーカー事件のように、この事件は、またしても警察の捜査怠慢が招いた結果により引き起こされてしまったのではないかと言わざるを得ない、そんな思いを抱かせる事件となってしまいました。

〇民事不介入はウソ?

そもそも「民事不介入」とは一体どういうことなのでしょうか?
この言葉は広く国民に認知され、私も現場において民事不介入を理由に捜査を拒否されたり、協力が得られなかったりした経験はたくさんありました。

本来、警察は刑事事件の捜査を主な職務としており、商業契約や賃貸契約、雇用に関する労働契約などの民事事案には介入しないのが基本です。
しかし、この「民事不介入」という言葉、実は、規則でもルールでもなく、ましてや法律により直接規定されたものでもなんでもなくて、具体的な対象が極めて曖昧な、単なる法理なのです。

これは非常に重要なことで、一般の国民はもちろん、警察官の中にも誤解している人がたくさんいるので、特に良く知っておいて欲しいことなのですが、その経緯や意味は非常に法理論的で長くなってしまうのでここでは割愛するとして———。

それでも、あえて違う角度から説明すると、ストーカー規制法やDV防止法などの特別法の制定を受け、従来「民事不介入」とされていた領域、特に男女交際にまつわるトラブルや家庭内暴力には、警察は積極的に介入するべきであって、その領域では民事不介入の原則は必ずしも絶対的なものではないということなのです。

〇個人におけるストーカー対策

民事不介入の原則が、必ずしも男女間のトラブルに当てはまるものではないということがお分かりいただけたところで、それでは次に、本稿のテーマでもありますストーカー被害に対してどのような対策を取るべきなのか、詳しく説明します。

またお会いしましょう!

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