ゆっくり、ゆっくり。
「早くしなさい!」
「あー、忙しい忙しい」
「掃除ができんから片付けなさい!」
私の母がいつも
言っていたこと。笑
母は家事をする時、いつも急いでいた。
私たちの寝る時間が遅くならないように。
少しでも長く一緒に遊ぶ時間を取れるように。
1分でも長く
座って休憩する時間が取れるように。
忙しなく家中を動き回って家事をする。
そんな母を見て育ってきた私は
どこか頭の中に
家事は急いでするもの
という概念が染み付いていた。
家を出て、
はれて一人暮らしが始まってからも
家事のやり方すら、ままならない癖に
洗濯物を早く畳むこと
料理をサラッと作ること
掃除をパパっとすませること
そんなふうに
素早く家事を終えられることこそ
正義なんだと思い込み、
誰も見ていない1人の部屋で
テキパキテキパキと
1分、1秒を惜しんで家事をこなしていた。
そんな生活は長いこと続き、
社会人となり、結婚して妻となったあとも
とにかくテキパキと家事を急いでいた。
不妊治療を経て子どもを授かり、
育児を頑張る最中も
家事はテキパキの呪いは解けない。
テキパキ動きたいのに
子どもは泣く。
洗濯物を畳みたいのに
畳んだはなからぐしゃぐしゃになる。
寝ていた我が子が起きてしまって
料理は中途半端に終わってしまう。
赤ちゃんを抱っこ紐にいれたまま
テキパキお風呂掃除なんかできるわけない。
テキパキの呪いは
どんどんと私の心と体を蝕んでいった。
全然上手くいかない!
全部が中途半端なまま!
私ってこんなに家事が下手だった?
テキパキの呪いは
私をどんどん惨めにさせた。
そんな私の呪いを解いてくれたのは
娘のお手伝いだった。
いつしか成長して
私の真似をする事が好きになった娘。
言葉も上手く話せないのに
私の動きをよく見て
私の後をついて同じことをやっている。
ある時、洗濯物を畳んでいたら
隣に座った娘も同じように
洗濯物を畳み始めた。
ゆっくり、ゆっくり。
ひとおり、ひとおり。
決して綺麗とは言えないけど
それはそれは一生懸命で丁寧な作業だった。
そんな娘にお手本を見せるべく
私の動きも娘に合わせて
ゆっくり、ゆっくり。
ひとおり、ひとおり。
「ママ、じょーず!」
なーんて褒めてくれる娘に
思わずにっこりしちゃう私。
ある日は
朝から掃除機がけ。
後ろからフローリングワイパーを持って
追いかけてくる娘。
娘を置いていかないように
速さを合わせて
同じところを何度も掃除機を滑らせる。
ゆっくり、ゆっくり。
ひとあし、ひとあし。
時間をかけた分、光って見える床の木目。
ついてくる娘の満足そうな顔。
私の呪いが緩んできた。
料理だって、
掃除だって、
洗濯だって、
別に急がなくたっていいじゃん。
ゆっくりと丁寧につくる料理は
いつもより美味しく感じた。
ゆっくりゆっくりと丁寧に干した洗濯物は
シャンとして、
太陽のいい匂いがしている気がした。
ゆっくりゆっくりゆっくりと
掃除機をかけた朝は
いつもより空気が澄んで清々しい気分になった。
テキパキ済ます家事もかっこいいけれど、
ゆっくりと丁寧にやる家事は
ほのぼのして気持ちがいい。
ソファの上のひざ掛けをパパっと畳まず、
ひとおりひとおり、丁寧に合わせてみる。
床に転がったおもちゃ達をサッとしまわず、
ひとつひとつ、丁寧にカゴに戻してみる。
なんだかバタバタして
心が急いでいる、そんな日こそ
慌てない慌てない。
ゆっくりでも大丈夫。
ひとつずつで大丈夫。
急がなくてもいいんだよ。
娘はもう保育園に通いだし、
一緒に家事をする時間は減ったけれど
私はもう
テキパキの呪いに縛られることはなくなった。
まだ歩かない下の息子との時間。
家事をする時は、今日できることを
ひとつひとつ済ませていく。
ゆっくり、ゆっくり。
ひとおり、ひとおり。
ひとあし、ひとあし。
テキパキの呪いはもう解けた。
