『ホラーが書けない』 へんぺん。登場するときアヤカシは工夫している【Web小説】
『アヤカシも、あの手この手で努力する』
『第一印象』または『初対面』をどうとらえている?
「第一印象は大切だから好感がもてるようにしないと」
「初めて会ったときは〇〇〇だったのに」
こんな台詞を聞いたことがあるから重要な位置を占めることがわかる。
第一印象で悩む人は多く、「良い印象をもってもらいたい」「覚えてもらうためにインパクトを与えたい」と初めは前向きに考える。
ところが途中から、「いや、待てよ。失礼なやつだと思われたらどうしよう」「悪目立ちになるかも」と慎重になっていく。
最後には、「人と同じことをしたほうが無難だ」と安全・安心を優先して、テンプレート的なものを選択してしまう場合が多い。
配慮された初対面は「悪くはない」になるけど、社交辞令のようで心に響きにくい。
これまでいろんな出会いがあったけど強烈なものなんてそうそうない。ところが意表をついた出会いがあった。
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東京の通勤電車はヤバイ。
とくに朝のやつ。
車両内はみっちりと乗客が詰まっていて、入りきれずドアからこぼれている。それなのに走ってきて、さらに乗りこもうとする人がいる。
いやいや、乗るのは無理でしょうと見ていたら、なぜか乗車できてしまう摩訶不思議な通勤電車。これはマジックか……?
東京に住んで数年になるというのに満員電車は克服できない。だから通勤のピークとかぶらないよう早く家を出て空いている電車を利用している。
こんなふうに満員電車を回避しているけど、仕事開始まで時間が余ってしまう。そこで職場近くにあるカフェに入り、カフェラテを飲みながら読書をするのが日課になっている。
店内に流れるBGMが心地よく、ゆっくりすごせて気持ちに余裕ができる。せわしい一日が始まる前なのでとても贅沢な時間に感じられる。
本に夢中になっていたらセットしていたスマートフォンのアラームが鳴り、会社への移動指令をだしてきた。
アラームを止めて支度をしながらこれから始まる仕事への意欲を高めていく。気合を入れたら店を出て会社へ向かった。
会社までは徒歩10分の距離だ。途中にあるコンビニで買い物をすませてオフィスビルが並ぶ街路を通る。すると上から何かふってきた。
突然、背にモノが乗っかった感覚を受け、体勢が崩れて足がもつれそうになるのをこらえた。
肩から肩甲骨あたりに乗っかってきたナニカ。それはとても奇妙だった。
何が奇妙かって……
乗っかっているモノは質量がある物体ではなかったからだ。
背中に風圧を受けて体が沈む―― そんな衝撃を受けただけなら、変わった突風が吹いたのだろうとなる。ところがおかしいのだ。背中には楕円の形状をしたモノが乗っている感覚がある。
背のほうへ視線を向けたけど何も確認できない。でも背中にナニカが乗っている感覚はある。物の重さを感じないから巨大な風船を背負っているようなイメージがわいた。その瞬間、コイツは妖だと理解した。
いきなりのことで思考はフリーズし、足は止まったままだ。背中に落ちてきた妖は、おぶさるような感じで背中にいる。何をするわけでもなく背にいて、動く気配はまったくない。ただただ乗っかっている……。
妖は数秒、背中にいた。そのうち風船が浮いていくかのように徐々に軽くなっていき、すうっといなくなった。
どうしてなのか理由はわからないけど、自分は幽霊や妖怪などの妖からラブコールを受ける。
これまで妖から腕を引っぱられるという、ワンパターンなナンパを何度か経験してきた。慣れすぎたせいでもう怖いとは思えず、邪魔するなと怒りを向けてしまう。
お決まりのアプローチをしてくる妖たちだったが、今回は変わった手段を取ってきた。登場が突然すぎて、乗っかられたときに思わず「おふっ!」と声がでて、そのまま固まってしまった。
いつもなら怒るところだけど不意打ちすぎて思考停止に陥り、状況がのみこめたころには妖は消えていて、怒るタイミングを完全に逃してしまった。
奇妙なことが起きたのに、周りはいつもと変わらず会社へ向かうビジネスパーソンが行き交っている。深呼吸して気持ちを落ち着かせ、止まっていた足を動かして通勤の波に乗った。
アイツは前にナンパしてきた妖なのだろうか?
それとも初対面の妖か?
どっちにせよ、新しいアプローチのしかただ。オフィス街のなんのへんてつもない街路で足を止められたことに感心してしまう。
「やるなあ。気を引きたかったのなら大成功だ」
やり方に問題はあるが、妖も工夫しているようだ。
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片々(へんぺん):
きれぎれになっているさま。
紫桃のホラー小説『へんぺん。』シリーズより
壱 「電車内の強引なナンパにご注意」
弐 「登場するとき妖は工夫している」
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