シラーのないあなたを愛す
つけていると「なんていう石?」とよく聞かれるピアスがある。
雫形の、ムーンストーンのピアスだ。

フックとフレームは金メッキではなく真鍮でできていて、ニュアンスがある。
ムーンストーンといえば、月明かりを映したような乳白色の石として有名だ。内部で光が反射することで、「シラー」と呼ばれる青みを帯びた筋が浮かび上がる。
ただ、わたしの持っているピアスのムーンストーンは、シラーがまったく出ないものだ。透明感も高くないため、ただの白っぽい石に見える。片栗粉を溶かした水のような、とろみを感じる色合いが気に入って購入した。
この独特の色合いが「それはなんていう石?」という質問を引き出しているようだ。確かに、ムーンストーンと聞いて真っ先に思い浮かべるような、透け感のある色ではない。
でも、わたしはこの「らしくなさ」に惹かれた。シラーも浮かばない、透明度も低い、色むらも、そしてたぶんインクルージョン(内包物)もある。そんな個性的な表情を見せるこの石だからこそ手にとり、自分のものにしたいと思った。
完全で完璧な、ムーンストーンらしいムーンストーンは探せばきっと見つかる。
けれど、わたしはムーンストーンとしては欠点とも言えるかもしれない表情を魅力的だと思った。この味わい深さは、完全無欠の個体にはきっと出せない。
わたしたちの暮らしにはいつの間にかAIが入り込み、それを使いこなすのは当たり前のこととなった。文章にしてもイラストにしても、欠点の少ない完成品が短時間で誕生する。規格を満たすものなら簡単に入手できる世界を、わたしたちは生きている。
そんな今、愛嬌たっぷりの表情を見せるこのムーンストーンがかわいくてたまらなく感じる。わたしが見たいのは、要件をどれだけクリアしているかではなく、目の前のそのものだけが持つ表情なのだと思う。
「よくできたもの」はこれからますます増えていくだろう。それでもわたしは不揃いなものや色のりのよくない石に惹かれるに違いない。その子だけの個性がわたしを呼びとめる。
これからもこのピアスは「それ、なんていう石?」と聞かれるのかもしれない。そして、わたしは「ムーンストーンです」と答えるたび、心の中で「ムーンストーンらしくない、この子だけの表情が好きなんです」と続けるのだろうと思う。
