だから、大丈夫が心配なのよ
そんなわけないでしょう、と思うじゃないのさ。
誰がどう見ても「大丈夫」なんかじゃなさそうなのに、「大丈夫です」って答える人、いるじゃない。
そういう人を見るたび、放っておけないのとおせっかいしちゃいけないっていうのと、気持ちが板ばさみになっちまうんだから、困っちゃうわよ。
あんな出来事があったのに、大丈夫なわけないでしょ。あんな言葉を投げつけられて、大丈夫なわけないでしょ、って。心が騒ぐっていうの? 気になって仕方ないわけよ。
こう見えてあたしにも、大丈夫だって無理して言い続けた過去があるっちゃああるのよ。うんと昔、事件に遭って怪我をしたときよ。
加害者が逮捕されても、実刑になったって聞いてもダメだったね。他人の運転する車に乗れなかったり、背後から足音が聞こえると震えが止まらなくなったりさ。今の世のなかじゃ「トラウマ」って言われるああいうやつだよねえ。
そういうとき、優しい人たちが「大丈夫?」と声をかけてくれたのよ。「大丈夫? つらかったら頼ってね」って、言ってくれた。
なのにあたしったら、なにかをプレゼントするみたいに相手に「大丈夫」を繰り返してたのよね。
「大丈夫です!」とか言っちゃってさあ。
感謝の気持ちもこめてたからさ。あたしなんかを心配してくれて、ありがとう。そして、心配させるようなあたしでごめんなさい、ってね。
それにさ。
あることないこと言う人や、本人の過失っていうの? そういうふうに結びつける人がいたのよ。痴漢に遭った人が「派手な格好してるからだ」なんて言葉を浴びせられることがあるっていうじゃないの。派手な格好してても、してなくてもね。似たようなことがあたしにだって何度もあったのよ。
そんなだから、大丈夫と言ったほうがいいんじゃないかって、思ってた。相手を心配させちゃいけない。あと、ダメージを受けているなんて言ったら、もっと傷つく言葉が飛んできそうでこわくもあったね。
そうこうしてるうちに、あたしもなんだかんだ生き延びた。あたしのムチャに気づいてくれて、そっと手を差し出してくれる人がいたからね。
見たらわかると思うけどお金はないさ。でもね、今となっては心は元気だし、家族もいる。たくさん心配をかけた周りの人たちとか友達には、感謝してもしきれないってもんよ。
だから、大丈夫って言う人たちが心配なのよ。
「ほんとうに大丈夫? 『大丈夫じゃない』って叫んだって、心ある人はあなたを責めないよ」って言ってあげたいわよ。
だってさ、あのときのあたしはもしかしたら「ほんとうは大丈夫なんかじゃないんじゃない?」って、誰かにすくいあげてほしかったんだと思うのよ。
そういうこと。あたしは無理してまで大丈夫って言っちゃう人を放っておきたくないのよ。
……あんたのことに決まってるでしょ。さっきから大丈夫大丈夫って、どう見ても大丈夫じゃないでしょうよ。
言ってみなよ? 楽になるかもしれないよ。そりゃ、こんなあたしじゃどれだけ力になれるかわかんないけどさ、ちょっとは頼りになるんじゃないかと思うんだ。言わないよりはきっと楽だしね。あたしが保証する。
なんだって聞くし、多少のことじゃ驚かない。
そりゃそうよ、なんのためにこーんな図太いおばさんへと成長したと思ってるのさ。いつかの恩をどこかの誰かに返すためさ。
ペイフォワード? 横文字の言葉はよく知らないけどねえ。まあ、とりあえずコーヒー飲みなよ。うちのキリマンジャロは格別だよ。
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以上、昭和感あふれる喫茶店(夜はスナックになる)のママになりきって書いてみました。あくまでもわたしのイメージするキャラクターではありますが、大昔の映画でこんな愛すべき人を見た気がします。
今まさに、ママの気っ風よく、あたたかな口調の勢いを借りたいと強く思っているところです。
大丈夫じゃないなら言ってみて、と。
