見出し画像

さよなら9センチ

最後まで置いていた、ヒール高9センチのパンプスを処分した。

今年9歳になる双子の娘たちを妊娠する前に買った、10年以上前のものだ。妊娠前のわたしは、9センチヒールのパンプスを日常的に履いていた。そのなかの一足だった最後のそれは、ほとんど履いておらずきれいな状態であることと、デザインがとても気に入っていたことから処分できずにいたものだった。

そうは言っても今は暮らしぶりが変わり、9センチヒールのパンプスを履く機会はまったくない。パンプスはぴかぴかの状態のまま、この家に入居したころと同じ場所にずっと鎮座していた。

現在、つくりつけの下駄箱に多く収まっているのは、ヒール高5センチ以下のいわゆるローヒールパンプスたち。ほとんどは2、3センチヒールだ。4足だけ、7センチヒールのものがある。

そして、娘たちの靴も少しずつ増えている。長いこと活躍させられていないわたしのハイヒールを置いておくスペースがなくなってきた。

悩んだ末、9センチヒールのパンプスとお別れすることにした。そっと薄紙に包み、生活ゴミ用のポリ袋に入れた(わたしの住む自治体では生活ゴミでいいそうだ)。

ゴミの回収車がまわってきたとき、ほんのりせつなかった。小柄なわたしが精一杯の虚勢を張るためにも、かつて必要としていたハイヒール。エフォートレスな装いが主流になる前だったから、細いスタックヒールはおしゃれの仕上げによいアクセントを添えてくれた。それが、ゴミとして回収されていった。あの高さのヒールを履くことは、たぶんもうない。

最近のわたしは、ローヒールパンプスを履いて動きまわっている。普段は2センチヒールのビジューパンプスをデニムに合わせる。取材の日は、スーツやジャケットに3センチヒールのシンプルな黒、またはときどきベージュのパンプスというスタイルだ。どれも安定感がありながらきっちりとした印象を与えるので重宝している。

「走ろうと思えば走れるパンプス」、それが最近のわたしの定番だ。しかし、昔の相棒だった9センチヒールをふっと懐かしく、愛おしく思い出すことがある。

ずっと出番のなかった9センチヒールは、妙に気高く、しゃなりとしたさまで下駄箱に収まっていたなあ、と思うのだ。それは、ずいぶん無理をして生きていた過去のわたしそのものだった気もする。

もう少し先、娘たちがヒールのあるパンプスに興味を持つようになったら、「ママも昔、ああいうの履いてたんだけどねえ」と9センチヒールを指差そうと思っている。


いいなと思ったら応援しよう!