その香水瓶から香るのは
きれいに整えられた部屋の奥に、ドアがあったとして。そのドアが薄く開いたところからわずかな光が洩れていたら、向こうをのぞいてみたくなる。
香水瓶の蓋の隙間からほのかに香りがしても、つい嗅ぎたくなる。私には、インテリアグッズとして香水瓶をよく買っていた時期がある。ディスプレイ用にと購入していたけれど、ほんとうにそこにパルファムを入れていたらもっと夢中になっていただろうと思う。
「このなかには、なにかある」。そう感じるとき、胸騒ぎのように心が動くことがある。
今朝、喫茶店に行ったらマスターが「おはようさん! 久しぶりやね、ホットでいい?」と聞いてくれた。営業用の、パッと明るい笑顔だ。
でも、カップにコーヒーを注ぎ終えたあと、アンニュイな表情で横を向いたマスターの様子が、つい気になってしまった。細くため息までついている。「どうかしました?」と聞くのもぶしつけに思われて、私はなにも言わなかったものの、今も心に引っかかっている。
「見せる」んじゃなくて、「見える」はこんなにも人の心をざわつかせる。
ふだんは明るい人の顔に浮かぶかげりや、いつもポジティブな人の頼りなげな表情ほど気になるものはない。逆に、一見暗い印象の人がときどきパッと顔を輝かせるのも。
私にもいろいろあるように、この人にもきっといろいろあるんだろうなあ。そう思うと、相手を思いやる気持ちに深みが出る気がする。
実際の生活のなかで、相手のプライバシーに立ち入ることは極力避けている。たぶんマスターにも、表情をくもらせた理由を聞くことはないと思う。
でも、noteでほかの方のエッセイを読むのは大好きだ。
香水瓶から香りが漏れてきているのを感じるからかもしれない。誰かの「香り」に触れられる場所。心の奥にそっと抱える思いに近づける場所。それが私にとってのnoteなのかもしれないな、と思うことがある。
