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書評:小説「ペスト」(1947年) アルベール・カミュ (1913~1960年) 著 (新潮文庫)

「ペスト」とは何か?

『ペスト菌(Yersinia pestis) による伝染病。元来齧歯類(ネズミの仲間)に流行する病気で、人間に先立ちネズミなどで流行が見られることが多い。そのネズミの血を吸ったノミに人が血を吸われ、刺し口からの菌の侵入や、感染者の血痰などに含まれる菌を吸引することにより感染する。かつては高い致死率の病気で、罹患後皮膚が黒くなることから「黒死病」と呼ばれ恐れられた。14世紀の欧州では大流行により全人口の三割が死亡したという』


あらすじ

北アフリカのフランス領アルジェリアの地中海に面した港町「オラン」で194X年4月に始まったネズミの大量死に続く市民のペスト感染拡大と完全な都市封鎖、感染爆発に伴う医療崩壊と大量の死者に接した市民の人心荒廃、ペストと戦う保健隊の活動をめぐる登場人物の心情や考え方の変容を経て、苦難の末に感染収束し翌年2月に開放を迎えるまでの10ヶ月間に及ぶ記録という体裁をとる長編小説である。

行政の対応の遅れと都市封鎖

主人公ベルナール・リウー医師によるペスト発生の警鐘に対するオラン市の行政の対応は遅く、市の対応に先んじて、中央政府による唐突な都市封鎖を招いてしまう。市から出ることも、市に入ることも禁じられ、まさに市民全体が巨大な牢獄に閉じ込められ、先の見えない「自宅への流刑」 を強いられた状態となるのである。

市民の混乱と保健隊の組織

封鎖された都市の中で、利己的な行動に出る者、享楽に走る者、金儲けに利用する者、デマや迷信に惑わされる者、封鎖を破って市外への脱出を企てる者など様々な人々の醜く愚かな姿が描かれる。

この混乱のさなかで、感染拡大を阻止するためリウー医師や盟友ジャン・タルーを中心に保健隊が組織される。しかし保健隊の活動も空しく、感染の爆発は抑えられず、深刻な医療崩壊の結果、死者の数は際限なく増え続けていく。感染者の苦悶と無残な死の描写が恐怖を呼び起こす。

迫りくる死の影

死者の増加の結果、ついに遺体の処理の限界を超え、大量の死骸を片端から大きな縦穴に投げ捨てざるを得なくなる悲惨な状況が描かれる。そして物語の前半には考えも行動もバラバラだった登場人物たちが、危機的状況が頂点に達するにつれ、次第に一致団結して活動するようになる。

しかし物語の後半には、その登場人物たちも無情にも次々とペストに斃れ、いったい誰が最後まで生き残ることができるのかわからない、予断を許さない緊迫した展開となっていく。

スーパーヒーローはいない

この物語には「失敗しない」スーパーヒーローは存在しない。それどころか、登場人物の語る、ペスト禍に巻き込まれる前の人生においても、またペストの渦中での行動においても、多くの失敗と挫折と後悔の連続である。しかし、それらに屈することなく、地べたを這うように前へ進もうとする登場人物たちの姿が、読者に静かな感動を呼び起こすのである。

解放の日

やがて長いペスト禍も次第に収束を迎え、物語の最後に描かれる都市封鎖からの解放の日に訪れる喜びと悲しみのさなか、市内で突発する銃撃事件の意味するものは何であろうか。

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