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【物語】ここは猫の街ミルミア1-19〜ミコとあめじいちゃんと不思議なランプ

ミルミアには「学び場」があります。
そこでは、子猫たちが生きていくための大切なことを学びます。
今日はそんなミルミアの学び場で学ぶミコのお話。


日曜日の朝。
ミルミアの広場の掲示板の前には、子猫たちが集まっていました。

「今週のミルミアの学び場のお知らせだ!」
新しい紙が貼られると、みんな一斉にのぞき込みます。

《ミルミアの学び場より今週の授業のお知らせ》授業日 時間      場所   担当教師
火曜日 10:00-12:00  古代の森      コトハ
木曜日 10:00-12:00     ゆらぎの丘 アルベール
持ち物は特にありません。
みなさんに会えるのを楽しみにしています。

「えーっと……」
「火曜日は古代の森!」
「木曜日は……」
「ゆらぎの丘!あめじいちゃんの授業だ!」
「ほんとだ!」
子猫たちの顔がぱっと明るくなります。

「あめじいちゃんの授業大好き!」
「きっと楽しいよ!」
「授業で会おうね!」
みんな手を振りながら、それぞれのおうちへ帰っていきました。


それからミコは、毎日思いました。
(まだ火曜日……)
(まだ水曜日……)
(早く木曜日にならないかなあ)

パン屋 ひげのオーブン でトトのお手伝いをしながらも、ミコの頭の中は学び場のことでいっぱいです。


そして木曜日。
ゆらぎの丘には、もうたくさんの子猫たちが集まっていました。 


木の枝に登っている子。
草の上でころころ転がっている子。
友達と追いかけっこをしている子。

丘の上はにぎやかな声でいっぱいです。

すると、
「おやおや」
やさしい声が聞こえました。

「今日はずいぶん元気な風が吹いていますね」
白とグレーのハチワレの小さな猫。
丸い縁のメガネをかけたアルベール先生です。

「あめじいちゃん!」
子猫たちは先生のまわりに集まりました。

その日の授業も、とても楽しいものでした。
丘の草を調べたり、
風の音を聞いたり、
みんなで考えたり。

子猫たちは笑ったり、
驚いたり、
いろんな顔をします。

気がつくと、
「あっ」
「もうお昼!」
あっという間に時間が過ぎていました。

丘が少し静かになったころ。
アルベール先生がぽつりと言いました。

「覚えておいてくださいね」
先生はメガネを少し上げて続けます。

「幸せは、どんな時でも私たちの中にあります。」
「どこかからやってくるものではないのですよ。」

子猫たちは顔を見合わせました。
「え?」
「どういうこと?」

ミコは首を傾げました。
レオは少し考えこんでいるようでした。

すると先生はふっと笑いました。
「さて」
先生はポケットをごそごそ探ります。

「今日もよく学びました」
「これはごほうびです」
ころころとキラキラした透明な飴を取り出しました。
陽の光に当たるとよりいっそうキラキラ輝きます。

「わあ!」
子猫たちはぱっと顔を輝かせました。

先生は一つずつ配っていきます。
「はい」
「どうぞ」
ミコもころんとした飴を受け取りました。
「ありがとう、あめじいちゃん!」
甘い味が口いっぱいに広がります。


お昼ごはんは、パン屋 ひげのオーブン。

トトと一緒に食べていると――

「ミコ!」

レオがやってきました。

「今日の授業でさ……」

「先生が最後に言ってたこと、気になって」

「聞きに行こうと思うんだ」

「ミコも来る?」

ミコの目がきらっと光ります。

「いく!」

トトはにこっと笑い、
「それなら」とりんごのデニッシュを用意しました。
「みんなで食べておいで」 
「やったー!」
「いこう!」


ミルミアの少しはずれにある森。
とても大きな木のうろの家。
アルベール先生はここに住んでいます。
幹にはドアがついていて、少し上には丸い窓があります。

「こんにちはー!」
レオがドアを叩きます。

「はいはい」
ドアが開きました。

「おやおや」  
アルベール先生が目を細めます。
「ミコさんと、レオさんいらっしゃい。」

ミコは包みを掲げました。
「トトがくれたの!りんごのデニッシュ!」
先生の目がきらっと光ります。

「それは素晴らしい」
「では、おやつの時間にしましょう」

木の中の部屋には本がたくさんありました。
上のほうまで本棚があり、古い本も並んでいます。

コーヒーのいい香り。
ミコとレオにはミルクを出してくれました。
テーブルにはりんごのデニッシュ。

レオが話し始めます。
「先生」
「今日の授業で言ってたこと……」
「幸せは、どんな時でも私たちの中にありますってどういうことですか?幸せって、例えばあめじいちゃんが飴をくれたから嬉しくて幸せだな、とか今日は仕事が早く終わったから幸せだなとか、なんかいい事があって幸せって感じるものだと思っていました。」

先生はコーヒーを一口飲みました。
そして言います。
「確かにそれも幸せの形ですね。時に幸せは意外なところにかくれんぼしているのです。」
「では、質問です」
「もし雨が降ったらどう思いますか?」

ミコは言いました。
「やだ」
レオも言います。
「港の仕事が大変になる」

先生はうなずきました。
「そうですね」
「でも、ある猫はこう思うかもしれません」
「今日は水たまりで遊べる日だ」

「たしかに!そうだね!」
ミコは笑いました。

「さて、わざわざここまで来てくださったのですから面白いものを見せてあげましょう。」


それは小さなテーブルランプでした。

木でできた丸い土台。
その上に、透明なガラスのドームがあります。

「この土台に手を置くと、触った人の気持ちが光になるのです」

「え?」

ミコは思わず身を乗り出しました。


まず、あめじいちゃんが手を置きました。

すると、ランプの中で光がゆらりと動きます。

次の瞬間――

天井いっぱいに、灰色の光が広がりました。

まるで重たい雲が流れるように、
暗い影がゆっくり、ゆっくりと動いていきます。

ころん、と小さな飴が地面に落ちる音が聞こえた気がしました。

ひんやりとした風が、部屋をなでていきます。

ミコは思わず、ぎゅっとしっぽを体に巻きつけました。

「これは……」

レオが小さく言います。

「悲しい気持ちの光?」

先生は静かにうなずきました。


「では、もう一度」

先生が手を置いた瞬間――

さっきまでの冷たい空気が、
ふわっとほどけていくようでした。

ーーやわらかな金色の光。

天井いっぱいに、小さな星が弾けるように広がります。

きらきら、きらきら。

オレンジ色の光が、水面のようにゆらゆら揺れて、
さっきまでの冷たい空気を、やさしく包み込みました。

「わ……」

ミコは思わず息をのみました。

壁には、光る飴がくるくると回りながら浮かび、
そのまわりに、花のような模様の飴袋がふわりと広がっていきます。

さっきと同じ“飴”なのに、
まるで違う世界みたいでした。


先生はにっこり笑いました。

「同じ出来事でも、心の向け方で見える世界は変わります」

「それをどう見るかで、世界は変わるのです」

ミコは、まだきらきら揺れている天井を見上げました。

さっきの灰色の光と、今のあたたかい光。

どちらも、同じ出来事から生まれたなんて――
なんだか不思議で、少し楽しくなりました。


帰り道。

森の小道を、ミコとレオは歩いていました。

風が木の葉をゆらしています。

「ねえレオ」

「なに?」

「もし雨が降ったらさ」

ミコは空を見上げて言いました。

「今日は空がお花にお水あげてる日って思うことにする!」

レオはくすっと笑いました。

「それ、ミコっぽいな」


するとミコが、ぱっと振り向きます。

「あとね!」

「今日ね、もう一個幸せ見つけた!」

「なに?」

ミコは少しだけ声をひそめて、にっこり笑いました。

「レオとこうして同じ時間を過ごしていること」

レオは一瞬きょとんとして、それから少し照れて笑いました。

「……おれも」


そのとき遠くの広場から夜の歌が聞こえてきました。

「いこう!」

二匹は走り出します。

少し先を走りながら、ミコは小さくつぶやきました。

「また一つ見つけちゃった」

それから、ちょっとだけ振り返って――

「……これは、ないしょ」

ミコはそう言って、くすっと笑いました。

レオは首をかしげながらも、つられて笑います。


読んだあと、あなたもひとつでも「小さな幸せ」を見つけてもらえたら嬉しいです。

ここは猫の街。



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