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壺を割ったらパンが追いかけてきた〜ここは猫の街ミルミアシリーズ2-7〜

ここは人間には内緒の猫だけの街、港町ミルミア。
のんびり気ままな街。

2本足でのそのそ歩き、
ポカポカ陽気に誘われてお昼寝したり。
そんなミルミアには今日も朝から香ばしいパンの香りが広がります。

この街では珍しく
毎日朝早くから営業している
パン屋【ヒゲのオーブン】


パン屋の店主、トトはパン作りが大好きでした。

焼き上がったパンの香ばしい香り
焼きたてのほわほわの湯気
つやつやしてころんとした可愛い見た目
それを手に取るお客さんの嬉しそうで幸せそうな顔
おいしいって声
お腹が満たされるあたたかな幸せ

パン作りが生み出すその一つ一つがトトは大好きでした。

焼き上がる前の工程も同じくらい愛おしく思っています。

材料を混ぜたばかりの時は
ベチャベチャ
ベタベタネトネトしてまとまりがありません。
根気よく力を込めてこねていくうちに
少しずつまとまり、
表面はなめらかにつるんとしてきます。

小さく切り分けられてから丸められたあとは
可愛くならんで
オーブンに入る為の準備。
発酵する為の部屋に入っている様子を時折覗く。
ふくふくと大きくなって、
取り出すとふるふると震えて。

取り出して少し乾かしたら
照りを出すための溶き卵を表面に優しく撫でるようにぬって。

熱くて強い火をたたえたオーブンへ入れて一気に焼き上げる。

パン作りは力仕事も多く、時間との勝負でもあります。
発酵を待つ間に次の生地も仕込み、
流れるように作業を進めていかなければなりません。

昔、誰かが言いました。
「パンは生き物だ」
と。

少しでもタイミングがずれると発酵が進みすぎてしまって
甘さや旨みがぬけて
焼き上がりもしわっとしてしまいます。
一つ一つの工程に正確さとスピードがもとめられます。

また、その日の気温や湿度によっても状態が変わります。
よく見て、よく感じて
見極める事が大事でした。

でもそういった難しさも含めて
トトはパン作りが大好きでした。

さらに今は

「焼き上がったパンお店に並べてくるね!」

「チーズフランス焼き上がりましたー!」

ミコも一緒に手伝ってくれます。

「トトー!こないだの星めぐりパンとても美味しかったですって言われたよー!」

ミコの嬉しそうな顔にトトは目を細めます。

パン作りの嬉しさを分かち合う仲間もできて、
より一層パン作りが大好きになっていました。


「こんにちはー!きたよー、なんか食わせてくれー!」
「エイベル!いらっしゃい。リンゴカスタードパンが焼きたてだよ。もう少し待ってくれたらハムチーズパンが焼き上がるよ。」

古道具屋の店主エイベルとは昔からの遊び仲間でした。今でも仲が良く、お互いの店をしばしば行き来しています。

「いいね、少し待つことにするよ。どっちも食べたい!」
「私もお腹空いてきちゃった!一緒に食べよ!」
「いいよ!今日天気もいいから広場のベンチで食べない?」
「わーい!そうしよー!」
「あれ?エイベルそれなに?」

ミコはエイベルが何か手に持っていることに気がつきました。
「そうだった!見せようと思ってさ!古代の森で拾ったんだよ。」
「んん?なにかなあ?つぼ??ちいさいねー?」
「壺だよね、蓋しまってるけど。なんだかわかんないけど綺麗だよね!」

エイベルが持ってきたのは
手のひらに収まるくらいの小さな壺でした。
色とりどりの宝石で装飾され、古代文字が模様として描かれています。

「ハルハネの壺ににてるけど、こっちの方がずっとカラフルだねー!」
「ああ、前古代の森で見つけたって言ってたっけ。今はコトハさんのとこにあるんだよね?今度見せてもらおうかな」
「ぐぐぐ…あかない」
「あかないよねー。少し重たいからなんか入ってそうで気になるんだけど…」
「ぐぐぐ…あっ」


ツルッ

ーガシャンッ

ミコが両手で引っ張っていたら
つるんとすりぬけて床に落としてしまいました。

「わあー!ごめんなさい!」
「いいよいいよ。怪我してない?ちょっと片付けるからそこ動かないでね。」

ちょっと借りるよー、とトトに言うと
エイベルはささっと割れた壺を片付けました。

「大丈夫かい?ハムチーズパンやけたよ、お待たせしました。」

「わーい!ミコ、広場行こっか!」
「うん!」

「壺空っぽだったね…」
「だねー。なんか入ってるかと思ったのにね!」

エイベルがそう言い終えると

ぽとんっ

音のした方を振り向くと、
パンが一つ落ちていました。

「え?」
ミコが首を傾げて見ていると

とて…

とてんっ…

とてとて…

「え!ええええっ!!?」
「あ、足が生えてるっ」

パンがミコ達の方へ
歩いて近寄ってきました。

「こ、こっちこないでーっ!」

とてとて…
とてん

次の瞬間、
店中にあるパンが一つ残らず立ち上がりました。
そして一斉にミコめがけて走り始めました。

「きゃああああ!?なんでパンが追いかけてくるのー!?」

とてとてとてとて!! 

びっくりしたミコはエイベルと一緒に外へ飛び出しました。
走っても走っても追いかけてきます。

「ちょっと待ってー!え?え?なんで!?」

トトの声もむなしく、パンはミコをぐるぐる追い回します。

「エイベルなんとかしてー!!」

「無理無理!俺も初めて見た!!」
走り続けて広場の噴水がみえてきました。

「もうやだー!」
ミコは噴水の中にバシャーンと飛び込みました。
一番先頭を走っていたパンも同じ勢いで飛び込みました。

すると、今まで追いかけてきていたパン達は
静かに広場に散らばっているだけになりました。

「とまった…?」
「大丈夫ー!?」
パン達の後ろから追いかけてきていたトトがやっと追いつきました。

「なんかわかんないけど、とまったみたい…」
「なんだったんだろうな?」

トトは、広場に散らばったパンを見つめました。
さっきまでつやつやだったパンは、砂にまみれてぐしゃぐしゃです。

「ああ…」

小さく、息がこぼれました。

「大丈夫かい?ほら、おいで」
トトは噴水の中で尻餅をついているミコに手を貸し
起こしてあげました。


そして噴水の中に一つだけ飛び込んだパンを見つけると、そのすぐそばでバシャバシャと水飛沫が上がっている事に気がつきました。

よくみると何かが
手足をばたつかせています。

トトは両手でそっと掬い上げて助けてあげました。
「大丈夫?」

丸っこくて、
ふわふわしていて、
手足が生えている羽の生えたちいさな
初めてみる生き物。

「かわいいー!なんだろうこの子?」
「あ!さっきの壺にそいつに似た絵が描かれてたよ!」
「壺?さっき割れたやつ?きみ、壺に閉じ込められてたの?」

優しくトトは話しかけます。
「とりあえず店に戻ろうか。ミコとこの子をあっためてあげないと。それにお腹すいたよね。」
「エイベルは広場に散らばったパンを片付けてくれる?はちみつパンをサービスするからさ」
「いいよ!急いで片付けてパン食いに行くよ!」


小さなその子は、トトの手の中で
トトの顔をじっと見上げていました。

店に戻ると、
トトはミコとその小さな子をタオルで拭いてあげて、
ここであたたまるといいよと言ってオーブンのそばへ連れて行きました。

「さ!気を取り直して次のパンを焼くよ!ちょうどいい時間だ!」

ミコとその小さな子は
トトの流れるような見事なパン作りを見つめていました。

「さあ、召し上がれ!」

ふわっふわで
ほかほか
とても心が満たされます。

「…おいし」
小さな声がポツリとこぼれました。

「わ、しゃべった!」
「話せるんだね。もう大丈夫かい?さっきはびっくりしたね。」

その小さい子はトトをまっすぐ見つめると
「…ごめんなさい。」
「え?どうしたの?」
「こんなに美味しいパンで遊んで…ごめんなさい」
「え!あなたがパンを走らせてたの!?すごっ!」

トトは少し考えて
「そっか、君の仕業だったんだね。」
「びっくりしたし、悲しかったけど…きっと楽しかったんだよね」
「これからは、僕のパンをちゃんと味わってくれるお客さんになってくれるかい?」

俯いていたその小さな子の
目が輝きました。

「いいの!?ありがとうー!」
嬉しそうにとびまわりました。


その日以来、パンが走り出すことはなくなりました。
そのかわりに、レジの前には、いつも小さな可愛いお客さんがいます。
今日もひとつ、嬉しそうにパンを頬張っていました。

ここは猫の街。


マガジンにまとめました!
ここは猫の街シリーズ2(連載中)はこちら↓

ここは猫の街シリーズ1全20話➕おまけはこちら↓





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