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【物語】ここは猫の街ミルミア1-17〜ハルハネの壺〜

ミルミアの街に
やわらかな春の風が吹きはじめました。

広場のベンチで
ミコとガルフが話しています。

「今日はあったかいね。」

ミコが空を見上げました。

「うん。
春って感じがするな。」

ガルフはしっぽをゆらゆらさせました。

「春ってうれしいよね。」

「うん、うれしい!」

そこへ——

「やあ。」

トトが歩いてきました。

「トト!」

ミコが手をふりました。

「ちょうどね、
春だねーって話してたところなんだよ。」

トトはにこっと笑いました。

「そうだね。
春といえば、今の時期にしか見られない
面白い形の草が森に生えるんだ。」

「面白い形?」

ミコの目がきらっと光ります。

「どんな草?」

「先っぽがね、
くるんって巻いてるんだ。」

「見たい!」

ミコはぴょんと立ち上がりました。

ガルフも言いました。

「行こうぜ。」

こうして三人は
森へ向かいました。

森に入ると
土のにおいと春の風がしました。

すると——

木の根元で
土を掘っている猫がいました。

丸いメガネをかけた
白とモカ色の猫。

ミルミア図書館の司書、
コトハです。

コトハは丈夫なエプロンをつけ、
長靴を履いていました。

腰には
小さなスコップやブラシなど
発掘の道具がたくさん下がっています。

「こんにちは!」

ミコが声をかけました。

コトハは顔を上げて
にっこりしました。

「やあ、みんな。」

「トトがね、
面白い草があるって教えてくれたの!」

トトが言いました。

「くるんと巻いてる草。」

コトハはうなずきました。

「それは
はるくる草だね。」

「はるくる草?」

「春になると出てくる草なんだ。」

ミコは興味津々です。

「コトハさんは何してるの?」

「発掘調査だよ。」

コトハは言いました。

「古代ミルミアの猫たちが
残したものを探しているんだ。」

「楽しそう!」

ミコが言いました。

「手伝う!」

ガルフも笑いました。

「おれもやる。」

こうしてみんなで
土を掘りはじめました。

しばらくすると——

コツン。

ガルフのスコップが
何かに当たりました。

「ん?」

ガルフは首をかしげました。

「石かな。」

もう一度掘ろうとしたとき

「待って。」

コトハが言いました。

「スコップは使わない方がいい。」

コトハは
小さなブラシを取り出しました。

「こういうときは
やさしく土を払うんだ。」

サッ
サッ

土が少しずつ落ちていきます。

すると

丸い形が見えてきました。

「……壺だ。」

さらに土を払うと
若草色の壺が姿をあらわしました。

壺の真ん中には
ぐるりと一周する模様。

くるんと巻いた草。

壺を囲んで歌う猫たち。

舞い上がる光の粒。

そして
羽のある猫。

壺のふちには
花や草の形のような
かわいらしい古代文字。

その文字は
歌の楽譜になっていました。

コトハはメガネをくいっと上げました。

「これは……
とても古いものかもしれない。」

図書館で調べてみると
壺にはこう書かれていました。

儀式の名前。

ハルハネ

薬液の材料。

その中には
はるくる草もありました。

そして
歌のタイトルと楽譜。

さらに
絵で描かれた
儀式のやり方。

でも——

その儀式で
何が起こるのかは
書かれていませんでした。

ミコが言いました。

「やってみよう!」

みんなは森で
はるくる草を探しました。

くるんと巻いた
小さな春の草。

それを使って
壺の中で薬液を作ります。

森のひらけた場所に
壺を置きました。

壺のふちには
花や草の形のような
かわいらしい古代文字。

それは
ハルハネの歌の楽譜でした。

コトハは言いました。

「この歌を
歌うみたいだね。」

みんなは
壺のまわりに集まりました。

そして
壺に刻まれていた
古い歌を歌いました。


ハルハネの歌

我らミルミアの民

長き冬を越え
あたたかき風 いま満ちたり

野には色うまれ
森には新しき芽 目覚めたり

このぬくもりを
この色どりを
この芽吹きのよろこびを

我ら この身に受けん

さあ 歌わん
さあ 集わん

春の光のもとに

我ら
ハルハネとならん


歌が終わったそのとき——

壺の中から
光の粒が舞い上がりました。

ピンク
黄色

春の花のような光。

「わあ……」

ミコが手を伸ばしました。

光が
ミコの背中に触れました。

そのとたん

ふわっ。

「え?」

ミコの体が
少し浮きました。

「え?え?」

足が地面から離れます。

「ちょっと!
なんか浮いてる!」

ミコの背中には
光の粒が集まって

きらきらした羽が生えていました。

「ミコ、羽……!」

トトが言いました。

ミコは空中で
くるんと回りました。

「わーーー!」

でも次の瞬間

「……あれ?」

ミコは空に
ふわっと浮いたままです。

そして顔が
ぱあっと明るくなりました。

「とべる!!」

ミコは森の上を
くるくる飛びました。

「すごい!
すごいよこれ!」

トトも
ガルフも
コトハも

光の羽で
空を飛びました。

森の上を
ふわり
ふわり。

みんなで
大笑いしました。

やがて
羽の光はゆっくり消えていきました。

森の地面に降りたトトは
空を見上げました。

遠い昔——

この森で
同じ歌を歌いながら
空を飛んだ猫たちがいた。

そのことを思うと
胸がふんわりあたたかくなりました。

「春って、
むかしからずっと
うれしいものなんだね。」

トトがそう言うと、

ミコはにっこり笑いました。

森には
新しい芽が顔を出し、

やさしい春の風が
吹いていました。

人間の世界でもそろそろ春が訪れていますね。
あなたが1番春を感じるのはどんな時ですか?

ここは猫の街。



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