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金魚のまちの本屋とほんで、のほほんに出会えた幸せ

そこが「目的地」になる本屋さんがある。

noteでその存在を知り、ずっと行きたいと思い続けていた私は、仕事が早めに片付いた午後、奈良・大和郡山に向かいました。

昭和そのままの風情を残す商店街に、ひっそりと佇む本屋さんの名は「とほん」。「◯◯と本」のように、本を通じてさまざまなものごとが広がるように……そんな願いが込められたお店は、静かに優しく本とのつながりが生まれる場所でした。


「奈良」を感じる心地よい本との時間

「近鉄郡山駅」を降りると、そこはまるで子どもの頃にタイムスリップしたかのような懐かしい風景がありました。

昔ながらの喫茶店や雑貨店が軒を連ね、地元の方々がのんびりとおしゃべりをしている。昭和生まれの私にとっては、なんだか心和む瞬間です。

「とほん」がある「柳町商店街」の看板
もう「文化財」と言っていいほど
このレトロ感は長い年月にしか作り出せない

そう、大和郡山市といえば金魚のまち。
毎年夏には全国から猛者が集う「全国金魚すくい選手権大会」が開催されるほど。まちの至る所で、金魚の姿を見かけます。

私も子どもの頃、金魚を飼っていました。いつもはピョコピョコ泳いでいるのに、餌を見るとガツガツ食らいつく。その変わり様が面白く、飽きず眺めていたものです。

マンホールにも金魚
子どもの頃、飼っていた金魚を飽きず眺めていた

商店街を歩くこと5分ほど。
元畳屋さんを改装したという「本屋とほん」は、うっかり通り過ぎてしまいそうになるほど、周囲の風景に溶け込んでいます。

「とほん」の正面

大手チェーンの書店員だった店主が、2014年に開いた小さな独立系書店。格子になっている扉の向こう側には、おしゃれだけど、「まちの本屋さん」のような親しみやすい雰囲気に溢れています。

「とほん」の店外
格子の一部が扉になっていて、ちょっとだけ探した

書棚には、穏やかな空気を纏った個性あふれる本がズラリと。

「大切に持っていたくなる本」という、流行とは別の時間軸で選ばれた本がどれも私の好みで、のっけからワクワク感が加速します。

目にとまった本を手に取りながら、書棚を旅する感覚。
奈良の作家さんの作品など、他ではあまり見かけない一冊との思わぬ出会いがあります。

お店の外でフワフワしている紙の金魚

「のほほん」と暮らしたい

私が訪ねた日は、奈良県在住の国語の先生で詩人・西尾勝彦さんによる「詩の展示と小さなにしお書店」が開催中。手書きの詩の展示や、西尾さんお気に入りの本が販売されていました。

西尾さんの何とも良い具合に力の抜けた筆跡。
そして思わず手に取った一冊が「のほほんと暮らす」でした。

西尾勝彦「のほほんと暮らす」七月堂

表紙をめくるとそこは、「のほほん」だらけ(笑)
目次だけで心のコリコリが取れていくのを感じます。
いろんなことに追われる毎日。そうだ私に足りないのは「のほほん」なんだ!とまだ読んで無いのに勝手に共感。気づけばレジへと進んでいました。

本を買うと貰える特製しおり
なんて素敵な言葉…

奈良を訪れるたびに感じる、ゆったりとした時間の流れ。
京都のどこか洗練された雰囲気とはまた違う、素朴で温かみのある安らぎの時が、ここ「とほん」にも流れていました。

奈良っていいな。
改めてそう思えた、かけがえのないひとときでした。

お店の前にも金魚

大和郡山と私をつないでくれた「とほん」

実はこれまで、大和郡山を訪れたことが、一度もありませんでした。

私にとって奈良は「もうひとつの故郷」と呼べる大切な場所です。
学生時代は遺跡の発掘に明け暮れ、社会人として歩みはじめた場所。

そして転職して離れてからも、折に触れては「帰ってくる」場所。
今でも奈良に訪れるたびに、あの頃の初々しい気持ちが、気恥ずかしさを伴いながら私の胸に蘇ってきます。
そして、このまちに流れる緩やかな時間は、いつも私の心を癒してくれます。

奈良市内はもちろん、橿原や明日香、御所(ごせ)そして十津川村まで……。県内のほぼ全域を巡ってきた私ですが、なぜか大和郡山だけはぽっかりと空白のままでした。

「本屋とほん」は、そんな私の空白地を優しく塗り替えてくれました。

「とほん」を出た通路にも金魚たちが

そこに行くことに価値がある書店

片道1時間をかけて本屋さんに行く。
自宅でポチッと世界の本が買える時代に、とっても無駄なことのように思えるかもしれません。

でも、本当に良いものは影を潜めている。
まるで波間に漂う小舟のように、危うげにでも力強く、この世界に息づいています。

そんな一編と出会えるのが、小さな書店の選書です。

素敵な文具との出会いも
活版印刷をされている「九ポ堂」さんが、ライフ社の紙で作ったノート。
表紙の絵にグッときて思わず手に取った。

大型書店やネットでは目立たず埋もれてしまいがちな、ほのかな光を抱く本との邂逅には、心にパッとあかりを灯す感動があります。

砂漠の中に一粒のダイヤを求めるよりも、手のひらにあるいくつかの小石から、一番愛おしく思えるものを選びたい。

それほどに、私たちは限られた時間しか持ち合わせていないのです。

中のさし絵もいい!

「本屋とほん」は、まさにそこに行くことに価値がある。そんな本好きにとってかけがえのない場所でした。

これからも、人生の傍らにそっと置いておきたくなるような一冊との出会いを楽しみに、この場所を訪れたいと思います。

背表紙も可愛いよ

『のほほんと暮らす』は、京都へ帰る電車の中で読み終えてしまいました。全然「のほほん」としていない私。

この本は思想書でも、啓発本ともちょっと違う。例えるなら、ひなたぼっこをする猫を眺めながらうたた寝する午後のような、澄んだ言葉が優しく心を温めてくれる実用書でした。

ここに記された「のほほん生活の種子」を植えてみることにします。読み終えるのは1時間でしたが、その種が芽吹き、花開くまでには、きっと1年くらいはかかりそうです。


本屋とほん
奈良県大和郡山市柳4-28
営業時間 |11:00-17:00 
定休日|木曜
https://to-hon.com

店主は開店する前に、京都にある「レティシア書房」さんに相談したんだそう。
京都とのつながりに嬉しく思った

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