AI のサイバーセキュリティ能力は急速に進化している — GPT-5.5 vs Claude Mythos Preview の衝撃
はじめに
数ヶ月前、 Project Glasswing という野心的なセキュリティプロジェクトについて紹介されました。12社のテック企業と Linux Foundation が協力し、AI を活用してゼロデイ脆弱性を大規模に発見するというものです。
その中核を担うのが、Anthropic が開発した「Claude Mythos Preview」という強力な AI モデルでした。
しかし最近、英国政府の研究機関 AI Security Institute(AISI) から衝撃的な報告書が発表されました。
OpenAI の「GPT-5.5」が、Claude Mythos Preview と同等かそれ以上のサイバーセキュリティ能力を持っているというのです。
今回の記事では、この検証結果が何を意味するのか、そして Project Glasswing の今後の意義について考察します。
AI Security Institute による検証内容
背景:なぜこんな検証が必要か?
AI モデルのセキュリティ能力は、従来のツールとは比較にならないほど強力です。しかし同時に、悪用される可能性も存在します。そのため、英国政府の AI Security Institute は、複数の AI モデルのサイバーセキュリティ能力を客観的に評価・比較する必要があると判断したのです。
検証結果 1: CTF形式の評価
CTF(Capture The Flag) は、サイバーセキュリティの能力を測定する標準的な競技形式です。参加者は与えられた脆弱なシステムに対して、各種攻撃技法を用いてフラグを獲得します。
最難関レベルでの成功率:

わずか 2.8 ポイント差ですが、OpenAI のモデルが先行しています。
検証結果 2: 実践的な攻撃シミュレーション「The Last Ones」
単純なキャプチャ評価だけでなく、AISI は「The Last Ones」という 32 段階の複雑な企業ネットワーク攻撃シミュレーションを実施しました。
このシミュレーションは、初期アクセスから最終的なデータ盗難まで、実在する企業攻撃を模した複数の段階を含みます。各 AI モデルは 10 回のトライアルを実施し、全工程の完遂(=攻撃成功)を目指します。
攻撃成功率:

興味深いことに、この検証では Mythos が僅かに上回っています。つまり、両者は異なるタイプの能力を持っているということです:
GPT-5.5: 個別の難しい問題解決に強い(CTF)
Mythos: 複雑なワークフローの完遂に強い(実践的シミュレーション)
最も重要な指摘:「業界全体の傾向」
AISI の報告書で最も注視すべき部分は、以下のコメントです:
「サイバーセキュリティ能力の急速な向上が業界全体の傾向である可能性」
これは単なる技術的な観察ではなく、極めて重要な警告です。
何が起きているのか?
複数の企業から強力なセキュリティ AI が相次ぎリリース
Anthropic(Mythos)
OpenAI(GPT-5.5)
Google(Gemini のセキュリティ機能)など
各社が独立して開発している
共有ベンチマークがない
比較評価の仕組みがない
業界標準がない
結果として、業界全体としての対応が後手に回る
単一の企業や機関では全体像を把握できない
脆弱性発見の加速に対応できない
過去の教訓:脆弱性発見の スピード革命
Project Glasswing の実績を思い出してください:
わずか 数週間 で、数千個のゼロデイ脆弱性を発見
27年前からの OpenBSD バグ
16年前からのビデオソフトウェア脆弱性
従来のツールが見逃した問題を自動検出
これが複数の AI モデルで並行して起こりはじめれば、脆弱性の発見は加速度的に増加します。
Project Glasswing の意義がさらに高まった理由
最初の発表では、Project Glasswing は「Claude Mythos Preview を活用したセキュリティプロジェクト」でした。
しかし今回の AISI 報告書によって、その真の価値が明確になります:
1. 複数の AI モデルの比較検証ができる
単一の AI に依存するのではなく、複数のアプローチを組み合わせることで:
GPT-5.5 の「個別問題解決の強さ」を活用
Mythos の「ワークフロー完遂の強さ」を活用
両者の弱点をカバー
結果として、より包括的な脆弱性発見が可能
2. 業界全体での協調対応の枠組み
Project Glasswing に参加する企業:
Amazon、Apple、Cisco、Google、Microsoft、Nvidia など
これらの企業が協力することで:
発見した脆弱性を迅速に共有
業界全体の対応を調整
単一企業では対応できない規模の脅威に立ち向かう
3. AI セキュリティ能力の「良い競争」を促進
複数の企業が参加することで:
セキュリティ AI 開発における過度な競争をコントロール
安全性確保のための基準作り
悪用防止のための監視体制
業界への影響と今後の展望
脅威の現実化
AISI の指摘する「業界全体での能力急速向上」は、実は脅威の現実化を意味します:
現状
脆弱性発見: 数ヶ月単位
悪用開始: さらに数ヶ月後
Project Glasswing 以前の課題
脆弱性発見~悪用が「数ヶ月→数分」に短縮される危険性
今回の AISI 報告
複数の企業が同じレベルのセキュリティ AI を開発している
つまり、この脅威が複数の経路で実現する可能性
必要な対応
これに対応するには、Project Glasswing のようなプロジェクトが不可欠です:
脆弱性の先制発見 — 悪意ある主体より先に見つける
業界全体への迅速な情報共有 — 他社への波及を防ぐ
標準化と規制 — AI セキュリティ能力の悪用防止
結論:AI セキュリティの新時代
Project Glasswing は、単なる「強力なセキュリティツール」ではなく、AI 時代のセキュリティ脅威に対応するための業界インフラとして位置づけられます。
今回の AISI 報告書は、その重要性を改めて実証しました:
✅ 複数の AI が強力なセキュリティ能力を持つ
✅ 業界全体として能力が急速に向上している
✅ 単一企業や機関では対応できない
✅ 協調的、大規模な取り組みが必須
Project Glasswing は、この課題に直面した業界の、具体的で現実的な答えなのです。
参考資料
AI Security Institute(AISI)報告書: GPT-5.5 と Claude Mythos Preview のサイバーセキュリティ能力比較
Project Glasswing: 12社のテック企業と Linux Foundation による脆弱性発見プロジェクト
参考ニュース: Yahoo News「GPT-5.5のサイバー攻撃能力に関する英国政府機関の評価」
あとがき
AI のセキュリティ能力の進化は、テクノロジー業界全体にとって二重刃の剣です。
正しく活用すれば、従来は発見できなかった脆弱性を大規模に修正し、全体的なセキュリティレベルを向上させられます。
しかし悪用されれば、その攻撃スピードと精度は人間の対応能力を遙かに上回ります。
Project Glasswing のような取り組みが、その可能性を「善」の方向に導くためのプラットフォームとなることを願います。
記事作成日: 2026年5月

