AIが選んだ攻撃目標、正解率はわずか25%だった
Vol. 34 2026年4月
時事レポート〜AIが戦争の主役になる時代〜 by 筒美佳一郎
アメリカによるイランへの軍事作戦は、インフラ破壊や要衝への攻撃が続く一方で、トランプ政権が早期終結を示唆するなど、緊迫した局面が続いている。
早期終結を図りたいトランプ大統領は、軍事作戦の目標は「完遂間近」であるとし、数週間以内に作戦を終える見通しを示し、48時間の一時停戦を提案した。
しかし、イラン側は「攻撃を継続する」として応じない姿勢を見せており、依然として沈静化の兆しは見えない。
アメリカ軍は、今回の対イラン軍事作戦において、ターゲットの選定や分析を加速させるために最先端のAIシステムを本格的に導入した。
ウクライナ戦争は「ドローン戦争」と呼ばれるほど、この分野で劇的な技術革新が起きている。電波妨害(ジャミング)で操縦不能になるのを防ぐため、目標をロックオンした後は、AIが自動で追尾・突入する技術(AIによる自律飛行)が実戦投入され、わずか数ヶ月単位で技術が進化し続ける異例の状態にある。
イスラエルとハマスの衝突においても、AIは「標的の選定」と「攻撃の高速化」という側面で劇的な進化、あるいは実戦での大規模な運用が行われた。
これまでの戦争と異なるのは、AIが単なる補助ツールではなく、膨大なデータから「誰を、どこを攻撃すべきか」という意思決定の根幹に関わっている点である。
1. 導入されている主なシステム
① Maven Smart System (プロジェクト・メイブン)は、パランティア社が開発したソフトウェアで、衛星画像やドローンからの膨大な監視データを解析し、攻撃対象のリスト作成や優先順位付けを支援している。
② アンソロピック社の生成AI「Claude」などの大規模言語モデルがMavenに統合され、インテリジェンス分析や作戦立案の最適化に使用されている。
2. AI導入による変化と影響
AIの活用により、米軍は24時間以内に1,000件以上のターゲットを攻撃することが可能となった。従来の人間による手動の選定プロセスに比べ、分析スピードが劇的に向上し、ターゲットの特定から破壊までの時間が数秒単位にまで短縮されている。
こうしたシステムの高速化に伴い、人間による十分な検証が追いつかず、イラン国内の学校などが誤って攻撃対象に含まれており、専門家から「道徳的空白」への警鐘が鳴らされている。
3. 誤爆と民間人被害の懸念
AIを使用した攻撃における「誤爆の確率」については、軍事機密のため公式な統計数値は公表されていない。しかし、イランに対する軍事作戦や過去の事例から、システム上のエラー率や現場での犠牲者数に関する断片的なデータと深刻な懸念が報告されている。
① システム上の「エラー率」
過去の米軍演習データによると、AI(Maven Smart Systemなど)が戦車を正しく識別できる確率は約60%程度にとどまり、雪などの悪天候下では30%まで低下した例がある。
2021年に行われた米空軍のテストでは、AIが「90%の確信がある」と判定したターゲットでも、実際の正解率は25%しかなかった事例が報告されている。
イスラエルがガザで使用した標的選定AI「Lavender(ラベンダー)」は、約10%のエラー率(無関係な人物を標的と誤認する確率)があることを軍内部で認識しながら運用されていた。
② イラン作戦における具体的な被害例
2026年2月28日、イラン南部ミナーブの女子校が米軍に爆撃され、子供を含む約170名が死亡した。
その原因は、AIが参照したデータが「古い軍事施設情報」のまま更新されておらず、現在の学校という用途を見逃した可能性が指摘されている。
イラン保健省の発表(2026年3月時点)によれば、一連の衝突で既に1,200人以上の民間人が死亡しており、AIによる標的選定の加速が犠牲を増やしている可能性が極めて高い。
③ 確率を高める「運用の落とし穴」
米軍は現在、AIの支援により24時間で1,000件もの標的を攻撃しているが、これは1件あたり数分〜数秒で承認判断を行っている計算になる。
こうしたAIによる判断の高速化により、人間がAIのミスを修正する余裕がなくなっている。もはや人間の能力では、AIがどのようにして判断しているのか検証することが不可能な領域に達しているのである。
④ 付随的被害の許容
一部の運用では、1人の標的を殺害するために「民間人15〜20人(重要標的なら100人以上)の巻き添え」をシステム上あらかじめ許容して設定しているという内部証言もある。
4. 倫理的な懸念
AIが関与することで、戦争の道徳的ハードルが下がることが懸念される。
① 「人間による検証」の形骸化
米軍は「最後は人間が判断する」としているが、AIが1日に1,000件以上の標的を提示する場合、人間は内容を深く確認せず、単に「承認ボタン」を押すだけの存在になる。
② 責任の所在
AIの誤判で誤爆が起きた際、責任はプログラマーにあるのか、指揮官にあるのか、それとも承認したオペレーターにあるのかが曖昧になる(責任の空白)。
③ 戦争のゲーム化
画面上のアルゴリズムに従って攻撃を繰り返すことで、現場の兵士が「命を奪う」という実感を失い、攻撃への心理的抵抗が薄れる危険性がある。
5. AIと人間の判断の決定的な違い
AIと人間の判断の決定的な違いは、「意味の理解」と「責任の引き受け」の有無に集約される。以下、哲学や道徳の観点から、その本質的な差を3つのポイントで整理する。
① 「統計的推論」か「文脈的理解」か
AIにとってのターゲット選定は、ピクセルの集合が過去の「敵」のパターンにどれだけ似ているかという確率計算(統計)に過ぎない。
AIには、その爆撃がその国の歴史や文化、あるいは戦後の民衆感情にどう響くかという「意味」や「文脈」を理解する能力はない。
人間は、目の前の標的が「一人の人間であり、家族がいる」という想像力や、その一撃がもたらす政治的・道徳的な波紋を、自身の経験や価値観に照らして総合的に解釈する。
② 「最適化」か「葛藤」か
AIの目的は、与えられた軍事的目標(例:敵の通信網を80%破壊せよ)を最小コストで達成する「最適化・効率化」である。そこには「これで本当にいいのか」という迷いは存在しない。
人間は、軍事的な必要性と人道的な罪悪感の間で「葛藤」する。この「割り切れなさ」こそが、過剰な暴力を踏みとどまらせる最後のブレーキ(良心)として機能する。
③ 「エラー」か「罪」か
AIが誤爆した場合、それはプログラムの「バグ」やデータの「エラー」として処理される。AI自身が後悔したり、罰を受けたりすることはない。
その一方、人間が判断を下すとき、それは自分の人生や魂を賭けた決断になる。誤った判断で何の罪もない市民を殺害した場合、その重みを「罪」として一生背負い続ける覚悟が、判断の際に緊張感を与える。
以上、AIの判断は「冷たい計算」であり、人間の判断は「重みのある決断」と言える。
現在、イランの軍事作戦で懸念されるのは、人間がAIの提示する 「正解らしきもの」に依存しすぎることで、この「人間特有の葛藤と責任」を放棄してしまうことである。
6. 戦争や国家統治にAIが意思決定する先の未来
国家統治や戦争の意思決定をAIが担う先には、人類がこれまで経験したことのない「超効率的な管理」と「人間性の喪失」が共存する未来が予測される。SFのような話ではなく、現在のイラン情勢や各国の技術動向から見えるシナリオは、以下のとおり。
① 「計算された平和」と「冷酷な最適化」
AIは感情に左右されず、経済損失や犠牲者数を最小化する「最適解」を導き出す。
例えば、政治家のメンツや一時的な感情による無謀な開戦を防げるメリットがある反面、「特定の集団を排除することが国家全体の利益を最大化する」といった、道徳的に許容できない冷徹な計算を正解として提示し、実行に移すリスクがある。
② 瞬発的な戦争の発生
AI同士が意思決定を行う戦場では、人間の思考速度を遥かに超えた速度で事態が進行する。アルゴリズムの連鎖反応により、人間が気づかないうちに数秒でエスカレーションが起き、核戦争を含む全面戦争へ突入するリスクが高まる。
③ 「責任ある主体」の消滅
統治や軍事の判断をAIに委ねることで、失敗した際の「責任」を誰も取らなくなる。「AIがそう言ったから」という言葉が究極の免罪符となり、政治家や軍司令官は自らの良心を痛めることなく、残酷な政策や攻撃を承認する「無責任社会」が到来する。
④ 民主主義の「アルゴリズム化」
「完璧な行政」が可能になる反面、個人の自由が制限される。議論や対話といった「手間のかかる民主主義」が切り捨てられ、AIによる「データに基づいた独裁」へ移行する可能性がある。
以上を踏まえると、AIが意思決定する未来において、最も重要なのは「何が正しいかを定義する権限を人間が保持し続けられるか」である。
AIは「方法」を最適化できても、国家や人類が「どこへ向かうべきか」という目的を決定することはできない。
私たちは、AIという「最強の道具」を使いこなしながら、同時に「あえて非効率でも人間が判断する領域」をどう守るかという、極めて哲学的な課題に直面している。
7. 「人間の役割」として最後まで残すべき聖域
AIがどれほど高度化しても、人間が手放してはならない「聖域」は、「痛みの想像」と「責任の引き受け」の2点に集約されると考えられる。具体的には、以下の4つの役割が人間の最後の砦となる。
① 「なぜ戦うのか、なぜ止めるのか」という目的の定義
AIは「効率的な破壊」や「経済的な安定」の計算は得意だが、「何のためにその国が存在し、何のために平和が必要か」という価値の序列を決めることはできない。
人間は、データの外にある「誇り」「慈しみ」「許し」といった感情に基づき、たとえ数値上の損得に反しても「今は矛を収めるべきだ」と決断することができる(道徳的、哲学的要素を加味した判断)。
② 「他者の痛み」を自分のものとして感じる想像力
AIにとって死者数は単なる「変数」だが、人間にとっては「取り返しのつかない喪失」である。人間は、攻撃ボタンを押す直前に、その先にいる家族や子供たちの生活を想像し、「肌身に伝わる罪悪感」を持つ。この「良心の呵責」というブレーキこそが、無制限な暴力を防ぐ唯一の装置である。
③ 「自分が決めた」と言い切る最終的な責任
AIが導き出した「正解」が悲劇を招いたとき、AIは後悔も謝罪もしない。
人間は、どんなにAIの助言を受けたとしても、最終的な結果に対して「これは自分の責任である」と覚悟する。この責任の所在が不明確になったとき、文明は崩壊へと向かう。
結論は、「人間は迷う存在であり続けるべき」ということである。効率だけで動くAIに対し、人間は「迷い、悩み、葛藤する」という非効率なプロセスを通じて、かろうじて人間性を保っている。この「葛藤」こそが、最後まで残すべき聖域ではないだろうか。
8. 4月のオンラインイベントのご案内
今月は第4火曜の4月28日(火)に開催します。テーマは「魅力」です。
あなたはどんな時に魅力を感じますか?
在り方を探求しているみなさんと一緒に、「魅力」について深めていけたら嬉しいです。
日時:2026年4月28日(火)20:00スタート
形式:Zoom
▶︎ 詳細・お申し込みはこちら
連絡先/問い合わせ先
Peatix経由のメッセージまたは公式LINEアカウント(https://lin.ee/mRiGwEjz)から問い合わせください。
コンパス通信イベントの最新情報をご希望の方は、以下のPeatixページのフォローボタンを押していただくとメールで届きます。
皆さまと学び合えることを楽しみにしています!
