繊細さは、誰かのために使う力
コンパス通信 Vol.35 オンラインイベントレポート〜繊細〜
2026年5月19日(火)開催
繊細について語り合うはずが、気づけばニューヨーク中継、G2構想、幕末、姿勢論まで広がっていました。
でも、その全部がつながっていきました。
ニューヨークの街が、ざわざわしている
冒頭は、出張中の紫藤さんから現地中継。朝7時のグランドセントラル駅から、雑音と人波を背景に5分間のレポートでした。
「今までで一番、光と影の二極化が進んでいるのを感じます」
コンビニで売っているような寿司のパックが20ドル。オレンジジュース1本が10ドル。富のある人にとって住みやすい街であり続ける一方で、本当に行き場を失った方々の姿が、街の中に深く入り込むように増えている。以前のように観光地で目にする方々とはまた違う、生活そのものが立ち行かなくなっているように見える人たちが、街の景色のすぐ隣にいる。
「景色は変わらなくても、街のエネルギーが濁っている。歩いているだけで体が硬くなるような、ざわざわした感じがあります」
グランドセントラル駅で小さく映る人々の姿から、その階層まで読み取る紫藤さんの観察に、筒美さんが「鋭いですね」と返したのが印象的でした。朝なので、労働階級の人々が通勤している時間。ニューヨークを支えてくれている人々です。
時間は、待てる側に味方する
バトンタッチで筒美さんへ。トランプ大統領の訪中の話から。
中国には選挙という時間的制約がない。アメリカには中間選挙がある。成果を出さなければならない側と、待てる側。エネルギー覇権を握ってディールに臨むはずが、イラン情勢が長引いて果たせないまま、訪中ではアメリカが下手に出ているような印象に。
そして会談の中で、トランプ大統領が口にした「G2」という言葉。アメリカ・中国・(ロシア)で世界を勢力圏ごとに分ける構図。アジア圏に位置する日本は、その時どちらにつくのか。
「これは0と言えませんし、可能性は徐々に高まっています」
聞いていて、ぞっとしました。
「検討します」が、すべてを持っていく
話は日本の意思決定の弱さへ。
筒美さんが今コンサルしている大学や企業で聞こえてくるのは、優秀な中国人研究者を採用したいのに、リスクを理由に「検討、検討」で何ヶ月も結論が出ないという話。かつて米中関係が悪化した時にも、日本の本社が判断を引き延ばしている間に、アメリカ企業がバンバン中国市場のシェアを取っていった。
「もし何かあったら、誰が責任を取るのか」
会議でその一言が出た瞬間、場は守りに傾く。みんな責任を取りたくないから、責任逃れのための会議になってしまう。
「肚がない、覚悟がない、決定もできない」
これは幕末の幕府と同じ構造です、と筒美さん。長く続く政権は官僚的になり、決められなくなる。そこで動き出したのが高杉晋作のような若き志士たちで、20代前半でイギリスとの交渉を担い、幕府の交渉官よりも信頼された。彼の何がすごかったかと言えば、「肚が据わっていた」こと。
紫藤さんからは、真田広之さんが『SHŌGUN 将軍』を作ったときの話が。ハリウッドの条件を呑めば楽だったはずなのに、衣装も言葉も所作も、日本のプロに任せると譲らなかった。その信念と覚悟があったから、大ヒットになった。
繊細さは、後ろ向きの言葉ではない
ここで、テーマの「繊細」に戻ります。
繊細な人ほど「繊細だね」と言われると後ろ向きに受け取ってしまう、と紫藤さん。でも本来、見えないものが見え、感じないものを感じられるのは、才能なのだと。
「これは能力だと思っていただくのが、いいんじゃないかなと」
意外だったのは、紫藤さんから「筒美さんって、こう見えてとても繊細なんですよ」と明かされたところ。豪快に現実を切り開いていく印象の筒美さんが、ご本人いわく「部屋の中で何かが曲がっていると気になって直してしまうくらい細かい」のだそう。一人の中に、大胆さも繊細さも両方ある。どちらが強いかの違いがあるだけ。
繊細さがあるから、「言いたいのに言えていない」サインを察知できる。そこに手を差し伸べられる。繊細さの使い道は、自分のためというよりも、誰かのためにある。
姿勢こそが、帝王学だった
後半、筒美さんから「最後にひとつだけ」と切り出されたのが姿勢の話でした。
吉田松陰が松下村塾に至るまで、玉木文之進が徹底的に教えたのは姿勢だった。読書中にちょっとブレるだけでバシッと叩く。蚊に刺されて動かしてもバシッ。「そんなものに気を取られるな」と。
その玉木文之進が教えたのが乃木希典、乃木希典が学習院で教えたのが昭和天皇。学習院で帝王学を受けた皇族と、そうでない皇族の佇まいの差を思い浮かべると、その系譜が今も生きていると感じさせられます。
紫藤さんから、姿勢を矯正する椅子を導入した小学校では「授業中に寝る子がいなくなった」「集中力が全く違った」という話も。武道も、剣道も、書道も、姿勢を正すから入ってくる。
「最も大事なのは、姿勢」
至誠の「誠」と、体の「姿勢」と、両方を整える。繊細であるということは、その細部にまで心を配れるということでもあるのだと。
大胆かつ、細心
クロージング近く、愛さんから一言。
繊細さに困っている人がいるとしたら、英語をしゃべってみたらいいんじゃないか、と。日本語は虫の声まで言葉で聞き分けるくらい繊細な言語で、語彙が多い。英語は語彙数も少なく、ジェスチャーも要る。
「英語をしゃべると、勝手に大胆になります」
繊細な日本語の世界から、いったん外に出てみる。それも、アンテナを下げる方法のひとつなのかもしれません。
そして、その日の全体を貫いていた筒美さんの言葉。
「大胆かつ細心」
決断するときは大胆に。でも足元は、細かいところまで心を配って一歩一歩。繊細さは、その「細心」のほうに直結している才能なのだと、改めて思いました。
次回のコンパス通信オンラインイベントは第4火曜で、
6月23日(火)20時〜。テーマは「季節」です。
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