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大水流れ来りて我が魂にまで及べり。映画「大洪水」を見る(※ネタバレあり)。

もくじ

0.はじめに
1.ストーリー
2.「第四間氷期」
3.「洪水はわが魂に及び」

0.はじめに


大洪水の伝説、神話は、世界中の至るところにあるそうだ。
「ノアの箱舟」は、旧約聖書の記述である。
堕落した人類を裁くため、神が起こした大洪水を生き延びる家族の話。いろいろな動物のつがいが、洪水の収まった地に降り立つ。
大洪水による徹底した破壊とそこからの再生。

1.ストーリー


Netflix独占配信映画。
内容が込み入っていて、ちょっとわかりにくい。

立ち上がる大きな波が高層マンションを繰り返し襲い、水位が上昇する。
AI開発機関の主任研究員でシングルマザーのク・アンナ(キム・ダミ)と一人息子のジャインは、上層階へ、上層階へと逃れようとする。
セキュリティ・チームを名乗るソン・ヒジュ(パク・ヘス)から電話が入る。
小惑星が南極に衝突したことにより、地球規模の大洪水が発生し、人類は今日滅亡する。少数の人間だけが知り、準備を進めてきた。人類の生き残りをかけた種の進化を実現するため、研究をしてもらう。これから迎えに行く。

人間のような体や知能を持ち、生殖も可能な存在を作る技術は完成している。だが感情をもたらす「感情エンジン」が必要であった。研究者であるク・アンナは、実験体、ヒューマン77と生活をともにし、育むことにより子供の「感情エンジン」を完成させようとした。それがジャインであった。
そしてそれは完成しているという設定である。

武装した男たちが、マンションの屋上にヘリで現れ、ヒューマン77を回収する。ク・アンナはヘリと宇宙船を乗り継ぎ、衛星軌道上で母親の「感情エンジン」の開発を引き続き行う。ジャインを失った喪失感を抱きながら。

大洪水に見舞われたマンションから、ク・アンナ自身がジャインを連れて脱出した経験をシミュレーションで再体験する。これが開発プロセスである。何度も繰り返す。
避難の最中にジャインを見失い、あるいは武装した男たちに奪われ、それを探し出す。
失敗すると、最初に戻って何度もやり直す。
何万回も繰り返した後に、ようやく探し出し、追っ手を振り払い、ジャインと一緒になる。

「子」を思うキム・ダミの、険しい表情が美しい。

2.「第四間氷期」


かつて地球規模の海面の上昇と、その環境に適した人類の誕生を描いた小説があった。

安部公房の「第四間氷期」である。1959年に出版された。
人工知能が夢のまた夢であるような時代、計算機を利用した「予言機械」が地球の未来を予測する物語である。
海底火山の活動により、大量の海水が生成され、海水面が上昇、陸地が減少し、人類は生存できなくなる。
そのような未来に備え、人類が海洋環境に適した進化を遂げるため、秘密の機関が研究を行う。環境の変化に適した水生哺乳類、水棲人を人間の胎児を使って計画的に誕生させる。

水棲人は、大気中にいたときの皮膚感触を失い、涙腺などの分泌腺を退化させる。感覚の喪失は、感情を平板にさせる。感情に乏しい水棲人が描かれる。

発表当時は、東西冷戦のただ中で、第3次世界大戦が今にも発生するかもしれないという不安がまん延していた。実際、キューバ危機が発生するのは、小説の刊行の数年後である。その当時の雰囲気が色濃く表れ、ディストピア感の強い、一種グロテスクな作品になっている。

グロテスクと言えば、映画のなかでニューマン77の「感情エンジン」を回収するため、ジャインが捕らえられ、バリカンで髪を刈られる場面がある。武装した男は電動丸鋸を手にしている。なかなかに厳しい場面である。

3.「洪水はわが魂に及び」


映画は、新しい人類の形態を示すことはない。

ク・アンナの上司である部長(チョン・ヘジン)は、母性は最初からあるものではないと、回想の中で語る。感情は、経験によって生まれる。新しい人類にとって感情の存在こそが生存のカギである。

旧約聖書の別の部分には、「神よ願わくは我を救いたまへ、大水流れ来りて我が魂にまで及べり。」という記述がある。

存在そのものが失われる、人類にとっての根源的な危機が迫る。完成した「感情エンジン」を持った母子を乗せてた宇宙船が地表に向けて出発する場面で映画が終わる。人類が進化し、新しい時代を生き延びるために、愛情こそが重要であるというメッセージとともに。

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